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黒頭巾の神撃〜Black hood's divine attack〜  作者: 南斗家那乱下
第一章 地上編

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33/79

VS偽真白

「ふふ。この私によくもまぁ、最愛の真白ちゃんの偽物を用意したわね」


立ち込める漆黒の霧の中から、シロミは冷ややかな笑みを浮かべて歩み出た。その眼前に立つのは、かつての自分と同じように仮面を被り、けれどその姿はシロミが誰よりも愛おしく思っている少女、真白そのものだった。


「私のこと……嫌いなの?」


偽物の真白が、小首をかしげて尋ねる。声の震え、潤んだ瞳、守ってあげたくなるような儚さ。それはシロミがいつも隣で見てきた、本物の真白の写し鏡だった。


「あらあら、真白ちゃんのことは好きよ? それが二人になるなんて、本来ならたまらないわぁ。……でもね」


シロミの周囲の空気が、一瞬で凍り付いた。背後の影が、主の怒りに呼応するように禍々しく膨れ上がる。


「偽物は所詮、紛い物。私の本物の真白ちゃんを傷つけ、その絆を汚そうというのなら……神だろうと何だろうと、一切の手加減はしないわ」


「そうですか。じゃあ……死んでください!」


真白に扮した偽物が、殺意を剥き出しにして地を蹴った。レイピアを正眼に構え、光の尾を引きながらシロミの元へと一直線に飛来する。本物の真白であれば決して見せない、冷酷な必殺の刺突。


「……甘いわよ。私はもう、手加減なんてしない。この子たちと出会って、必ずみんなを天空へ連れて行くと約束したの」


シロミの影から現れた漆黒の巨人が、身の丈を超えるほどの大剣を一閃させる。


キィィィィィン!!


と、鼓膜を劈くような金属音が響き渡り、偽真白の鋭いレイピアを真っ向から跳ね返した。

衝撃で後方へ飛び退いた偽真白に対し、シロミは一歩も動かぬまま、怜悧な瞳で追撃を命じる。


「(……この感触、やはり本物とは程遠いわね。あの子の剣には、もっと迷いと、それを超えようとする想いがあったわ)」


シロミは銀髪を風に靡かせ、指先を偽物へと向けた。


低く、甘い声が戦場に響く。


「──暗闇の帷(ダークフィールド)


シロミが指を鳴らした瞬間、周囲の世界が反転した。

上下左右、奥行きさえも消失した完全なる無音の闇。光の一筋さえ許されない、シロミが支配する「二人だけの空間」が構築される。そこは、五感さえも影に溶けていくような、魂の監獄だった。


「な、何これ……! 光が……アマケシカの光が届かない……っ!?」


偽真白が狼狽し、レイピアから必死に聖霊の輝きを放とうとする。だが、その光は広がるそばから、周囲の深い闇に飲み込まれ、霧散していった。本物の真白なら、ここで恐怖に震えながらも立ち向かうだろう。だが、中身が空虚なこの分身は、ただ無様に暗闇を切り裂くことしかできない。


「覚悟なさい。……まずは基礎からよ」


シロミの姿が闇に溶け、声だけが四方八方から降り注ぐ。


「──影武者の連撃(シャドウストライク)!!」


帷の四方八方、死角という死角から、漆黒の影武者シャドウたちが音もなく飛び出した。彼らが手にする影の剣は、主の怒りを反映して鋭く、重い。


「くっ……ああっ!!」


偽真白は必死にレイピアを振るうが、闇の中から不規則に飛び出す連撃を捌ききれるはずもない。

右肩、左腿、そして背中。影の刃が肉を正確に削り取っていく。


「どうしたの? 真白ちゃんはもっと粘り強かったわよ? 彼女の逃げない心までコピーするのは、神様でも無理だったかしらぁ?」


闇の向こうから、シロミの嘲笑が飛ぶ。

影武者たちの攻撃は止まらない。それはまるで見えない処刑人に囲まれているかのような絶望的な千日手だった。


「……あ、あああああ! くっ……! 許さないっ……許さないんだからっ!!」


闇の帷に閉じ込められ、影武者たちの連撃に晒された偽真白が、ついに正気を失った獣のように叫んだ。その身体から、本物の真白なら決して見せない、濁った殺意を帯びた魔力が爆発的に膨れ上がる。


偽物は残された全魔力を強引に絞り出し、自身の身体を激しい光で包み込んだ。闇を強引に焼き払うその輝きは、レーダーのように周囲を走査する。


「──白銀しろがね光槍こうそうっ!!」


自分を起点に、全方位へと無数の光の槍が放射状に放たれた。闇の帷を内側から突き破らんとするその一撃は、逃げ場のない空間を埋め尽くす。


「(……そこだっ!)」


偽真白の瞳が、わずかに揺らいだ空間の「点」を捉えた。光槍の一本が、シロミが展開した防御壁に衝突し、火花を散らした場所。偽物は好機と見て、一瞬で距離を詰め、猛烈な連撃を仕掛ける。レイピアが空気を切り裂き、シロミの喉元、心臓、眉間を正確に狙い撃つ。


「くっ……やるわね……神様の悪あがきにしては、上出来よ」


シロミは背後の影を盾にし、猛攻を紙一重で受け流しながら、その紅い瞳に愉悦の色を宿した。


「あなたの全力、愛を持って、迎え撃つわ……全魔力をもって。──大魔王憑依サタンフォルムっ!!」


シロミの全身から、重力さえも押し潰すような漆黒の魔力が噴き出した。

バキバキと空気が軋む音が響き、彼女の姿が劇的に変貌していく。

銀髪の合間から生える漆黒の角がさらに鋭く、長く天を突き、背中の悪魔の翼は一回り以上も巨大に広がり、周囲の闇を物理的に薙ぎ払った。細くしなやかな尻尾は、その先端が挑発的なハートの形へと変化し、主の昂ぶりを示すように不規則に蠢く。

さらに、魔力の奔流は彼女の肉体そのものをも作り替えた。

身長が伸び、手足がさらに長く、そして胸元が1.5倍ほど豊かに膨らむ。それは、少女の面影を脱ぎ捨て、蹂躙と支配を司る「大魔王」としての、成熟した、そして恐ろしく美しい完成形。


「さあ、お仕置きの時間よ。……偽物の真白ちゃん。あなたのその薄っぺらな光が、私の深い闇にどこまで耐えられるか、じっくり観測してあげるわ」


唇の端から、鋭く尖った犬歯がちらりと覗く。

その姿はあまりにも神々しく、そして禍々しい。

そしてシロミは、一歩。

ただの一歩で、音もなく偽真白の眼前に現れた。

「──憤怒(フュアリアス)黒震撃(クラッシュ)


シロミの白皙の拳が、偽物の胸元にそっと触れた。

瞬間、物理的な衝撃を超えた絶望が偽真白の体内を駆け巡った。爆発的な漆黒の魔力が、外側ではなく内側の臓腑や魔力回路を直接粉砕し、内側から肉体を食い破る。


「が、は……っ!?」


偽真白は言葉にならない悲鳴を上げ、砲弾のような勢いで後方へと吹き飛ばされた。

だが、シロミはそれを許さない。


「逃がさないわよ。あなたの真白ちゃんへの冒涜はこんなものじゃないわ」


吹き飛ぶ偽物の背後、空中に、既にシロミは先回りしていた。

再び、拳が触れる。


ドォォォォォン!!


先ほどよりも重い黒い衝撃が、偽物の背骨を砕き、今度は下方へと叩き落とす。地面に激突する寸前、そこにはまたしても、優雅に微笑むシロミが立っていた。


「上、下、右、左……次、どこから来るか観測できているかしらぁ?」


目にも止まらぬ超高速の跳弾リバウンド

シロミの拳が触れるたび、漆黒の閃光が走り、偽物の肉体がボロ雑巾のように宙を舞う。それはもはや戦闘ではなく、一方的な蹂躙、あるいは徹底的な解体だった。

数分、あるいは永遠にも感じられる暴威の果て。

闇の空間に、無惨な残骸が転がった。


「……あ、う……あ……」


偽真白の姿は、もはや見る影もなかった。

仮面を被った真白の顔は右半分が削り取られ、漆黒の煙が断面から立ち昇っている。自慢のレイピアを握っていた右手、地を蹴った両足も根元から消失し、ただの歪な肉の塊へと成り果てていた。

そして、剥き出しになった胸の中央。

そこには、ドクンドクンと不気味な脈動を繰り返す、漆黒の核が露出していた。


「あらあら。本物の真白ちゃんなら、もっと綺麗に泣くわよ? あなたのその声、ただの雑音にしか聞こえないわ」


シロミは巨大な翼をゆっくりと畳み、地に伏す残骸へと歩み寄る。ハートの形をした尻尾の先が、獲物の最期を愉しむようにチロチロと動いた。


「さあ、最後よ。……神様、偽りの夢の対価は、その核で支払ってもらうわ」


シロミが白皙の指先を、震える核のわずか数センチ前へと突き出す。

その指先には、周囲の闇さえも吸い込まれるほどの超高密度な魔力、星の寿命を凝縮したかのような、極小の虚無が集束し始めていた。光すらも逃げられない、事象の地平線。


「さようなら、愛しの偽物さん。『黒玉葬(デスロード)』」


指先から放たれたのは、爆発ではない。「消滅」そのものだった。

極小の黒い球体が偽真白の核に触れた瞬間、そこを中心に世界が反転した。音もなく、衝撃もなく。ただ、偽真白という存在そのものが、因果の糸から切り離されるように、一瞬で「無」へと還っていく。


「あ……あああああ……っ!!」


断末魔の叫びさえも、黒い玉の重力に飲まれ、消失する。

核は砕け、漆黒の霧となり、最後にはチリ一つ残さず、シロミの指先の虚無へと収束していった。

シロミの視界に、再び開拓地の荒野と、遠くで上がる仲間の戦いの火柱が戻ってきた。


「……ふぅ。魔力を使い過ぎたわね。少し、大人気なかったかしら……」


シロミは大きくため息をつくと、憑依(フォルム)を解除した。

伸びた角は普段見えない大きさに戻り、ハートの尻尾は消え。膨らんだ身体も、元の妖艶で華奢なシロミの姿へと収まっていく。

彼女は、自分が消し去った場所を一度も振り返ることなく、空を仰いだ。

そこには、自分自身の力で偽物を打ち破った真白が、光り輝く粒子となって空を翔ける姿が見えた。


「……あらあら。本当、強くなっちゃって。……少しだけ、寂しいわね」


シロミは自嘲気味に微笑むと、白銀の髪を指で梳き、真白の元へと歩き出した。

その瞳には、もはや怒りはない。ただ、愛する家族を天空へ届けるという、揺るぎない確信だけが宿っていた。

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