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黒頭巾の神撃〜Black hood's divine attack〜  作者: 南斗家那乱下
第一章 地上編

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孤軍奮闘

シロミから「自分は魔族である」という真実を聞いた後、四人の間にあった見えない壁は完全に取り払われた。驚きはしたものの、隠し事がなくなったことで、その絆は以前よりも深く、強固なものへと変わっていた。

昼からの訓練は双頭翼竜(ツインヘッドワイバーン)を倒した後に行われることとなり、一行は双頭翼竜(ツインヘッドワイバーン)が現れる断崖の開拓地へと向かった。


「今日は私があいつを狩るわ。せっかくだし魔族の力をあなたたちにも見せておきたいの」


森の開けた場所で、シロミが静かに前方を見据える。魔術が展開され、二つの首を持つ巨大な翼竜が、鋭い咆哮を上げながら現れた。


「魔族の力……なんだか凄そうっ! シロミお姉ちゃん、頑張って!」


真白が期待に目を輝かせ、杖を握りしめて応援する。


「あんたの本当の力、一度見てみたかったんだよね。手出し無用ってこと?」


アリスが不敵に笑い、あえて武器を構えずに傍観の構えをとる。彼女の瞳には、信頼と好奇心が混ざり合っていた。


「魔族の本当の力か。確かに一度見ておきたいところだな。……シロミ、頼むぞ」


剣一もまた、彼女の背中を信頼して一歩下がった。


「ええ、見ていなさい。これが歴史から消された一族の、真実の姿よ……全力でいくわ。限界突破(リミットバースト)、『悪魔(デビル)罪人(シナー)』」


シロミが指先を天にかざすと、周囲の空気が一変した。

さらさらと流れていた白銀の髪が呪いのような黒に変色し、瞳には凍てつく殺意を宿した血の色が灯る。背後に展開されたのは、光を一切通さない漆黒の悪魔の翼。そして耳の後ろから生えた二本の不揃いな角、可愛いらしい悪魔の尻尾が、彼女が歴史から消された「魔族」であることを残酷なまでに証明していた。

彼女の背後から噴き出した漆黒の魔力が、青空を侵食するように広がっていく。それは聖霊の光とも、人間の魔法とも違う、根源的な「闇」の奔流だった。


「(……これが、シロミの本当の姿……)」


剣一が圧倒的な魔力に息を呑む。真白とアリスも、言葉を忘れたようにその背中を見つめていた。

双頭翼竜ツインヘッドワイバーンが恐怖に狂ったような咆哮を上げ、逃れようと翼を羽ばたかせる。だが、シロミが指先を振り下ろすと同時に、空間そのものが闇に塗り潰された。


「いくわよ、『魔王(デーモン)鉄槌(ハンマー)』!!」


逃げ場を失った双頭翼竜の周囲を漆黒の闇が包み込み、巨大な檻へと変える。その直後、敵の頭上に実体化したのは、城門をも粉砕せんばかりの巨大なハンマーヘッドだった。

逃亡を許さぬ重圧が空間を固定し、一瞬にして翼竜を地上へと叩き潰す。

凄まじい轟音と共に大地が爆ぜ、砂塵が舞い上がった。闇の力が霧散したとき、そこにはもはや魔物の形を留めぬ残骸と、深く穿たれたクレーターだけが残されていた。


「……ふぅ。ちょっとやりすぎちゃったかしらねぇ……」


漆黒だった髪が元の白銀色へと戻り、翼と角が霧のように消えていく。シロミはいつものように優雅に髪をかき上げ、三人の元へと歩み寄った。


「……どう? これが私の……魔族の力よ」


いつもの妖艶な笑み。けれど、そこには隠し事をしていた時のような影は一切ない。


「す、すごいっ!シロミお姉ちゃんすごいよっ!」


真白が真っ先に駆け寄り、シロミに抱きついた。恐怖など微塵も感じさせない、純粋な称賛の眼差し。その温もりに、シロミの頬が微かに緩む。


「あ、あんた……滅茶苦茶強いじゃん。今までの訓練、あれでも相当手加減してたってわけ?」


アリスが呆れたように、けれど負けじと不敵な笑みを浮かべて言い放った。彼女の瞳には、シロミの実力への敬意と、自分ももっと強くなってやるという対抗心が燃えている。


「……俺よりも強いんじゃないのか。正直、あの魔力の量に練度……今の俺では勝てるかどうか……」


剣一は愛剣の柄を握り、自分の未熟さを噛みしめるように呟いた。だが、その声に悲観の色はない。自分たちが目指す天空の過酷さを知る彼にとって、シロミという存在はこれ以上なく心強い。


「ふふ、そうねぇ。一ヶ月前のあなたたちなら、片手でも十分だったかしら?」


シロミがいつもの調子で揶揄うと、アリスが「ちょっと、そんなことないしっ!」と頬を膨らませて声を上げた。

そのやり取りを見て、シロミはふっと慈しむような笑みを浮かべ、言葉を継ぐ。


「……でも、これからは違うわ。私はもう、あなたたちを観測するだけの存在じゃない。この力は、あなたたちを天空へ届けるための盾であり、矛よ」


シロミの言葉に、剣一は頷き、アリスは鼻を鳴らし、真白は力いっぱい「うんっ!」と返事をした。

一人の「魔族」と、三人の「人間」。

種族も過去も、背負った宿命も違う四人が、今この瞬間、本当の意味で一つのパーティになったのだ。

それからは訓練でもシロミは本気で相手をするようになり、また一段と四人の成長が見られた。


それから一ヶ月が経とうとしたある日、いつものように双頭翼竜(ツインヘッドワイバーン)を狩った後の帰り道、禍々しい存在が現れようとしていた。


「今日もお疲れ様だねっ!帰ったら夕食の準備しようかなぁ?」


真白が、手に入れたばかりの翼竜の素材を大事そうに抱えながら、弾むような声で言った。一ヶ月前よりも魔力の練度は上がり、足取りにも迷いがない。


「あらあら、私も手伝うわよぉ。今日は真白ちゃんのリクエストに応えてあげようかしらねぇ」


シロミがいつもの余裕ある笑みを浮かべて隣を歩く。彼女もまた、この一ヶ月で観測者から家族へと、その心の在り方を完全に変えていた。


そこへ禍々しい魔力をもった一人の人物が影を潜め、一行の前に現れた刹那、四人が一斉に攻撃を仕掛ける。


一ヶ月の特訓を経て、真のパーティとなった四人の前に現れたのは、かつて「白いフードの集団」を差し向けた黒幕混沌の神、カオス。その圧倒的な神威に対し、四人は迷うことなく同時に「限界突破リミットバースト」を叩き込む。


「「「「限界突破(リミットバースト)」」」」


「『人智(じんち)(つるぎ)』魔力がダダ漏れだぞ。」

「『降霊(ネクロマンシー)、聖霊王アマケシカ』っ!よくもシロミお姉ちゃんをっ!!」

近接形態(コンバットスタイル)、『最大出力(フルドライブ)!』!あたしがみんなを守るっ!!」

「『悪魔(デビル)罪人(シナー)』、暗黒王(ダークキング)影武者(シャドウ)!魔族の仇、ここで討たせてもらうわよっ!!」


四人が一斉に放った最大火力の攻撃。光と闇、剣気と炎が混ざり合い、カオスが立っていた場所を完全に飲み込んだ――かに見えた。


だが、カオスは指先ひとつ動かさず、四人の攻撃を嘲笑うかのように背後へ転移した。

全身を包む装束は、夜の闇をそのまま切り取って繋ぎ合わせたかのように深く、黒い。そして顔を覆うのは、表情も凹凸もない、滑らかな漆黒の仮面。光を一切反射しないその顔面は、まるでそこに誰もいないかのような、底知れない虚無を体現していた。


「……ふっ。血気盛んな奴らだな。前回のお土産は喜んでくれたか」


仮面の奥から響く声は、反響するように周囲の空気を震わせる。


「混沌の神、カオス……!白いフードを被ったあいつらは、お前の手先だったのか」


「あいつらはただの一般兵だ。……だが、なんとか倒したようだな。今からお前らの相手をしてやる。かかってこい」


カオスが両腕を広げると、漆黒の体が霧のように揺らぎ、その姿が四つに分裂した。逃げ場を塞ぐように剣一、アリス、真白、シロミの眼前に寸分違わぬ四つの黒い仮面が立ちはだかった。


「言っておくが分身したことによって、今の私の魔力は四分割されている。勝って当たり前なはずだろう。さあ……お前らの実力を見せてみろ」


四つの仮面が同時に言葉を重ねる。その声は重なり合い、どこから聞こえるのかも判然としない不気味な残響となって四人を包み込んだ。


「(四分割されてこのプレッシャーか……! だが、好都合だ。)」


剣一が歯を食いしばり、魔剣の柄を握り直す。


「一人ずつ相手をしてくれるってんなら、遠慮なく叩き潰させてもらうからっ!」


アリスが拳を打ち鳴らし、足元の地面を爆ぜさせる。


「シロミお姉ちゃん、みんな……っ! 私はもう負けないっ!」


真白が聖霊王の加護を全身に纏い、光の奔流を安定させる。


「ふふ……神様にも随分とナメられたものねぇ。その余裕、後悔させてあげるわ」


シロミの背後で、巨大な影の大剣が、獲物を断罪せんとその巨体を震わせる。


「……フッ、いい威勢だ」


四人のカオスが同時に、地を蹴った。

各個体が凶器を携え、四人は四方へ散らされる。

一対一。

逃げ場のない超高速の乱戦が今、幕を開ける。

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