8 お部屋紹介
思ったことがある。自室で魔石の確保ができないのなら、研究室かなにかがあるはずなのだ。私の両親はどんな人たちなのか知らないが、私のために研究室があるはず。
「お嬢様、ここが執務室です」
カリーレは扉を開けて、中が見えるようにしてくれる。真ん中に四角形の机、木の上に布が被せられている椅子に、奥には大きな机に木の椅子。
「棚もたくさんあるのね、何があるの?」
両端に置かれてる棚には本や瓶が置かれていた。その瓶が気になる。
「これはお嬢様にはまだ早いですよ。成人してからです」
マミーユはそんなことを言うが、どんなものなのかちゃんと説明されていない。そもそも、私に早いものとはなんなのだろうか。
「飲めるものなの? 飲んでみたい!」
目をキラキラさせ、知らないものに飛び込みたくてうずうずしてしまう。その言葉にマミーユとカリーレは困った顔をして、次の部屋に行くことにした。絶対教えてくれない。許せない。
「ここは図書室ですよ」
カリーレはそう言い、部屋をぐるりと見渡した。本が少ない。ほとんどが空いている状態で、部屋も狭い。私の自室と同じぐらいだ。
「思ったより本がないのね」
部屋を見渡し、棚を順番に見回しながら、そう言った。その言葉にマミーユが説明を加える。
「本は高価です。紙もそうですが、書くにも人の手で行われてます」
「めんどうくさいことをするのね、魔術でできないの?」
「そのような魔術はありませんよ、お嬢様」
カリーレは苦笑しながら言う。魔石で何とかならないのだろうか。そのためには研究室だ。
「研究室はないの? あればわたくしの自室にしたいわ!」
「ありませんし、あったとしても自室にすることは許しません」
マミーユが少し眉尻を上げ、レオネットのように腰を手に当てそう言う。レオネットと同じようにならないで欲しい。切実にそう思う。
「なら適当な部屋でいいわ、そこを研究室にしてちょうだい。自室にはしませんから」
研究室がないなら作ればいい。客室はたんまりあるのだから、ひとつくらい変えたって誰も文句は言わないだろう。
(見たことの無い、お母様、お父様。わたくし、必ず良い魔石研究所を作ってみせますわ!)
心の中でそう決心して、客室の中で、自室に近く、図書室にも近い部屋を見て回る。決まったところに、何を置くか悩んでいた。
「魔石の研究の材料に道具って何が必要なのかしら」
「私は魔術の実技しか聞いていませんでした!」
カリーレは学院でも魔術の実技以外は寝てたらしい。まったく使えない。
「カリーレに任せるわ、適当に調達したら、ここにお願いね」
私は踵を返し、そう言いながら部屋を出ていった。視界の端でカリーレを見たが、驚愕したような顔になっていた。それは無視し、マミーユと一緒に図書室へと向かう。
図書室に着くと同時にマミーユが口を開いた。
「お嬢様は本を読むのがお好きなのですか?」
「あんまり好きじゃないわ、退屈になりますもの」
一目見たら覚える。なので、一回見てしまえば、本は売ってもいいと思う。高価なのだから、お金にはなるんじゃないかな。
「お嬢様は、凄いですね、教えてもいないのに文字も読めるのですから」
何か変なのか。普通に読めたし、何が凄いのか分からない。
「文字は何歳から覚えるの?」
「七歳から家庭教師を雇い、文字や算数を教えると聞き及んでいますよ」
「わたくし、文字読めましたね」
「読めておられましたね」
二人して首を傾げる。なんだかよく分からないけど、まあ読めるものは読める。それはそれでこれはこれだ。
「読書中はここの掃除していますね」
「ええ、わかったわ」
私たちはマミーユが持ってきてくれた魔石に関する本を三冊机の上で広げ、眺めてみる。一気に三冊を広げるのはさすがに情報量が多くて頭の中ぐちゃぐちゃになった。なので一冊に絞って読む。
魔石は加工することは可能らしい。鍛治職人たちは魔石で剣を作ってみたいと言い出して、失敗していたり、防具を作って失敗したり、失敗談の本はいらないので、読み切る前に本を閉じた。
次に、魔石の属性のことだった。六属性あって、全属性の魔石があったり、複数属性を付与されていたりするらしい。品質はあるらしいけれど、なん通りもあるせいで、そこは書かれていない。そして、本を閉じる。
次は、魔石と魔力核のことだ。魔力核とは魔物を倒すと、魔力が中心に集まり固まる性質があるらしい。魔石と一緒に魔力核も取れる。魔石は魔力を吸い続けながら、淡く光を放つようだ。魔力核は魔力を貯めておくためにも使える。が、常に魔力を放出するから、持続的に流さないといけないのだとか。
どれもめんどうくさい事だけど、ロウソク代節約生活にはこの知識は必要だ。本を読んでいたら、もうお昼のようだ。
「お嬢様、もう読書は終わりです。本を片付けたら、昼食後に商人がやってきますので、お着替えしますよ」
「……今日はやることが多いのね」
「お嬢様が呼んだじゃないですか」
苦笑いするマミーユに促されて、食事の間へと向かった。そこにはレオネットがいた。
「レオネット、もうよろしいの?」
変わらずの表情で、私に顔を向け「とても良くなりました」と言って、椅子に座らせてくれる。
「今日からはもう大丈夫そうよ、心配かけましたね」
「それは何よりでございます。淑女たるもの、いつまでもあのような状態を見せるわけにはいきません」
「……はぁい」
結局、叱責飛んでご飯を食べ、自室でお着替えだ。私は楽しみだ。商人との話でどんなことが知れるのか、どんな商品があるのか。
あとそれに、リーレルトとリュンレルテのお土産に平民の暮らしを知りたい。聞きたいことを頭の中でいくつか思いつきながら、お着替えの後、執務室へと向かった。ふふんふんふん、と足をぐらぐらと揺らしながら待っていると「商人たちがやって来ました」と、マミーユから言葉を貰い、私は「通してちょうだい」と言った瞬間、レオネットによって扉が大きく開かれた。




