8.5 幕間 商人の呼び出し
「親父、本当に俺も行くのか?」
俺は親父にそんなことを聞いてみた。親父は何を考えて俺を連れていくのかよく分からない。貴族との会合に俺のような、まだ所作もできてないやつを連れていくなんて。
(それに、店の荷物整理の途中で急に呼び出すとか、貴族は勝手すぎる)
心の中で、俺は文句を垂れ流す。普通は数日前とかなのに。
「あぁ、そうだ、お前は魔力量は下級貴族並だ」
淡く光る緑がかった青い瞳は真剣そのものだった。
「だけどよ、今回呼んできたのは、令嬢の五歳だろ? 恋とかわかんねーって」
五歳なんてまだ子供だ、俺が十歳になってから、女に意識が行くようになった。女なら遅いと思うが。
「恋とかじゃなくていい。相手に価値があると思わせればそれでいい。それで、俺は貴族社会の商人になれるじゃないか」
親父の言いたいこともわかる。商人は貴族へのコネを作れば平民街では、豪商の部類になる。そうなれば、店も大きくなる。でも、上手くいくだろうか。
「そのお嬢様が会合するんだろ? どんな無茶な命令をするんだろうな」
そう言うと、親父は執務机にまた書き物を始めた。俺は近くにあった椅子に座り、親父の言葉を待つことにして、天井を見上げる。
「菓子だそうだ。あとは土産のようなものとか」
「はっ、子供らしいじゃん」
やっぱり子供だ。俺は短い笑いを飛ばし、結婚作戦はやめた方がいいと考えた。
「侍女がおるだろ、その人と話が出来れば、上手く行けるかもしれん」
「まぁ、俺は喋んないからな、親父に任せるよ、俺は貴族にもなってみたいし」
親父はふんっ、と鼻を鳴らして、書き物に集中した。俺は馬車の荷物を確認するため、執務室から出て、廊下を歩いていくと、女中のボナと鉢合わせた。
「ヒュールさん、今からどこへ?」
俺の身長より少し高めのボナは少し屈み、視線を合わてくれる。この人はお姉さんのようで優しい。少し屈むと、胸元が見えそうになるので、俺はすぐに目線を外した。
「に、荷物の確認をしに行くところだ……」
「なら私も行きましょうか。色々教えますよ」
多分彼女も暇なのだろう。だが、教わるほど知らないわけではない。「ついてこなくていい」と言って、そのまま立ち去った。話す度に屈まれると、目に毒だ。
馬車は計三台。二台は荷物を入れ、最初の一台は親父と俺と、そして、ボナが乗る。
荷物を一通り見たあと、親父が馬車の前まで歩いて、俺の隣に立ち止まった。
「魔力核はもうある。これで貴族街にいけるぞ」
そう言いながら見せられたのは淡く黄色に光る魔力核。これがないと、貴族の森に抜けられず、何度も同じ道に戻るそうだ。貴族の資格……か。
「いいな、たらふく飯が食えるんだろうな」
「貴族街に行ったことがないからわからんが、朝にやってきた侍女らしき人は細身だったぞ。案外そうではないのかもな」
親父はそんなこと言うが、それは侍女だ。俺も見たが、全体的に紫色のおばさんは貴族のような所作だった。貴族でも侍女になる事があるだろうと思う。
「あの紫のおばさん、どうやって来たんだ? 馬車なんて乗っていなかっただろ」
「貴族では空を飛ぶ魔術があるそうだ。まぁ、魔力量次第だがな」
やはり、あの紫のおばさんは貴族で間違いない。なにか裏があるのかもしれない、と、用心することにした。
「金の話は親父、がんばれよ」
「誰に物を言ってんだ」
親父はそう言いながら、俺の頭を拳でグリグリとする。地味に痛いが、これは親父の愛情だと分かっている。それは俺にとって嬉しいである。
「さぁ、乗るぞ、飯はもう食ったよな?」
「ああ、食ったよ」
俺たちは馬車に乗り、いざ、貴族街へ出発することとなった。
馬車にガタガタと揺られ、貴族の森を抜ける。その道中、魔力核から魔力が抜かれていた。




