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黄金のメルディーラ 〜魔石で大切な人を楽にしたい〜  作者: タルミア


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9 会合

 そこに三人は立っていた。ひとりは子供だけど、もう二人は大人だ。そして、一歩扉をくぐると三人とも膝を着いて、代表として一人の男性が喋り出す。


「失礼いたします。本日お招きにあがり、商品をお届けにまいりました」

「そう、そこへ座って」


 小さな机の向かいにある椅子に子供と代表である男性を座らせた。その後ろに立ったままの、女中《じょちゅう》がいる。


「では、早速。お菓子は砂糖菓子に焼き菓子の材料、それから、今平民の間で話題となっているケーキのレシピをお持ちしました」

「砂糖菓子? それは何かしら?」


 砂糖菓子。砂糖だけでできたものなのだろうか。どういうものなのか早く見てみたい。


「それがこちらになります」


 そう言うと、商人女中が動き出し、透明の瓶を持って机にことりと置いた。その中には色とりどりの丸いものがある。まるで色んな属性が入れられた魔石のようだ。


「魔力核かしら? でも色が沢山あるので魔石かしら?」

「い、いえ、これは飴玉と言います。お一つどうぞ」


 瓶をそっと傍に持ってきた商人女中。手には布がはめられ、ゆっくりと飴玉を取り出し、目の前に持ってきた。この女中の所作は綺麗なものだ。


 そして差し出された飴玉はカリーレが受け取り、それをなにやら、粉を振りかけたり、異常がないか確認を始めた。毒の確認を行っているのだろう。そして、一通り終わったあとは、カリーレが差し出してくれる。それを口の中に放り込む。


「これふぁ、おいひいでふわね!」


 頬に両手を添えて、口に広がる甘さを堪能して、貴族令嬢らしい振る舞いが揺らいでしまった。


「メルディーラお嬢様……」


 レオネットがため息を吐いた。仕方がないのだ。これは大きい。舌が思うように動かない。だがこの甘さがものすごく美味しい。たくさん買いたい。


「よければ、この瓶にあるもの全てをお譲りいたします」

「いいわね! マミーユ。これを受け取りなさい!」


 もう元気いっぱいだった。思わずテンションが上がり、マミーユに持ってもらう。レオネットからはきつい視線を感じるが、今は無視無視。


 お菓子に関することは一通り買って、レオネットが商人女中にお金を渡す。そして、ここからが本題なのだ。


「あなたたち、平民ではどのような暮らしなのかしら?」


 これが聞きたかったのだ。どんな節約生活をしているのか、ものすごく気になる。全部教えてもらいましょう。


「へ、平民の暮らし、ですか。なんと言えばよろしいのか……」


 その緑がかった青い瞳は泳いでいる。おそらく、なにか試されてると思っているのだろう。仕方がない。急にこんな話をされたら誰だって戸惑うものだ。


「どんなところにどんなのがあるのか気になりますわ!」


 これで分かるだろう。さぁ、言うのだ。

 商人はふぅ、と息を吐き、口を開く。


「市場というものがあります。道の端にみんながそれぞれ屋台を作り、食べ物や小物を売ったりしています」


 なるほど、屋台。それは気になる。どんなものが売られてどれが美味しいのか。


「魔石に関することはありますの?」


 これも聞きたかった。魔石研究所にはどこから始めればいいのか分からない現状で、なにか情報が欲しいのだ。カリーレが真剣な眼差しになった。


「魔石工房はあります。何をやるのかは分かりませんが、冒険者ギルドで魔石を買い取ってるそうです」


 今ここで初めての単語が出てきた。冒険者だから、冒険する人達なのだろうけど、実際冒険だけする人なのだろうか。


「冒険者ギルドとやらは何をする場所ですの? 森の探索を?」

「いえ、依頼で魔物を倒したり、倒した魔物の素材を取ってくるお仕事です」


 そう淡々と教えくれる。質問したら全部教えてくれそうだ。それなら遠慮はいらないだろう。全部教えてもらおう。


「では、その依頼ではどのようなものが? 素材でしかお金は貰えませんの?」

「倒す以外にもあります。森に生えている薬草の採取、飼い猫探しやドラゴン討伐などがたくさんあります」


 ドラゴン討伐。気になるが、戦うというのはどうもめんどうくさいのでそれはいい。それよりも魔石だ。


「では、魔石に関する情報が欲しいわ、光属性の魔石は使っているの?」

「光属性は基本誰も使いません。たまに取れたら、潰して飲むぐらいでしょうか」


 平民でも疲労回復としか使っていないのだとか、なんともったいない。皆は、結局ロウソクを使っている。


「光属性の魔石を照明器具に考えているのですよ」

「照明器具……それはどのような?」


 そう、商人が来る前、私は考えた。たくさん考えた。魔石には魔力を吸うことで光という性質がある。そして、魔力核という存在。なら、できるかもしれない。消したり付けたりできる照明器具が。


「魔力核は知っているでしょう? それをくっつければ、魔石は光ると思うの、今度試作品を持ってきなさい」


 三人は驚いていた。そしてレオネットたち三人もだ。レオネットは無表情だけど、驚いているのはわかる。

 これが私の考えだ。これがあれば魔力だけで、永続的に使えるかもしれない。


「もしかしたら、できるかもしれません。設計図はございますか?」

「設計図? それはないわ、マミーユ」


 そう言うと、マミーユは紙とペンとインクを持ってくる。


「そういえば、あなた達のお名前は?」


 すぐに商談に入ったせいで、名前を聞いていなかった。商人たちなんて、呼びにくいし、名前を聞かなくては。


「よろしいのですか?」


(ん?)


 なんだか、嬉しそうにしている。そんなに名前を聞かれるのが嬉しいのだろうか。変な平民だ。


「私はマレリルズと申します。以後お見知り置きを」

「私はヒュールと申します。よろしくお願いします」


 大人の方がマレリルズで、子供の方がヒュール。同じ水色の髪をしているから、おそらく、親子なのだろう。そして、二人の後ろに立っている女中に目を向けてみる。


「わ、私はボナと申します。以後お見知り置きを」


 そういう彼女は頭を下げ、オレンジの髪が垂れる。


「では、これが設計図よ」


 それを渡すと、三人は驚愕したようにその紙を見つめている。なぜだろう、しっかりかけているはずなのに。


「こ、これは……猫ですか?」

「はい?」


 急に無礼な言い方をするマレリルズに少しムッとした。なんですかこの人は、と言いたくなるのを飲み込み、レオネットがその紙を取る。


「メルディーラお嬢様、紙は遊ぶものではありませんよ」

「遊んでないわよ! これは設計図よ!?」


 なんでみんなして私の設計図をお絵描きの紙切れのように見るのかよく分からない。その紙を見たが何がおかしいのか理解できないので、口頭で話すことになった。


「まあいいわ、魔石の下に魔力核を置くのよ、そして、上の取ってを引っ張れば魔力核と魔石はくっついて、魔石に魔力が行くって仕組みなのよ!」


 ふふんと自慢するように腰に手を当て、胸を張った。マレリルズは「画期的な考えだと思います!」と言って、顔が嬉しさに満ちている。


「そう、どのくらいで出来るのかしら?」

「これぐらいでしたら、すぐに出来上がります。七日後で宜しいでしょうか」


 今から七日後だと、リーレルトのお茶会の翌日になる。ちょうどいいかもしれない。


「ええ、いいわ、午後にお願いするわ」


 これで節約生活に一歩近づく。そして、便利になりそうな魔道具を作れるかもしれない。と思うと、嬉しさのあまり飛び跳ねてしまいそうになるが、耐える。


「ところで、ここにいる、息子のヒュールなのですが、下級貴族並みの魔力を持っているのですよ、お嬢様はどれくらいなのでしょう?」


 下級貴族並みと言われ、私は首を傾げた。魔力で身分が決まるのだろうか。


「カリーレ。わたくしはどれくらいかしら?」

「はい、少なく見積っても、上級貴族以上です」


(え!? そんなにあるの!?)


 自分でも驚いた。そこまで、魔力があると思わなかった。そうなのか、あまり気にしていなかったけれど、多いのはいい事だと思う。多分。


「そこまでとは。さすがでございます」


 マレリルズは感心したように、穏やかな笑みを浮かべている。が、ヒュールはあまりピンと来ていないようだ。


「下級貴族並みだったヒュールがどうかしましたの?」

「あ、いえ、なんでもございません。ただの世間話でございます」


 だけど、一緒に椅子に座っている。これは同じように発言権があるのと主張しているようなものだ。そして、理解した。なるほどっと。


「あーなるほど、つまり、婚約させようということですね」


 その瞬間、三人は目を見開き、ボナとヒュールは口が開いた。正解のようだ。魔力の話に私の身分を考えれば簡単に思いつく。簡単に騙されると思ったのだろうか。

 その瞬間、私は頭に血が上って魔力が身体中から放出する感覚が芽生える。


「わたくし、そんなに簡単な令嬢にみえまして?」


 いつもよりも、感情を切り替えるのが難しい。これが怒るという感覚なのだと嫌でもわかる。


「も、申し訳ありません! そのようなつもりはないのです……」

「お嬢様、落ち着いてください。簡単に怒ってしまえば、淑女の名折れですよ」


 カリーレが肩に手を置いて、ようやく、感情を抑えることができた。少し深呼吸をして、また話を始める。


「今回のことは水に流しましょう。ですが、次はありません」


 そう言って、レオネットによって商人たちを帰らせた。商人が帰った後、執務室で考えた。


(あれは本当に失敗だ……)


 失敗だ。マレリルズが身を引こうとしていたのに、勝手に考えて勝手に怒ってしまった。本当に淑女として恥ずかしいことをしてしまった。だが、今度はしっかり褒めればいいのだ。次があれば何とかやって行けるはず。きっと。


「お嬢様、魔力暴走はお体に触りますよ。その魔力量だと、大変な目になってしまいます」


 カリーレは昔を思い出すように天井を見上げた。きっと、何かあったのだろう。


「ええ、もうやりません。きっと」

「きっと、ですか……」


 カリーレを不安にさせてしまったが、怒ること以外はいい収穫だ。


(さぁ、気を取り直して、魔石研究所を作りますよ!)

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