72 四十対一
四十人いる騎士たちが、五人ずつの組に分かれ始め、そこから私を囲い込んだ。
私は身体中に魔力を流し、脳にもほんの少しだけ流した。そうすると、体は勝手に動いてくれるようになる。
「さぁ、どこからでも来てちょうだい」
私がそんなこと言うと、私を囲い込んだ騎士たちはどこから行くのかと鋭い目付きをして、私を見つめていた。
身体強化中ではなければ、この包囲網に屈していただろうけれど、今の私ならば誰にでも勝てる気がする。
目だけをレオネットたちの方へ見てみると、不安そうにしているカリスティーもいる。私の表情を見て察してくれているようだ。
「余所見など!」
騎士の一組が私を襲い初めた。剣を大きく頭上から私めがけて振るが、容易く横に移動する。移動先には魔術詠唱を終えた別の組が、私に向けて強い風を放っている。
風によって少し宙に浮いた私は、身動きが取れずにふんわりと放物線を描いて落下すると同時に、背後の別の組みから炎の魔術が飛んでくる。
それを見た瞬間に光の足場を作り出し、それを勢いよく蹴るように飛んで、一組の五人の真ん中に降り立つ。
「ちょっと失礼しますわ」
相手の反応する隙を与えずに、小さな光の玉が手のひらから飛び出し、一人ひとりの急所に曲がりくねりながら当て、騎士たちが倒れる。
「この作戦はダメだ。次に行くぞ」
剣を構え、二組の十人が私を挟みながら剣を振り上げる。その瞬間、騎士たちは一歩も動けずにいた。
剣を振り上げている時、私は足に光の玉を作り出していた。一度そこで大人しくしてもらおうと騎士の体を光に包ませようとした時、さらに別の一組方向から炎の魔術が飛んでくる。
光の盾を瞬時に作り出し防ぐが、別の二組が私を挟むようにして走りながら剣を向けている。ナイフを持つかのように突きがやってくる。
前には十人を拘束、両側には五人ずつの突き、後ろは一組の炎魔術。
「これで、どうだ!」
これはやられる可能性があると思い、私は急いで身体強化に、普段の倍の魔力を流した。
その瞬間、全ての人たちの動きがゆっくり動いて見えるようになり、私の頬の辺りで、ビリビリと雷のような音が鳴っている。
「殲滅します」
聖女の本性が現れかけるが、何とか抑えながら地面を蹴るように走り、一人ひとりの首に刃のない剣で叩いていく。
両側から襲いかかる騎士たちを気絶させたあと、私は振り返って何人残ったか確認する。気絶した騎士たちにはビリビリと雷のようなものが走っており、体がほんの少しだけ痙攣している。
十人が足を拘束され、五人の魔術を使っていた人だけが残った。このまま行けば、勝てる。と剣を構えると、騎士たちは全員手を上げた。
「降参です。ここまで強いと、勝ち目がありません……」
騎士の一人がそう言い、私は身体強化と光の玉や足場を消した。
「ちょっとヒヤヒヤしたわ! 戦うのって案外楽しいのね」
自慢げにレオネットの方を見ると、怒り顔をしたレオネットとブリジストが私を見ている。
カリスティーとサイベルはキョトンとした顔のまま、動かずにいた。
問題のヨダリルスは私を睨みつけたあと、立ち上がって訓練場を出て行ってしまった。私はなにか悪いことをしたのだろうか。
「流石です聖女様! 私達もものすごく楽しかったですよ!」
「またやらせてください!」
気絶していた貴族たちも続々と起き上がり、そう賞賛してくれている。が、レオネットとブリジストだけは怒りながら近づいてきている。
(怒んないで!)
二人が私の目の前にやってくるまで騎士たちには笑顔で返し、二人を見上げてみる。
「もう良いな?」
「あ、はい……」
何に叱られるのかわからないまま、私は固唾を飲み込んだ。絶対に叱られる。
「今君の力でやったのか?」
「ほとんど聖女の力よ」
「私が教えた視界を封じる魔法は?」
そういえば、だいぶ前にそんなことを教えて貰っていた気がする。目の周りにある光を取り除く魔法は便利そうだけれど、転んでしまったらかわいそうと思い、やっていなかった。
「それは……」
「メルディーラお嬢様、聖女の力を強くお使いになりましたね? 感情がなくなっていたらどうするのですか?」
「レオネット聞いて! わたくしは無意識で使っちゃったの!」
「それを制御するために、君に魔法を教えていたのだが」
何も言い返せない。魔力の制御をして、私の考えだけで魔法を扱えるように特訓してくれていたのはわかっている。けれど、こればかりは勝ちたいという欲が出てしまった。
「お二人とも、落ち着いてください。現にメルディーラ様は無事ですよ」
「そうですよ! 聖女様は本当にお強い!」
「聖女様、バンザーイ!」
カリスティーと騎士たちが二人を諌め、勝手に盛り上がり始めた。
ブリジストとレオネットに恐る恐る目をやると、二人して長いため息を吐いたあと、レオネットは私の頭にソッと手を置いた。
「よくやりました。すごくかっこよく、優雅な戦いを見られました。目に焼き付けましたよ。ですが、無意識に力を強めたことは、見過ごせません。次は必ず制御してください」
表情はあまり変わっていないけれど、その目は垂れているように優しい目をしていた。
私は前半の言葉にしか聞いておらず、興奮のあまりレオネットに抱きついた。ブリジストも見てみると、少し微笑んでいるのがわかった。
「メルディーラ様、空中に行った時はダメかと思っていました。だけど、あそこから光の足場? で飛んで騎士の一組をちっちゃな光の玉で気絶させるなんて、流石です!」
訓練場の隅っこに小さな宴会が開かれ、そこでカリスティーの見た凄いことを話してくれる。それを聞いた騎士たちはこぞって私の元へやってきた。
「聖女様の速度は凄いですね。特に両側から剣で身を屈めながら剣で突くように走ったのですが、気づいたら気絶してましたよ」
ここまで褒められると、ものすごく照れてしまう。私の力ではないので、ちょっと罪悪感があるが。
「メルディーラは流石だな、できないことなんて無さそうだ」
「わたくしだってできないことはあるわ、サイベルは参加しなかったのね」
「ええ、私は騎士隊長だから好きに参加できないんだ。できれば私も入りたかった……」
「なーに言ってるんですか、隊長!」
私たちの会話を聞いた騎士たちは、一斉にサイベルの元へやってきて、肩に手を置いている。
部下に囲まれるサイベルを見ていると、上司らしい彼がすごくかっこよく見える。
キラキラしている騎士たちは置いておき、私は近くに置かれている椅子で一休みすることにした。
「君のための宴会なのに、甘いものは食べないのか?」
「もちろん食べるわ、ブリジスト様が持ってきてくれるのかしら」
「もうある」
机に置かれたケーキを見て、私は一目散に食らいついている。
「メルディーラお嬢様、はしたないですよ」
レオネットに口を拭かれるが、また同じようにケーキを口の中に掻き込むようにして食べている私の様子に、ため息を吐かれてしまった。
(甘いものって神〜!)
幸せのケーキをあらかた食べ終えると、ブリジストにずっと見られていた。
私は首を傾げ、ブリジストの言葉を待った。
「重いな……」
そんな呟きが飛んでくる。それは体重の話だろうか、ならばものすごく傷つくのだけれど。
私だって、痩せ気味の方だと思うのだけれど、もしかしたら他の人から見たら太っているように見えるのでは、と頭の中でぐるぐるし始めた。
「え、えっと……」
なんて返せばいいのかわからず、私は自分のお腹を手で摩ってみる。特に出ているようには感じない。
「違う。甘いものが重すぎる。よくそんなに食べれるものだな」
その言葉になんだか安心した。私が太っているのではなく、甘いものが重いように感じていたようだ。私なら、この程度楽々と食べきれてしまうのだけれど、大人になれば胃が重くなるのだろうか。
「甘いもの食べる?」
「いらん」
まあ断られることは知っていたけれど、私がなけなしのケーキを授けたのだから、嬉しく食べるべきだと思う。絶対。
ぷいっと顔を背け、騎士に囲まれているサイベルに目を向ける。
皆がサイベルと肩を組み、まるで酔ってるかのように何かを歌い出した。心地が良く、気分が暖まるような歌を、微笑みながら見つめていた。




