67 友達と囲む冬の食卓
あれから数ヶ月が経ち、そろそろ雪が降り始まる頃、リュンレルテが私のお屋敷にやってきた。
「今日からよろしくお願いいたします。聖女様」
ガラスティルと知らない女の人がリュンレルテの背後に立っている。
「ええ、今日からよろしくね、リュンレルテ」
「私たちは失礼します。リュンレルテ、あとは頼んだぞ」
「任せてください、お父様。お母様」
なんと、後ろに立っている藍媚茶色の髪をした女性は彼女のお母さんだった。
ひとつお辞儀をして、何も言わずにこの場を立ち去ってしまった。リュンレルテに言葉もかけずに帰っていくなんて、自分の娘をどう思っているのかが分からない。
「ごめんね、メルディーラ。家族の前では友達のように振る舞えないの」
「いいのよ、そうなんじゃないかと思っていたの」
リュンレルテは私に振り向き、そう言った。実際のところ、皆の前では主従関係で話をすると決めていたし、二人だけの秘密のようでちょっと楽しい。
それから私は、お部屋を一つひとつ案内していき、私の食事の間へやってきた。
リュンレルテ的には、一番研究室が変だったと言っていた。
「魔石研究は正義なのよ」
「照明器具や見せてもらった水道? というものは凄いけれど、装飾品にした方が貴族たちに喜ばれるのではなくて?」
「分かってないわね、リュンレルテ」
「そうかしら?」
今日はお客様という形なので、昼食を共にとってくれている。自分のお屋敷でレオネット以外の人と初めて食事をしたことが嬉しくて、興奮が収まらないでいる。
「ここの料理は美味しいわね、良い料理人なのでしょう」
「わたくしの自慢の料理長よ」
そう私が返すと、リュンレルテだけではなく、カリーレとマミーユも一緒にクスクスと小さく笑った。
私はなぜ笑っているのかわからずに、リュンレルテを見つめながら首を傾げていた。
「ごめんね、メルディーラは本当に可愛いと思ったのよ」
「可愛い? わたくしが?」
「ええ、そうよ」
よく分からないけれど、褒められていることはわかった。可愛いなんてあまり言われたことがないので、実感は湧かない。
「午後は何をするの?」
「もちろん、魔石研究よ」
「なら、見学させてもらうわ」
それに笑顔で頷き、私たちは食事を続けた。
暖炉の薪がぱちぱちと燃える音を聞きながらの食事はとても楽しく、心地の良い時間となった気がする。
そして、食事が終わり、お茶を飲む時間となった。
「この茶葉、高いと思うのだけれど、すごい財力ね」
「そうかしら、味だけでわかるの?」
一口お茶を飲み、茶器をそっと小さな皿に置き、キランと目を輝かせながら私に目を向けた。
「品のある味よ、いつもこれを飲んでいただなんて、財力がすごいと主張しているようなものよ」
「そうなのね、お茶ひとつでここまで変わるとは」
「魔石以外にも色々教えなくてはいけないわ……」
先が思いやられる。とでも言いたげに頭を抱えるリュンレルテをパチクリと一回瞬きしてから見つめる。
茶葉は私が選んだものではないので、教わりたいという気持ちは全くないのだけれど、リュンレルテ曰く「貴族社会のことはわたくしが全部教えるわ」の一点張りだったので、私はすぐに折れた。
貴族社会も勉強しないといけないのもあるし、レオネットからも、私の発言が国を揺るがすかもしれないと、一度忠告されているので、勉強せざるを得なかった。めんどうくさい。
「という訳で、相手にあった茶葉の用意はいいけれど、相手がこちらにやってくる時は、その人のプライドも傷つけないような茶葉を用意しなくてはいけないわね」
「えー、そんなめんどうくさいことまで……」
「これは大事なのよ、高すぎるものを飲まされたお客様は、招いた人に逆らうな、と言っているようなものなのよ」
そんな意味まで出てくるなんて、貴族社会というのはめんどうくさい。安すぎるものでも、バカにしているのかと怒る人がいるそうなので、相手の立場で茶葉を一つひとつ変えなくてはいけないらしい。
「後は装飾品ね、メルディーラは付けなさすぎなのよ、綺麗な髪飾りだけじゃ勿体ないわ」
「そこまで……」
「必要よ!」
始まってしまった。こうなってしまったリュンレルテは誰も止められないので、聞いた言葉を右から左へと流し続けた。
要約すれば、装飾品は貴族である立場を示すものであり、綺麗なものを身につける女性は美しいとされる。
後半の方へ行くと、リュンレルテは恋の話に着地してしまう。どうにかして話を変えなくてはと思った。
リュンレルテの話を聞いたレオネットは、目を瞑りながら静かに頭を縦に振っている。そんなに共感することなのだろうか。
「分かったわ、身につけるよう心掛けるから、恋の話はやめてちょうだい」
「……いつも気になっていたけれど、なんで恋の話を聞いても興味がないの?」
前に考えたことはあったけれど、今は五歳というのもあると思う。恋心なんて、これっぽっちも芽生えたことがなかった。
「よく分からないの、家族に対する愛と友人に対する愛は知っているわ」
「おそらくだけれど、聖女の力の影響なのかもしれないわね、わたくしのお友達は皆恋の話で盛り上がっているもの」
五歳で恋の話は早いとも思うけれど、まさかの普通のことで少々驚いている。けれど、そう考えると、私はなぜ恋を知らないのだろう。
「まぁ、それは考えても無駄よ、いつか分かる時が来るかもしれないじゃない」
「それもそうね、メルディーラの魔石研究の見学をしたいわ」
「ええ! ついてきなさい!」
苦笑するリュンレルテを引っ張るように研究室へ向かった。
それから、カリーレとマミーユに説明を任せ、私はたくさん並べられた温水道を触りながら、説明をする二人と、それを聞くリュンレルテを後ろから眺めていた。




