6 読書
昼食を食べたあとは、自室で読書することとなった。レオネットとカリーレが持ってきた本は魔石に関することだった。とりあえず、読み進めた。
「ねえ、カリーレ。魔石は属性によって扱いが左右されると書いてありますが、作ることは可能かしら?」
そんな質問をカリーレにしてみる。一番魔術のことに詳しそうだったので。
「作ることはできません。ですが、属性を持った魔術で倒すと、倒した本人の属性が強く影響されますよ」
なるほど、私が倒せば光の属性になるようだ。
「では、元々光の属性を持った魔石はないのですね」
「たくさんありますよ、ですが使い道がないので」
「使い道……?」
使い道とはなんだろう。首を傾げ、カリーレに先を促す。
「はい、光の魔石は、砕いて粉にしたら疲れが取れる薬にはなります。ですが、癒しの魔術を使った方が効率がいいのと、光るだけです」
私の光の適性って、全然意味ないじゃない? と思ったけれど、暗闇のロウソク代わりにはなると思う。そうではなくては、ほかの属性の魔術を使えなかった私は、ものすごく意味のない人になってしまう。それだけは嫌……。
「……わたくし、光るだけの属性……」
そう呟くと、カリーレは慌てて言葉を重ねる。
「お嬢様、光の適性を持つ魔術師なんて滅多にいないので、希少なのですよ!」
カリーレは両手を振りながらそう言ってくれた。カリーレの問題発言は今に始まったことではない。気を取り直して、さらに質問しよう。と思っていたら、レオネットが後ろから声をかけてくる。
「お嬢様は光の適性をお持ちなのですか?」
「そうよ、カリーレと特訓したの!」
希少という言葉を気に入った私は、ふふんと笑ってみせる。レオネットは相変わらず無表情で口を開く。
「では、魔術をお使いになったのですね」
私は口を尖らせ、肯定する。レオネットは私の事をなんだと思っているのだろう。少しは笑っていいと思う。その方が素敵な侍女になると思うのに。
「お嬢様は光の玉を出して、どっか飛ばしてしまいました。魔力量がものすごく多いですよ。私だったら五秒も持ちません」
(なんだ、これもみんな使えるんだ……)
「結局、光の玉なんてみんなも出せるのね。適性とかってなんの意味もないのですね」
片方の頬を膨らませ、そう言葉を零す。みんなほかの属性を使っていたのがずるい。そう思わずにはいられない。どうせなら炎とかで、焚き火してみたかった。
「いいえ、適性はあくまで使えるか使えないかだけですよ」
カリーレは首を横に振りながら、そう伝えてくれた。そして言葉を続ける。
「使えても、魔力量がなかったら意味がないものですよ」
「そんなに魔力量に左右されるのね、でもあの光はちょっとしか吸われなかったわよ?」
「あれをちょっとだけですか……」
カリーレは悲しい顔になり、項垂れてしまった。あれだけでもみんなは結構大変だそうだ。
「光の魔石が欲しいです」
私は実験用に色々考えてみた。光の魔石があれば、ロウソクの代わりになって、魔力を流し込むだけで部屋が明るくなる。夜では快適のはずだ。
「魔物を倒せば手に入りますよ」
その言葉にカリーレはウキウキし始めた。魔物とはどんなものなのだろう。
「なりません。魔物は凶暴です。メルディーラお嬢様に万が一のことがあったら、あなたは責任を取れるのですか?」
カリーレは、うっ、と言って項垂れた。カリーレは元気すぎるゆえに先のことを考えていないようだ。それと、感情の上げ下げが激しい。
「この本にはどんなものでも魔石は手に入るそうよ、虫とかならいいんじゃないかしら?」
私はカリーレに助け舟を出した。カリーレはそれを待っていると思う。先程から、涙目で私を見ている。変な子だと思う。
その言葉に、ぱぁっと明るくなり「そうですね! 私が教えます」と言ってくれた。虫は倒すのに躊躇いはないが、カリーレが来たら大きなものを探そうとしそうなので、却下した。自分の身が一番大事。
「そんなぁ、お嬢様もレオネット様みたいに厳しくならないでくださいよぉ」
その言葉にレオネットと私は顔を合わせる。そして二人して深いため息を吐いた。レオネットはいつもカリーレとこんな感じなのだろう。疲れないだろうか。私は疲れる。
「部屋にもたまに虫が入ってくるのですから、それでいいですわ」
「そうですね、本日の読書は終わりにしましょう。今日は色々ありましたから」
「そうね、そうするわ。わたくしも色々考えたいことが増えましたもの」
言葉を返してくれたレオネットに頷いて、レオネットは項垂れるカリーレを引きずりながら出ていった。マミーユもいたので、マミーユには刺繍用の針を持ってきてと伝えて、部屋の中で待つことにした。
しばらくすると、マミーユは刺繍道具を持ってきた。
「お嬢様は花嫁修業、頑張ってくださいね」
それをやるつもりなどなかったが、「ええ、頑張るわ、あなたも少し休みなさい」と言って追い返した。ここからは私だけの時間だ。
「さぁ! 始めましょう!」
そう声に出し、私は四つん這いになって、床とにらめっこを始め、針を片手に、床の木の隙間をガリガリ始めた。
虫の魔石はこの隙間にあるかもしれない。と思ったのだ。糊でくっつければ、大きな魔石になるはず、そして、ロウソク節約生活が幕を開けるのだ。
……ガリガリガリ……ガリガリガリ。
なかなか出てこない。まだ、根気強くやるしかない。
……ガリガリガリ……ガリガリガリ。
部屋の中は夕日で照らされ、オレンジに輝いている。それでも未だに床のガリガリを止めていない。さすがに腰が痛くなり、たまに伸ばしてまた始める。
中々集まらない。左手の中には小指の先ほどの小さな魔石が五つ握られていた。
その時、扉が開かれた。扉の叩く音が聞こえないぐらいに集中していたようだ。
「メルディーラお嬢様。何をなさっているのですか?」
「何って、魔石集めですが?」
「……私からしたら、床を傷つけてるようにしか見えないのですが」
「虫の魔石はこの隙間にあるのですよ、見てみなさい、五個も見つけましたわ!」
ギュッと握られていた魔石をレオネットに見えるように高く手を上げて開ける。でも、レオネットは違った。
「メルディーラお嬢様。淑女たるもの、人がいない時でも優雅な立ち振る舞いをなさっていただかなくてはなりません。わかりましたか?」
叱責が飛んできた。褒められると思ったのに……。たしかに、今思い返せば、床に這いつくばりながら、刺繍用の針で床の隙間をガリガリ削って、魔石を集めるなんて、淑女ではありえないと思う。けど、ロウソク節約生活は大事だと思う。絶対、これは譲れない。なので反論するのだ。
「わたくし、みんなのために魔石を集めていたのですよ」
「メルディーラお嬢様。あなたは方向性が違いますよ……」
「でも、ロウソク代は節約できるのではなくて?」
レオネットは額を抑えながら、ため息を吐いた。どういう意味なのだろう。とりあえず、魔石は机の上に置いて、レオネットの元へ戻る。
「まずは、お風呂に入りましょう。床を傷つけて、汚れましたから」
「傷つけてないですよ……」
反論も虚しく、私はお風呂に放り投げられる。このお屋敷のお風呂も広かった。お湯につかりながら頭を倒して、頭をゴシゴシされている。レオネットの手つきはとっても優しい。気持ちがいいものだ。
「メルディーラお嬢様は、リュンレルテ様とお茶会する際の贈り物は選ばれますか?」
顔を赤く染め、ふぁ〜とため息を吐いていた時にレオネットからそんなことを聞かれる。お茶会に招待された者は何か手土産を持っていくそうだ。最初が肝心なのだとか。
「わたくし、食べられるものの方がよろしいと思うのです」
日用品はまだよく分からない。美的感覚はあるけれど、私の肌は常につやつやしてるせいで、化粧品は無くてもいいぐらいだ。化粧品は高そうだし、節約大事だと思う。次に考えたのは食べれるものだ。お茶会だし、リュンレルテの両親は知らないけれど、食べるものが嫌いな人なんていないと思う。
私はお茶をよく飲むので、それに合わせたものがいいだろう。男の人でも喜ばれると思う。
「お菓子なら、クッキーやケーキでしょうか」
レオネットは髪を水でばしゃあと音を立て、流しながらそう呟く。
「お菓子もいいですけど、わたくしの手作りなんてどうでしょう」
振り返って、レオネットの反応を伺う。彼女は眉間に皺を寄せ、なにやら考え始めた。多分、眉間に皺を寄せているのは考えている時のようだ。怒ってると思っていたけれど、違う。また新しい発見。
「メルディーラお嬢様はお作りならない方がよろしいかと、商人を呼びましょう」
前半の言葉にムッとしたが、後半でぱぁっと明るくなる。カリーレと同じように、私も感情の上げ下げが激しいようだ。
「商人とはどんなものなのでしょう? ここに呼べるということは平民ですね? どんな人が来るのでしょうね!」
そう感情のままに質問をする。我ながら、好奇心旺盛だ。
「商人は欲しいものを作ってくれたり、持ってきてくれたりします。平民街では美味しいお菓子や食べ物が流行しやすいので、ちょうどいいかと思いますよ」
お菓子。その言葉を聞いた瞬間、思わず立ち上がった。
(節約すれば、お菓子がいっぱい買えますもの!)
半分みんなのお金管理のためだけど、半分は私のだ。譲らないよ。
「なら早速、呼びましょう。明日ならいいでしょうね」
「明日の午後です。平民の商人とて、貴族と会うのですから、準備は必要です」
それもそうね、と呟き、お風呂から出る。髪を拭かれ、体も拭かれる。そして、すっかり暗くなった頃には食事の間でご飯を食べる。




