↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄金のメルディーラ 〜魔石で大切な人を楽にしたい〜  作者: タルミア


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/82

57 それぞれの褒め言葉

 今、私は二度目となる領主一家との食事を共にしている。違うところをあげるならば、成人したばかりの領主の子が、領主の近くの席に座っているぐらいだ。


「父上、騎士三人を相手に勝利してまいりました」

「よくやった。もっと励むがいい」

「はい!」


 元気な返事をしたあと、嬉しそうにパンを頬張っている彼は、ヨダリルスという名前らしい。食事の間に向かう前にブリジストが私に追いつき、私に「名前だけでも知っていなさい」と言われながら教えられた。

 別に興味などなかったのだけれど、ブリジストはそれすらを無視して話していた。名前以外は聞き流したけれど。


「メルディーラ、このご飯は美味しいか?」


 急に領主から声をかけられ、中身のない返事を返してしまった。多分声が裏返ったと思う。


「美味しいです。わたくしの料理人にしたいぐらいです」


 もちろんレリアナートの方がいいけれど、料理人助手を一人ぐらい貰えないかなとか思っての発言だ。

 断られてもいいし、最大の褒め言葉にもなる便利な言葉である。


「そうか、料理人は要検討だな」


 検討しなくていいですから。と思わずそう言いたくなる。

 なぜかよく分からないけれど、さっきからヨダリルスに横目で睨まれる。もしかして、領主と話してしまっているから、嫉妬でもしているのだろうか。


「どうかなさいましたか?」


 ブリジストを間に、少し頭をずらしてヨダリルスを見つめる。彼は薄い空色の瞳に私の姿を映しながら、またもや睨みつけてくる。


「なんでもない。見ていただけだ」

「兄上は嘘を言っているよ、メルディーラ」


 そこへ空気の読めないリーレルトが間を取り持つかのようにそう告げた。正面にいるヤーネットはオロオロしており、その左に座っているリーレルトはものすごく自慢げに鼻息荒くしている。

 もうちょっと穏やかにご飯を楽しみたい。


「嘘、とはなんでしょうか?」

「貴族が嘘を言うなど、恥だ。君には関係ない」


 確かヨダリルスは成人したばかりの十五歳。まだまだ難しい年頃なのだろうね。多分きっと。


 私になんの恨みがあるのかは知らないけれど、それでもご飯は美味しく食べることにした。デザートもものすごく美味しかった。


 食後の家族団らんのお茶をして、ヨダリルスが領主にたくさん自慢話するのと、リーレルトはお母さんにずっと話しかけていて、正直つまんなかった。

 正面にいるヤーネットだけは、チラチラとお茶と私を交互に見ては、ため息を吐く。そんな繰り返しをしているせいで、ちょっと可愛かった。

 ブリジストはずっと無口だったけれど。


 食事の間から、ヤーネットとブリジスト、それから私たちを残して、領主一家が出ていき、やっと落ち着けると思いながら深い溜息をこぼした。


「もう長いわ……なんなのかしら、殿方とは」

「自分の武勇伝を語るのは今の年齢だからな。皆そうだった」

「そんなもの、聞いたところで少し反応して終わりじゃない」

「それを好む令嬢もいるということだ。君には通用しないだけの話」


 そう言われ、そそくさとブリジストは出ていった。

 結局、何が言いたかったのか分からずに立ち上がり、ヤーネットの方へ歩み寄る。


「ヤーネット? お茶会をするのでしょう?」

「いいの? 聖女様とお茶会なんて……」


 この子から私に予約したはずなのだけれど、どういう形で予定に組み込まれたのか分からない。

 カリスティーを見つめるが、彼女は首を傾げるだけで、特に動かなかった。


「ヤーネットがお茶会の予定を入れたのでしょう? 行きましょう」

「そうね!」


 パッと明るくなるヤーネット。なんかちょっと儚げでとても可愛らしい。何度でも言えそうだ。

 お茶会は彼女の自室で行うこととなり、私はヤーネットの向かいの席へ座ってお茶を嗜んでいた。


「聖女様に色々とお話したかったので、嬉しいです」

「ええ、そう? わたくしは聖女なんて呼ばれることをしていないわよ」


(家では怒られてばかりだよ)


「そんなことないわ。こんなに美しいもの」


 あらやだこの子ったら、ものすごく褒め上手だ。

 リュンレルテとは違い、恋愛小説の話は一切出てこない。裏で情報を取ってきたりしているのだろう、と思う。


「それを言われると、照れてしまうわ……」


 キュルルンとした目をして、恥ずかしがってみると「それを殿方の前でやらないでね」と言われてしまった。もしかしてヤーネットにも叱られる未来があるのかもしれない。

 それだけは避けたい。一個下に叱られるお姉さんなんて絶対に嫌。


「ヤーネットの白髪はとても綺麗ね。まるで快晴に浮かぶ雲のよう」

「それは褒めすぎですよ……」


(よし! 勝った!)


 無駄に私の闘争心に火がつき、褒め言葉の言い合いになった。傍から見れば、謙遜し合う謎の友達だけれど、普段味わえない言い合いにものすごく楽しかった。

 ヤーネットも楽しかったのだろう、先程のオドオドとした態度が綺麗さっぱり消えており、代わりに楽しそうな、嬉しそうな笑みを浮かべている。


「ところで、ヤーネットはいつも何しているの?」

「え、わたくしですか?」


 キョトンとした顔のまま首を傾げる彼女。領主の娘は基本何をするのか気になる。私のように魔石の研究なんてしていなそう。


「わたくしは花嫁修業を基本的にやらされているわ。他領、もしくは他国に嫁ぐためにやらなくてはいけないの」


 この子の役割は間を取り持つための政略結婚をすることである。知らない人に勝手に嫁がされるのは、嫌だと私も思う。


「そうね、少し前はわたくしもそうだったわ……」

「あら? メルディーラは今もじゃない」


 どういう意味だろう、と首を傾げる。それを察したヤーネットは言葉を続けた。


「メルディーラは王都へ向かうのでしょう? それは嫁ぐのとあまり変わらないのでは?」

「わたくしは役職を全うするだけよ?」

「でも、嫁入りと何ら変わりないじゃない」


 この子が何を言っているのか分からない。私の役目は聖女という役職につき、人々を癒して、守るのが役目だと思うけれど、それが嫁ぐとなるのは別ではないだろうか。


 二人で首を傾げ合い、よく分からずにヤーネットは話を変えた。


「メルディーラは自屋敷では何をしているの?」

「わたくしは魔石研究をしているわ」

「魔石研究? 魔石を綺麗にするお仕事かしら」

「違うわ、魔石を使える道具にするのよ」

「魔石にそんな使い道があったなんて、さすが聖女様」


 周りの大人たちの話を聞いている限りだけれど、歴代聖女たちは魔石研究なんてしていないと思うので、聖女を褒めないで私を褒めてくれてもいいと思う。

 私はふと気になったことが頭をよぎる。


「魔石はいつも何に使われているの?」


 またもやキョトン顔をしたまま、ヤーネットは口を開いた。


「何って、装飾品よ。本だったり指輪だったり、あとは髪飾りとか服の模様にも使われているわ」


(おぉぅ、なんてもったいない……)


 私なら絶対装飾品にしないと思う。買うなら別だけれど、原石を持っていたら全部研究に投資してしまう。


「ヤーネットは物知りね」

「周りの人達が教えてくれるのよ」


 ヤーネットが話し終わるのを見計らって、彼女の侍女がコッソリと耳打ちをした。

 ヤーネットは立ち上がり、私の横にやってきた。


「わたくしはこの後やらなくてはいけない用事がありますので、お茶会はお開きにいたします。本日はご足労いただき、ありがとうございます」


 裾をつまみ上げながらお辞儀する彼女にびっくりした。

 所々拙いながらも、頑張って言葉を繋げて私に伝える姿が、ちょっと前の私に重なっている気がした。


「ええ、わたくしも楽しいお茶会でしたわ」


 私も立ち上がり、裾をつまみ上げながらお辞儀をする。ヤーネットもその侍女たちも、ポカーンと口を開けたまま私を見つめていた。


 我に返った皆は、ぞろぞろと部屋を出て行った。


(私をヤーネットの部屋に置いていって大丈夫なのかな……)


 いくら聖女であっても信頼しすぎるのは良くないと思うよ。


「メルディーラ様が綺麗な挨拶をしたので、皆が見とれていましたね」

「わたくしはやればできる子なのよ」

「メルディーラお嬢様、少し褒めただけで調子に乗らないように。足をすくわれますよ」


(レオネットはもっと人を褒める努力をした方がいいと思うよ!)


 べーっと心の中でしながら、そう思った。

 次は書類仕事だ。そう思い、ちょっと憂鬱になってきた。次は領主とブリジストの間で書類仕事をするなんて、絶対重い空気になるはずだ。沈黙がいちばん苦手なのかもしれない。


(早く帰らせてー!)


 届くはずのない声を、胸の内で天井に向かって叫んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。