50 聖女を知る者たち
熱も下がり、ようやく魔石研究に打ち込むことができる。
「カリーレ、マミーユ。研究室へ行くわよ」
「かしこまりました」
朝食を終え、早速ルンルンで研究室へ向かった。そして、冷却魔道具より温水道を作る方法を考えていた。
「まず、水が流れるところに炎の魔石を組み込むのはどうでしょう?」
マミーユの言った通り、水が流れる細い筒の中で温められれば、温水として出てくるはずだ。
「流れる水は少ないし、すぐに温まるかもしれませんね。ただ、魔力供給はどうしましょうか」
「カリーレ、とりあえずやってみるしかないわ」
「マミーユに炎の魔石を輪っかになるようにやってもらいましょう」
「任せてください」
そして、各々の役割が始まり、私は相変わらず紙とにらめっこすることになった。
箇条書きで失敗したところや、成功した事などを思いつく限り書き記し、失敗例と成功例が混ざりに混ざった研究成果の紙が出来上がった。
これでは読みにくいため、二枚の紙に移してまた書き上げる。これの繰り返しだ。
「お嬢様、できま……」
そこへ扉を叩く音が響き、一斉に扉の方へ視線が集まった。
扉が開かれ、そこにはカリスティーが立っている。
「メルディーラ様。ブリジスト様という方からお手紙が届いております」
扉をくぐって中に入り、私の前に手紙が置かれた。
「ありがと、カリスティー」
「これぐらい、どうってことはありません」
私はまだ未開封の手紙を手に取ろうとしたところ、カリーレに取り上げられてしまった。
どうしたんだろう、とカリーレの行動を見ていると、彼女は口を開いて言う。
「カリスティー、手紙や贈り物には必ず検閲しなさい。毒など盛っている可能性がある」
「も、申し訳ありません……」
そこまでは考えすぎだと思うけれど、実際王都ではこういうことがあるかもしれない、とカリーレは言う。
確かに、聖女の立場は王族とほぼ同じ立ち位置にいるため、良からぬ者たちに一服盛られるかもしれない。
「カリーレ、中を読んだあとわたくしに」
「承知しております」
そう言って、中身を思いつく限り触り、指でなぞるなどして検閲を進めた。終わると、再び私の前に置かれる。
「わかった? カリスティー。貴方が貴族だった時でも、皆同じ事をしていたんだよ」
「はい、後でレオネット様に教えてもらいます」
「うん、その方がいいだろう」
敬語を使うカリーレは少し頼りないけれど、敬語を使わないカリーレは何だか格好よく見えるのは、なぜだろう。
気を取り直して、私も中の文面を読み始める。
内容はとても簡単だった。前聖女とブリジスト、それからサイベルとの関係性を教えてくれるのと、王都でのことを教えてくれるそうだ。
「王都に行く前に色々聞いておかないといけないわね、例えば……デザートかしら」
「お嬢様? 政治の話を聞いてくださいね」
マミーユに優しく叱られ、私も「はぁい」と心にない返事を返した。
それにしても、随分と待たされた気がする。
「なぜこんなに待たせるのかしら、魔族は時間の感覚が分からないの?」
「学院にいた頃の記憶ですが、一ヶ月程度なら昨日と一緒と言っていたのを見てました」
(見てましたって、それはもう盗み聞きなのと一緒なのでは? カリーレ……)
それは言わないでおくことにして、私は手紙をもう一度読み返した。何度見ても内容が変わることはないけれど、少なからず王都行きがなくなったという報告が来ないかと期待していた。
「はぁ……めんどうくさいわね」
小さくそう呟き、そっと手紙を元の形に戻した。
この一週間は何も変わらない魔石研究を続け、どれも失敗続きだった。一つも発見することができず、没になっては作り替える工程を、何十回とも繰り返した。
「魔石の研究が上手くいかないわぁ……パパっとできて、すぐに使える物にしたかったのに」
「その気持ちも分かりますが、マレリルズ達にも任せて欲しいと言っていたじゃないですか」
カリーレの言う通り、マレリルズは自分に任せてなんて言っていた気がする。平民街に気を取られてしまっていたけれど。
食事の間で昼食後のお茶を一口飲み込み、茶器を持ったまま席の後ろにある大きな窓の外を眺める。
「わたくし、あまり実感がないけれど、これでも聖女なのよね……」
皆は思い思いに会話をしており、私の言葉が皆に届くことはなかった。そして、お茶をもう一口飲み込む。
そろそろ領主の館へ行く時間となった。皆は慌ただしく私をあちらこちらへと連れて、髪飾りを選んだり、服を選んだりと忙しい。
領主の館へ行く時、いつもこうなのだから、何もしてない私ですら疲れてしまう。きっと皆の方が疲れているだろう。
「レオネット様、こちら方が服に合っている気がします」
「それだと、少し派手です。今日はおそらく魔法訓練も……」
などと話しているので、私は自室にある机にボーッとしている。出かける前の恒例行事みたいなものだ。
ようやく馬車に乗り込み、今回はカリスティーとレオネットと私の構成だ。カリスティーの同行許可も貰わないといけないので、少々大変である。
しっかりと交渉せねば、と張り切った。
「ところで、メルディーラ様はなぜ領主の館へ?」
カリスティーの問いかけに、私は考えた。確かに、聖女の力を行使する時に自然と使い方が浮かぶのに、なぜ魔法訓練をするのだろう。
「それは知らないわ、ついた時にブリジストにでも聞いてみるわ」
「かしこまりました」
馬車が止まると同時に扉が開かれ、優雅に馬車を降りた。ベリルが出迎えをしてくれ、いつものように案内される。
ここの館はいつも廊下が長い。魔法訓練する前に足がくたくたになってしまいそうになる。
ようやくブリジストの部屋の前に到着して、扉がベリルによって開かれた。
「り、領主様……?」
そこにはなぜか領主もおり、椅子に座ってお茶を楽しんでいた。
「おや、私が来ては悪かったかな?」
「いえ、そのようなことはございませんわ」
何とか平然を装い、ベリルの案内で椅子に座った。
一つの丸い机に、ブリジストと領主とサイベルが囲んでいるので、地味に大人の男性たちからの威圧感が凄まじい。
今回の交渉はできるのだろうか。




