48.5 幕間 ブリジスト
罠魔法の研究をしていると、突然通信魔術具が輝き始めた。王都からの専用水晶のようだ。
「なんだ?」
威圧的に答えてみたが、やはり王都の魔族ともなると長生きのようだ。
『あらー、開始早々そんな感じなのー?』
音の魔女と呼ばれているこの魔族は、どんな相手にもこんな感じのふわふわした口調で喋る。それが一番癪に障る。
「用件を言え」
『ブリジストはいつもそうよねー、他の魔族は敬って話してくれるのにー』
そうかもしれないが、たった二百年しか違わないのだから、こうなるのも仕方ない。
早く用件を話して欲しいというのに、無駄話ばかり話している所に、段々と苛立ちを覚えた。
『それで用件はー、聖女様のー、宮殿整備が整ったのー』
「なら、六歳になる誕生月に送る」
『あら、早いねー。もしかして……』
音の魔女、ゼレンシアも状況を察して、言葉を止めた。何かとブツブツ呟いたあと、続けた。
『なら、その方が正解だったね、聖女様が来る日にブリジストも来てね、魔族会議をするから』
いつもの長い語尾はなくなり、真剣な言葉を私に投げかけた。いつもこんな感じに話してくれれば、と思わざるを得ない。
「わかった。音の魔女様の仰せの通りに」
水晶の光が消え、鬱陶しかった声もなくなり、ようやく静かな部屋となった。
私は引き続き罠魔法の研究を始め、ふと思い出したことがあった。
メルディーラに前聖女の話をすると言っていたのに、約束の日も何もしていなかった。
「ベリル。聖女様に手紙を送れ」
「かしこまりました」
扉の外にいたベリルに声をかけ、扉越しに返事をされて足音が小さくなっていく。
そしてようやく罠魔法の研究を始める。私の一つだけの魔法をこの八百年研究し、さらに強力な魔法へと進化させるため研究を続けている。
気づけば一日が過ぎており、隣にはサイベルがいた。
「声をかければよかったというのに」
「ずっと前から声をかけていたのですが……」
気配を消していたの間違いではなかろうか。それより何の用なのか聞いてみると、やはり聖女の話だ。ここ最近は聖女の話ばかりしているような気がする。だいたい十年ぐらいだろうか。
「それでなんですが、どんな内容を話すのですか?」
メルディーラにどこから話せばいいのか、分からない。それに、どう思われるのかも分からない。感情とは厄介な。
「私とサイベルと聖女の関係性だけでも話せばよかろう。それに、王都で感情を隠してもらう必要があるため、理由も話さねばならない」
「そうですか。分かりました」
サイベルは頷き、部屋から出ていく。私も溜まった仕事を片付けるために、一枚のマントを着て、領主の執務室へと向かった。
「ブリジスト、よく来てくれた」
「そろそろと思ったのだ」
もちろん嘘だが、罠魔法の研究が一段落ついたから、来ただけのこと。それは言わずに書類を半分私の席へ移動させ、計算を始める。
「そういえば、聖女の件はどうなっている?」
ここでもまた聖女の話になった。あまりにも、その話ばかりで私はうんざりしている。だが、人間にとっての聖女はそれほど大事なのは理解している。
大昔に現れた魔王の存在も、聖女の力がなければ倒すこともできなかった。私はその瞬間に立ち会っていないし、まだ産まれてすらいない。
「ああ、王都の方では準備ができていると連絡が来た」
「そうか、ならばいい」
そう言いながら、ガレリアは銀の前髪を掻き分けながら、頭を押さえる。
何を考えているのか分からないが、きっと二回連続この領地に聖女が現れたのだ。他の領地からの批判の対処をする必要があるので、疲れているのだろう。
書類仕事を終わらせ、ベリルからは一週間後あたりにメルディーラがやってくると連絡が来た。
「来た時のためにも言葉の練習をしておかねばならないな」
「その必要は無いかと、今の聖女様は寛大ですから」
「そうだな」
ベリルの言葉に頷き、この一週間は罠魔法の研究へ没頭した。
一週間も経てば、書類仕事がまたもや溜まりにたまる。なぜ他の貴族たちに任せないのかが分からない。十代目聖女が書類仕事をした時に、あまりにも完璧にこなしたせいで他の貴族はいらない、となってしまったのが原因ではあるが。
だが十代目が亡くなったあと、十一代目以降の聖女には書類仕事をさせなくなった。それなのに、一度仕事から外された貴族たちが、再び担当することもなかった。
「他より長生きした十代目で、人間の世代交代が終わってしまったのが原因か……」
「多分、そうだろう」
ガレリアに励まされ、今日メルディーラが来るまでに書類仕事を終わらせることにした。




