48 冒険者ギルド
確かに、扉を開けると同時にモヤッと白い煙が出てきたように感じる。とっても汗臭そうな雰囲気に、怖い男性たちが椅子に座ったまま私たちを見つめている。
「あれは誰だ?」
「子供の来る場所じゃねぇぞ」
「おばさんとお姉ちゃんもいるじゃねぇか」
なにやらコソコソと話し声が聞こえてくる。コソコソしているはずなのに声が大きすぎるのが問題な気もする。
「カリーレ、冒険者ギルドの証みたいなのってあるの?」
「ありますよ、登録だけしてみますか?」
「やるわ!」
そういう証みたいなのって、持ってるだけでもウキウキする。
そして私たちは、カリーレを先頭にギルド内を進み、ある受付窓口までやってきた。相変わらず、コソコソ話をされている。
「冒険者の証をくれ」
「は、はい……二人でしょうか?」
受付をする黒髪の少女は、カリーレとレオネットを交互に見遣る。カリーレは首を振り「この子と、私だ」と一言。
「でしたら、奥へどうぞ」
そう言われ、言われるがままにその受付の人について行き、応接間に通された。
「準備してまいりますので、少々お待ちください」
扉を閉め、受付少女はどこかへ行ってしまった。カリーレとレオネットはいつも通り私の後ろに立ち、私は多少柔らかめの椅子に座って時間が過ぎるのを待つことにした。
しばらくすると、廊下からドタドタと重みのある足音を鳴らしながら、この部屋に近づいてくる人影を感じる。バタンと大きな音を立てて扉を開け放たれ、筋肉だらけの男性がこちらを見つめた。
「ギルド長のヤンカリです」
茶髪を二つに分けて立たせているような髪型にちょっと目を奪われる。ちょっと性格が濃そうだ。
「わたくしはメルディーラよ、冒険者の証をちょうだい」
「その前に、あんたら貴族だろ? なぜ冒険者の証を?」
「何って、好奇心?」
何言ってるのか全くわからない、と言いたげに眉尻を人差し指で強く押し込んだヤンカリ。私も証だけが欲しいのであって、何かに利用することはないと思うけれど。
「わかった、手続き用の水晶を」
いつの間にかヤンカリの後ろに受付少女がおり、その手には透明で大きな水晶を持っていた。
目の前の机に置かれ、中を覗き込むと難しそうな模様が中心で浮かんでいる。
「これは魔術陣でしょうか、にしては水晶がやや小さめですね」
レオネットが突然口を開き、水晶に近づき凝視している。レオネットでも気になるものがあることを知った私は、なんとなくホッとした。
「これは、ちょっと昔の時読みの魔女がギルドに置いていったものなんだ」
「時読みの魔女? 魔族かしら」
「ああ、そう呼ばれていた。これに魔力を流せば、未来を占えるというものらしい」
王都にいる占い派閥の人達も、こういうのがあるのだろうか。ならば、その人たちが何を見たのか気になる。
早速、水晶に手のひらを当て、魔力を流し込んだ。橙色に輝き始め、黄色と赤の明るい色が激しくぶつかり合っている。これが何を意味するのか全くわからなかった。
「これが占いだ。これを専門職にしてる人らは理解できるらしいが、俺達には全く使いこなせないんだ。何かわかるか?」
この場にいる全員が水晶の中を覗いていたが、誰も理解できていない様子だった。強いて言うならば、水晶の黄色の光の点は聖女の魔力なのでは、と推測する。
「全然分からないわ……推測ばかり飛び交ってるもの」
「お嬢様に同感です。色のついた光がぶつかるだけですからね」
「私も分かりません。光は聖女の魔力なのではとは思いますが」
カリーレも分からずに首を振るが、レオネットは私と同じ推測をしていたようだ。だが、光の属性を扱える人はこの世にたくさんいる訳なので、私ではない誰かなのかもしれないけれど。
「これでもう終わり?」
「ああ、本当は魔力検査もしたかったが、貴族ならば余裕だろう」
そう言いながら、剣が二本交差している首飾りを二つ机に並べてくれた。一個は私ので、もう一つはカリーレの分だろう。
カリーレの時読み水晶の反応は黄色に輝くだけで特に何も無かった。
「これが、冒険者の証……」
なんとなくすごく嬉しくて、飛び跳ねそうになるが、右肩と左肩にレオネットとカリーレの手が置かれている。二人とも大人の力を使って、私を抑え込んでいるようだ。
あとのことは冒険に出ないため、注意などは全部聞かずに帰ることにした。
今日は濃い一日を過ごして、私は大いに満足し、ウフフンと歩きながら証を握りこんでいる。
「お嬢様、馬車に乗ってください」
ついうっかり馬車の横を通り過ぎてしまい、カリーレに注意されてしまったが、今はそんなことはどうでもいい。なぜならちょっとダサいけれど、かっこいいと言えなくもない証を持っているからだ。
「カリーレ、この首飾りつけて」
「お屋敷に戻ったらやります」
これは早く帰らねば、と飛び跳ねて乗り込むと、レオネットは「淑女たるもの……」と叱り始めた。二人は私に叱りすぎなんだよ、だから反抗期が早くやってきてしまったんだ、と心の中で悪態をつく。
お屋敷に戻ると、玄関には誰もいなかった。流石にどれくらいで帰るかは伝えていないので、お出迎えはいなかった。
「カリーレ、マミーユとカリスティーの状況を確認してきて、レオネットはお風呂行きましょ」
「かしこまりました」
二人の声が重なり、カリーレは早々にマミーユ達を探しに行った。私とレオネットはお風呂へ行き、便利な水道で水を出しているところを見つめる。
「今日から使うわね、便利かしら?」
「お陰様で、少ない魔力で湯を沸かせそうです」
「なら、褒めてもいいのよ」
髪を洗う手は止まり、アワアワの手がゆっくりと頭を撫でる。
「本当に褒めてくれるの?」
「いいえ、これはゆっくり汚れを取っているだけです」
「素直じゃないわね」
レオネットは本心を言わないけれど、この手の動きは撫でている時と同じ動きだ。頭を洗うという名目だが、撫でられているようで、素直に嬉しかった。
「さぁ! 色んな魔道具を研究しては作って、皆を楽にするわ!」
「程々にしてください。侍女たちのために色々考えてくれているのは助かりますが、それでメルディーラお嬢様がお倒れになってしまっては、元も子もないですよ」
そんなことはわかっている。熱を出したって光魔法で何とかできるかもしれない。たぶん。
お風呂から上がり、髪を乾かしたあとは、夕食をとるため食事の間へ向かった。カリスティーとマミーユとカリーレは先に食事の間におり、私が来るのを待っていたようだ。
「マミーユとカリスティー、わたくしの留守の間に何かあった?」
「特にありませんでした。平和でしたよ」
「問題は何もありませんでした」
マミーユはニコッと私に笑顔を向け、私も笑顔で返す。
「では、カリスティー。全て覚えていられる?」
「問題ありません。目的のためならば、どんなお仕事も請け負います」
「その心意気は嬉しいけれど、あまり無茶しないでちょうだい」
私の言葉が終わると同時に食事が運ばれてきた。首に下げてある冒険者の証を手のひらで見つめ、キュッと握りしめた。




