47 魔石工房
「あっ」
無礼な言い方をした禿げたおじさんは一瞬で青白い顔になり、すぐに扉を閉めて引きこもってしまった。なんと、バルスクがいたのだ。
「お嬢様に無礼な物言いを……」
カリーレは何度かバルスクと顔を合わせていたが、それでも許せないものは許せないと言った感じで怒りを露わにする。
バルスクも引っ込んで出てこないし、私は早く魔石が見たい。今のこの時間が無駄だ。
「バルスク開けなさい。貴方に用はないわ」
扉越しに声をかけ、ガチャリとゆっくり開かれた。目を泳がせたまま、バルスクは言葉を選び続ける。
「お、おや、久しぶりだ、な……メルディーラ様」
あまりにも動揺しすぎて目に入れたくないほどではあるが、彼なりに頑張って再会を喜んでいるのだと思う。そうだといいけれど。
「そんなことより、魔石が見たいわ」
「すまん、ここは俺の店じゃないんだ、中に入って行きな」
「バルスク! お嬢様に向かって何たる言動だ」
荒い鼻息をフンフンと鳴らしながら、今にもバルスクにナイフを突き刺しそうな勢いだ。なので、私はこんなめんどうな事は今するべきではないと考え、口を開いた。
「バルスク、言動に関しては全て許可出すから、さっさと店に入れてちょうだい」
「えっと……わ、わかった」
「お嬢様!?」
カリーレには悪いけれど、こんな平民街で貴族の常識を持ってきたとしても意味がない気がする。確かに、亡き者にしてしまえば貴族だから許されるだろうけれど。
レオネットもきっと怒っているだろうと思い、顔を向けてみるが、無表情のままバルスクを見つめている。レオネットの気持ちは全部カリーレが代弁して話している気がするので、黙っていることにした。
「さぁ! 早速入るわよ!」
私はバルスクの横をすり抜け、早速中に突入していく。面白いことに、水道に使われている部品がたくさん並べられており、爆売れした時のために、色んな形をしたネジもある。
これはこれで見るのは楽しいけれど、肝心の魔石が見当たらない。キョロキョロと辺りを見渡し、バルスクが察してくれた。
「魔石の加工なら、奥だぞ。ついてきな」
そう言われ、店の奥へ歩を進めていくと、六人ぐらいの人が魔石をコネコネしていた。
「今回の魔石の発案者であるメルディーラ様が見学している。挨拶を」
六人全員に大きな声で話しかける。その声量に少しビクッとしたが、笑顔でひた隠した。それよりも、物珍しそうにこちらを見つめる六人たちだが、誰一人女性がいない。
「男性ばかりなのね、女性は?」
「女性は飾り付け用の為の加工に集中していて……違う魔石工房に行ってしまったんだ」
それはなんともかわいそうなことだ。私も普通の令嬢ならば、着飾ることばかり気にしていたかもしれない。なので、平民と言えど美を求める仲間なのだから、なんとなく分かる気がする。
「魔石工房なのだから、てっきり魔石の研究をしているものかと」
「魔石の研究をするには魔力が足りん……それに、魔力増幅魔石なんて買えるほど裕福な店じゃない」
マレリルズは人を見る目はあるけれど、店を見る目がないのかもしれない。きっとチャンスを与えたくてこうしているのだろうけれど。
「バルスクばかりに話させているけれど、ここの店主は?」
「店主はいないんだ、俺が代理でやっている」
「俺の店じゃないんだ、とか言っていたのに?」
ちょっとゴツゴツした顔を真似て言ってみたが、じっと見つめられたまま動かなくなってしまった。怒らせてしまっただろうか。
「貴方達、手が止まっているわよ」
手をぺちぺちと二回叩き、六人の従業員に作業を再開させ、一人一人の手つきを見るために部屋中を歩き始める。
皆の手が震えている。これではしっかり丸くならないと思うのだけれど、本当にこれでいいのか気になる。
「貴方、手が震えているわ」
「すすすみません!」
椅子から急に滑り落ちるように跪きながら、頭を地面に激しく打ち付ける。あまりにも突然の行動に、私は困惑してしまい、眉を寄せる。
「お、おい! お前何したんだよ!」
そこへ、隣にいた別の男性が、地面に頭を擦り付けている人にボソリと呟く。
とりあえず、私は落ち着いたけれど、本当にこの人達は何をしているのか全くわからない。そんなに地面の隙間が見たかったのかと聞きたくなってしまう。
「なぜ謝るの? ちょっと理解できないわ……」
「く、首を……?」
(いやなぜその言葉が出てくるの?)
平民たちの考えることが何一つ理解ができない。多分私の考えすぎなのだろう。
バルスクが早足でやって来て、平民たちに説明を始めた。
「あのな、この子はお前らの行動に不思議がってるだけだ。謝るところなんてないんだぞ」
「そ、そうなんだ……」
確かに、その行動を不思議に思っていたけれど。
ホッとため息を吐く六人の従業員。そしてバルスクはクルッと私の方へ体を向ける。
「メルディーラ様も、理解できなくても眉間に皺を寄せるのはやめてくれ、怒ってるようでハラハラする」
「ああ、なるほど、怒ってるように見えていたのね、これは申し訳ないことをしたわ」
「ああ……次から頼む」
その言葉に微笑み、私は誤解されたくないのでササッと店を後にした。
カリーレはなんだか不満そうにしているし、レオネットは頭を地面に擦り付けている状態を見て、それが正しいと言わんばかりに何度も頷いていた。
これは平民街での動き方や喋り方などを、しっかり勉強しなくてはいけない気がする。覚えたらレオネットとカリーレに教えてあげよう。
「次は何を食べてみようかしら」
「メルディーラお嬢様は懲りませんね」
「あら? なんの事かしら」
「なんでもありません。私が食べさせますので、お夕食が食べられる程度に少なめの物を、与えます」
相変わらず健康第一すぎるレオネットに、たまには健康に悪そうなものを食べてみたいとか言ってやりたくなる。言った後に絶対長時間説教がやってくるけれど。
魔石に関することは何も目新しいことはなかった。ただ、魔石をこねてる六人の従業員を見せられただけの、言ってしまえばつまらないものだった。
そう考えながら、屋台を色々見て歩き、食欲をそそるものは特になかったため、冒険者ギルドへ向かうことにした。
「冒険者ギルドのこと、カリスティーから聞いておけばよかったわね」
「あ、私は聞きましたよ。寝る前にお話してくれました」
「どんな所かしら!」
カリーレは昨日の夜のことを思い出しながら、唇に指を当て、うーんと唸る。
「脳筋男しかいないから、いつも暑苦しくて居づらい、と」
「何それ、暑苦しい男……臭そうね」
「実際臭いみたいですよ」
アハハと笑うカリーレだが、なんだか冒険者ギルドにものすごく行きたくなくなってしまった。できることなら、外から見て帰ろうかと思う。
冒険者ギルドは大通りに面しており、すぐに見つけられた。看板には剣と剣が交差した印が描かれていたから、何かしらの闘技場かと思ったけれど、しっかり冒険者ギルドだとか。通りすがりの平民から教えてもらった知識である。
少し大きめの扉をカリーレが押して、開けてもらう。中からは、重々しい防具を着た男の人たちがこちらを睨みつけてきた。




