43 魔石コネコネ
研究室が橙色に染められ、壁に飾られている照明器具の下部を引っ張り灯りをつける。
カリーレも他のものに魔力を流しつつ、下部を引っ張る。
「すごく便利な魔道具だわ、誰がこんなことを考えたのかしら」
これはもちろん私が作ったやつだが、ここまで便利だと自分で生み出した物じゃないような感覚を持ってしまう。
カリーレは苦笑しながら「お嬢様じゃないですか……」とツッコミを入れるが、偶然カリーレが見つけたのもお手柄と言えよう。
「それよりも、魔石のことはわかったし、この魔道具の構造をもっと見てみたいわ」
そう言うと、片付けられていた水の魔道具を机の上に並べられる。本体は一本の鉄の筒で、先端には滑り止めのついたネジ式の取っ手がある。横から見ると十字形になっており、左右には魔石と魔力核を収める場所が分かれていた。
ネジは魔力の流れを調整するため、開け閉め用として使われている。
「複雑……こんなに難しいものをよく考えたわね」
「依頼してから時間が経ってますし、試行錯誤の結果だと思いますよ」
そう言われると確かにそうかもしれない。それよりも、今後の新たな課題を考えた。お湯を作りたいのだ。
「この狭い空間に、どうやって火の魔石を入れようかしら」
「火の魔石を入れる空間なんてありませんね、お湯を作るのでしたら沸騰させた方がいいと思います」
「今は夏になりかけているけれど、このまま行けば冬になるのよ? 先のことを考えなくては」
その言葉にカリーレはむぐむぐと唇を引き締める。その後は小さく「確かに」と呟き、一緒にこの水道と名付けられた物を見つめる。
「出口あたりに火の魔石を当てて見ようかしら」
「その方がいいかもしれません。水が流れてる状態で暖かくなるのか試さなくては」
彼女は試行錯誤しながら水道を組み直し、完成させてネジを回した。
ザーッと一定に流れるその水は触るととても冷たくて、お風呂としては使えない程だ。
「簡易的な物を前に作ってもらったものがあります」
カリーレの手の中には、魔石と魔力核を封じ込めるための鉄を用意し、その間には鉄の筒で繋がっている。
真ん中の鉄の板っぽい薄いものを外せば、魔力が魔石へ流れる仕組みだそうだ。
「早速やってみるわ」
真剣な眼差しで火の魔石を入れて、早速水の近くまで近づけていく。カリーレは指の先を流れ出る水に触れながら「準備が整いました」と一言声をかけてくれる。
魔石が触れるように水に押し当て、カリーレの反応を待った。
「暖かくなりました。お風呂ほどの温度ではないですが、手を洗うぐらいなら」
お風呂ほどの熱さがなければ、これは使えない。内蔵されている魔石自体を変える必要があるかもしれない。コネコネ大作戦に切り替えるべきか悩む。
「マミーユに魔石の加工を任せるなんてどうでしょうか」
「それもいいかもしれないけれど、マミーユは普段何をしているの?」
私はマミーユのお仕事がよく分からないというか、見えない所でいつもお仕事をしている。それもあって普段何をしているのか全くわからない。
「部屋の掃除やレリアナートの料理の手伝いとか、洗濯物を洗ったりとかですよ」
思ったよりもお仕事が多すぎる。この家では一番下の者だが、負担が大きすぎるのも問題だと思う。
「それってマミーユばかりにお仕事を押し付けてるように見えるようだけれど」
「それはそうかもしれませんが、ここの従者たちは四人しかいないのです。今はカリスティーの侍女になって貰えるかどうかですが、五人でも仕事に手が回らないので……」
言われてみれば四人だけの従者で、リュンレルテのお家では何十人もの人がリュンレルテの従者をしていた。圧倒的に人員不足で皆毎日が大忙しなのだとか。
「それは深刻な問題ね、聖女宮殿とかいう場所ならば、少しは楽になると思うわ。多分」
「聖女宮殿なんて、魔術学院以来の言葉です。私たちには関係の無いものでしたが」
「そんなことより、今度は夏への魔道具を開発したいわ」
また聖女の話をするなんて、考えるのがめんどうなのですぐに話を変えた。カリーレもその切り替わりに乗り、どんなものが欲しいのか尋ねる。
「できれば暑くない服とかでしょうか」
「魔石を糸にすれば、使い切った頃には全裸だわ」
「まず、何を材料にするかからですね……」
しょんぼりするカリーレに苦笑しながら、考えた。暑くない服があれば、汗もかかないし派手な動きをしても疲れにくいかもしれない。服の路線で考えることにしよう。
「魔石糸をとりあえず作ってみようかしら、マミーユを呼んでちょうだい」
「かしこまりました」
しっかり扉からカリーレが出ていき、マミーユを探し始めた。私は水の魔石と火の魔石を削り、糊でくっつける。
そして、水道の魔石部分は着脱可能なので、中身を入れ替えてネジを回してみる。
「水の勢いが弱い……」
暖かくはなったが、水の出る量が思いっきり半分ほどになった。それに、消費速度も早くなり、少しすると水が出なくなってしまう。
水道のネジを回そうにも熱くなりすぎてまともに触れることすらもできない有様である。
「これは却下ね」
そんな実験を放棄した頃にマミーユとカリーレが研究室にやってきた。
「魔石をこねるってどうやるのですか?」
「私が教えるよ、マレリルズが目の前で実際にやってくれたからね」
「分かりました」
私も魔石コネコネがものすごく気になり、マミーユを中心に座らせて、カリーレと私で挟み込んだ。
この状態にマミーユは落ち着かない様子を見せながらも水の魔石を持ち、人差し指に魔力を放出しながらつついてみた。
「凄いわ……つついた部分だけ凹んでる」
魔石が柔らかくなるなんて想像もしなかった。水をぽたぽたと垂らしながら、一部をちぎって手のひらでコロコロと回す。
「魔石とはこんなに柔らかくなるのですね」
マミーユも驚き、見事真ん丸になった魔石を手のひらで転がしている。私もそれを見てやってみたくなり、向かいの椅子に座り水の魔石を取り出した。
「お嬢様!? おやめください!」
そうカリーレは言うがもう遅かった。最初の頃と同様に、水の魔石が爆発して周りに水を弾かせた。ここにいる全員がびっしょりと濡れてしまう。
「けほ……また鼻の中に入ってきた」
「お嬢様ぁ……魔石に触らないでください……」
今にも泣きそうに私を抱き抱えながらそう言った。マミーユも何が起きたのかまだ把握しきれずにその場で魔石を握りながら、ポカーンとしている。
「わたくしもコネコネしたいのに、マミーユだけズルいわ……」
「えっと、申し訳ありません?」
「マミーユ、こういう時はしっかり叱らないと」
「わたくしをなんだと思ってるのよ」
何か言うべきか迷ったカリーレは、唇をむぐむぐした後、ため息を吐きながら雑巾で机を拭き始めた。
「カリーレ様、まずお嬢様のお着替えが先です」
マミーユが目じりを吊り上げ、カリーレを叱った。
「えっと、怒ることができたんだ……」
「わたくしのマミーユは優秀ね」
マミーユは暖かい笑顔をして、私の味方だよと目で訴えてくれる。とても心強い。
一方カリーレは、口を尖らせながら私の頬を軽く抓む。
「カリーレ、わたくしの肌は有料級なのよ」
「なら、報酬はデザートですね」
「デザート! 沢山抓りなさい」
そう言うとカリーレは抓むのをやめてしまった。今は情緒不安定の時期なのかもしれない。
「とりあえず、水の魔石を丸くしたのですが、他には何かやりますか?」
「そうね、糸みたいに細長いの作ってみて」
床に散らかった水と私のお着替えを済ませた後、マミーユの魔石糸作りを始めた。糸の細さになると難しそうだ。凸凹と太い部分や細い部分が出来て、糸は固くなりとても糸としては使えそうになかった。
「これだと細くて固い石にしか見えないわね」
「これはものすごく難題ですね、魔力を流せば一瞬で折れちゃいますし」
服として出来上がったとしても、表面積が多すぎるせいですぐに溶けてしまうのも問題だった。最初は表面積を増やすことに重点的だったのに、今じゃ表面積を減らさなくてはいけないなんて、作りたいものでいちいち変わってしまうのがとてもめんどうでもある。
「とりあえず、これの続きは明日にしましょう、今はもう外は真っ暗ですよ」
マミーユは窓の外を見つめながら、手を窓に向けた。私も手で指される外を眺めると、完全に夜になっている。
「照明器具が明るすぎて気づかなかったわ」
「そうですね、マミーユが教えてくれなかったら、明日の朝になっていたかもしれないです」
「でしたら、毎晩呼びに来ましょうか」
「いや、研究中に来てしまったら思わぬ失敗が……」
結局マミーユの圧に勝てなかったカリーレは、小さく返事したあと、夕食を取ることにした。
明日こそは涼しい道具を作ると三人で決めた。




