42 家族とは違う愛
「聞いてきました」
水の魔石の加工方法をカリーレに頼んでおいて、しばらくすると戻ってきたのだ。少し息を切らしている。
「どうだったの?」
「実は、平民にしか使えなそうなのです……」
「え!?」
それだと私が加工できない。またガリガリ削って、糊でくっ付けて加工できたと言えるのに。
「どうやってたのよ」
「魔力の低い人で、魔力を注ぎながら素手で魔石を揉むそうです」
「え? どういう事?」
「平民の魔力だと、魔石が柔らかくなるらしいです。平民の間では、それが加工、と……」
平民が何故か優遇されてるような気がするけれど、ここで魔力の違いが出てくるとは思わなかった。魔力が多いと魔石が壊れやすい、逆に少なすぎると加工ができる。
魔力になにか隠された秘密があるのかもしれない。
「まぁ、いいわ、こちらにはマミーユもいるもの。リュンレルテのお屋敷に向かうわよ」
「かしこまりました」
正直言うと、平民がものすごく羨ましい。想像すれば、手の上でコネコネと転がしながら、形を変えられるのが、ものすごく羨ましい。
(くっ……聖女の力を持ったばかりに……)
そして私たちは着替えを済ませ、いざリュンレルテのお屋敷へ行くことになった。
「メルディーラ、いらっしゃい。今日はわたくしの自室でもよろしいかしら」
「もちろん。リュンレルテの行きたいところにわたくしも行くわ!」
元気よく返事をして、リュンレルテは小さく笑ってくれる。可愛い。
トコトコとリュンレルテの自室へ向かい、用意されていた椅子に座り、部屋の中をキョロキョロと見てしまった。
「変かしら?」
ほとんどの荷物がないのと、やけに殺風景というか。とにかく何も無い部屋だった。
「いいえ、ここはリュンレルテの部屋なの?」
「ええ、何も無いでしょう? 引越し作業していたのよ」
「引っ越す? どこへ?」
向かいに座っていたリュンレルテは急に立ち上がり、私の横へやってきた。私は何を言われるのか、と身構えていると、彼女はその場で跪き言った。
「十九代目聖女、メルディーラ様。わたくしたちは、聖女専属情報収集兼専属侍女の家系です」
「え、なにそれ知らないわよ」
「そうだと思うわ、わたくしたちは王都で聖女様にお仕えする家系だもの」
リュンレルテの様子に後ろにいるレオネットの方が、驚きを隠せないでいる。目を見開きながらリュンレルテを見つめていた。
「え、待って、それじゃあ今までのは演技?」
「演技じゃないです」
急に敬語で話されると気持ち悪い。友達なのだから下に回らないで欲しい。
「畏まらないで、友達でしょう?」
「メルディーラが聖女である以上、友達にはなれないの、主と従者。この家の決まりよ」
「くだらないわ、友達でいて欲しい」
リュンレルテの顔が曇っている。迷ったあと、彼女は口を開いた。
「お父様に後で聞いてみる。引越し先は王都よ」
「そう、わたくしについてきてくれるの?」
リュンレルテは頷きながら席につき、私を見つめる。
「メルディーラが聖女になるとは思ってなかったわ」
「やっぱり、感情かしら」
「そうね、賢そうな貴方なら、わたくしの家系に取り込もうと思ったけれど、それも無理そう」
ああ、あの時頭脳が欲しいと言ったのはそういう事だったのか。リュンレルテも大概賢そうに見えるけれど。
「人の前では聖女様って呼ぶのはどうかしら。今あなたの侍女とわたくしと貴方しかいないから、いつも通り」
「どこでもそうしたいけれど」
暖かい笑顔を向けられ、それはできないよと無言で訴えられる。聖女になってしまったせいで、友達作りにも制限があるなんて、どうもやるせない。
「そういえば、貴族の間で噂になっているわよ」
「どんなもの?」
「現聖女はブリジスト様に好意を持っているとか、現聖女は商人ととかなどよ」
「噂話しかしない貴族なんてめんどうくさいわね」
一つ大きなため息をつき、リュンレルテを見つめると苦笑している。それにしても、彼女の情報収集能力はすごいと思う。
「あ、それと、照明器具が届いたのよ、魔力核に魔力を入れて、引っ張るだけで部屋が明るくなるなんて画期的だわ」
「でしょう? 頑張ったのよ!」
「最初は魔石に関する本を読むのが好きって言っていて、ちょっと困惑したのよ」
私は机に手を置いて、体を前に出して「普通よ!」と言い、言葉を続ける。
「それよりも、恋の本の方がよっぽど分からないわ、焦れったくて何が面白いのか分からないもの」
「まあ、メルディーラはまだまだお子ちゃまなのね」
お子ちゃまでいいもん、と答えて、プイッと顔を背ける。リュンレルテはその様子を見て笑っているけれど、恋なんてできないししようとも思わない。
「恋愛小説を貸してあげる」
「いらない、魔石の本なら」
「そんなものうちにはありません」
口を尖らせながら、そのイタズラな言葉に返すが、レオネットのような言葉で返される。皆レオネットに毒されてる気がするんだよね。勘違いだけれど。
「メルディーラ、わたくしたちも一緒に王都へ行くけれど、いつになったの?」
ブリジストが言っていたのは六歳の誕生月と予定が入れられている。レオネットに聞いた話によると、私は春生まれだそうだ。
「春の半ばだけれど、多分雪溶けと同時に出発かもしれない」
「そう、六歳からなのね、王都は意地でも占い派閥に渡したくないみたい」
「それもあるけれど、一番の理由はわたくしに感情があるからだそうよ」
「予想外の出来事を作り出すメルディーラなら、どんな問題でも軽く解決してくれそうね」
このちょっと意地悪に言う彼女が本来の人なのだろう。いつもはお淑やかに気を使ってくれたりするけれど、今のリュンレルテの方が一番話しやすい。
「わたくしを常識外れみたいな言い方しないでちょうだい」
「あら、わたくしはそんなこと思ってないわよ」
彼女は片手を顔の高さまで持っていき、人差し指と親指を少し近づけながら、相変わらずの意地悪を言った。
「ちょーっと残念聖女様と思ってるわ」
「リュンレルテ、貴方はちょーっと残念侍女になりそうよ」
私もそう言い返し、二人で見つめ合いながら小さく笑った。この時間がとっても好きだ。
家族とは違う愛を知り、私は帰宅することになった。
「リュンレルテが出したデザート美味しかったわ」
「そう? わたくしは甘すぎて半分しか食べれなかったわ」
「でも、その半分はわたくしが食べたじゃない」
馬車の前で、リュンレルテとデザートの話をした。確かに滅茶苦茶甘すぎたけれど、私の口にかかれば余裕だった。
リュンレルテはそうじゃないみたい。
「レシピは貴方の侍女に持たせてあるわ、それじゃあね」
「リュンレルテはたまに優しいわね、またね」
「ずっと優しいわよ」
最後にそう発して拗ねているが、それがなんとも可愛い。リュンレルテが私に意地悪なことを言う理由が少しはわかった気がする。
窓越しに手を振り、馬車に揺られ始めた。レオネットの手を見てみると、折り畳まれた紙を握っている。
「レオネット、それを見せてちょうだい」
「どうぞ」
差し出された紙を開き、内容を見てみると。
『レシピなんて教えないわ、わたくしのお茶会に来てくれたら出してあげる』
と書かれている。
(あああああ! やられた!)
リュンレルテは意外と策士だ。今度そのまま仕返ししなくてはいけない。それとお茶会に行ってあのデザートをもう一度堪能してやる。と心の中で新たな誓いが生まれた。




