41 平民の結晶
カリスティーとの話とは、ひとまず一段落して、マレリルズと水の魔石の話へと移った。
「水の魔石を使った魔道具が完成しましたので、本日お持ちいたしました」
「見せてちょうだい!」
ようやく完成の報告だ。これでレリアナートもお仕事が楽になるかもしれない。
ボナが私の前に水の魔道具を置いた。思ったよりも小型化されており、桶に挟んでネジのようなものを回せば、水が出る仕組みだった。
「これは凄いわね」
ネジを開けたり閉めたりして、水が出たり止まったりと見るのがとても楽しい。ネジを少し弱めに閉めると、ぽたっぽたっと音を立てながら、雫が落ちている。
「お気に召しましたか?」
「ええ! ええ! もちろんだわ!」
興奮が収まらず、未だにこの魔道具を開け閉めし続けていると、レオネットから手を添えられる。
「淑女らしくしてください」
小声でそう叱られてしまった。確かに、少しはしゃぎすぎたのもあるけれど、ようやくレリアナートを楽にしてあげられるし、レオネットも魔力を消費し続ける必要がないのだ。分かって欲しい。
「……はぁい」
ぷいっとレオネットから顔を背け、私はマレリルズに顔を向ける。
「ふっふ、これが平民たちの結晶となりました。どんどん発展させて、より良い魔道具を作りたい所存です」
「ええ、もちろん期待しているわ、わたくしも魔石の研究をした後、その成果を渡すとするわ」
「ありがたいお言葉です」
礼をして、マレリルズたちは帰っていった。
水の魔道具を作り出した平民たち。これが平民が初めて魔石で魔道具を作り出した第一歩なのだ。未来が楽しみ。
「カリーレ! さっそく分解してみるわよ!」
「お待ちくださいお嬢様。まずは軽食です。今後の予定も考えなくてはいけないですし、レオネット様からブリジスト様へのお話もございます。」
今日はカリーレがまとものことを言い出してしまった。レオネットはそんな彼女を見て、無表情で何度も頷いている。負けた。
確かに、考えることは山ほどある。特にカリスティーの、この家での待遇だ。
「先に問題を片付けないといけないわね。あとは解散してちょうだい。カリスティーはここに残って」
「お待ちください。侍女や誰も残さないおつもりですか!?」
レオネットもそう言いたそうにカリーレの言葉に賛成している。だけれど、この人が私の信頼を勝ち取るには必要なこと。やるしかないのだ。
今なら、身体強化を駆使できるかもしれない。聖女の力で。
「とりあえず、皆出てちょうだい。終わったら呼ぶわ」
「分かりました。扉の前で待機いたします」
「レオネット様……」
レオネットの言葉に、カリーレは何か言いたげだったが、そのまま退室して行き、マミーユもチラチラと交互に私とレオネットを見つめるが、何も言わずに出ていく。
「一体何を……」
「これは、誰にも言わなかったけれど、鹿の討伐をした際に身体強化をしたのよ」
「え、あ、はい……」
体に魔力を流し、身体強化をしていく。カリーレの言った通り、顔は無表情になっているのが、カリスティーの瞳に映る私がいる。
「聖女の力って便利ね、やったことの無いことが、次々わかるような感じなのよ」
「め、メルディーラ様?」
ゆっくりと私は歩み寄り、私たちの距離は徐々に近づく。彼女は一歩後ずさるが、私は二歩進んで、彼女の目の前で佇んだ。
「すぐ終わるわ」
そう言葉をかけ、時間をかけた。
やることが終わり、私たちは少し早めの昼食を食べていた。
「一体、なんのお話をしていたのですか?」
マミーユは恐る恐るといった様子で伺っている。
「ちょっとした信頼作りだわ」
「お茶をご用意できていませんでしたね」
マミーユは本当にお茶が好きだ。今度、私と同じ茶葉を買ってあげようと思う。あの家族でのお茶会から、お茶の腕がぐんぐん上がってきているので、嬉しい限りだ。
「いいのよ、それよりもわたくしは水の魔道具を分解して中を見たいわ!」
「お嬢様……程々にしてください」
カリーレはため息を吐きながら、俯きながら額に手を当てる。
「カリーレはなんだかレオネットに似てきたわ」
「私がしっかり教育していますから」
無表情ながらも自信満々なのがすごく伝わる。教育というのは大事なんだ、とカリーレを見ていればつくづく思う。
「リュンレルテのお屋敷に行く前に分解して構造を確認、それから改良の余地などを調べられるかしら」
「それはお時間が足りません。リュンレルテ様のお茶会が終わったあとがよろしいかと」
「そうするわ」
カリーレに返事をして、カリスティーを見つめてみる。マミーユの隣に立っているカリスティーに、少し新鮮な感じがする。
「カリスティーがいるのは、不思議な感じだわ」
「私も久しぶりの貴族街でのお泊まりですので、少し違和感があるという感じです」
「貴族の作法は覚えていらして?」
「まだ覚えています」
一度身につけた技術は衰えにくい。マミーユに教えてあげれば、レオネットからのお茶会許可が取りやすくなるかもしれない。今度やってもらおう。
パクパクと次々とご飯を口に運び、ようやく食べ終わり、着替えて研究室へやってきた。
「カリーレは分解はできるかしら」
「こういう鉄でできたものを分解したことはありませんけれど、多分できるかもしれないです」
「カリーレは意外と手先が器用だから、任せるわ」
「意外と……おまかせください」
前半の言葉にしょんぼりしていたが、最後には炎が立ち上がるほど本気になってくれた。この情緒にはよく分からないけれど、やる気が出たのならありがたいことである。
分解したあと綺麗に並べると、筒になって曲がっている物や、小さいネジや六角形のネジらしきものがたくさんある。
こんなに細かいものを見るのは初めてで、なんとなく楽しくなってくる。
「これが水の魔石だと思います」
差し出された水の魔石は、糊でくっつけた魔石ではなかった。原石をもっと小さくしたようなものだった。
「これは原石? でも真ん丸すぎるわ」
「そうですね、削られた跡もないですし、原石のようにボコボコしたものがないです」
これは予想外の技術だ。私が作ったものよりも格上なのだろうか。マレリルズを呼び出したいところだが、もう家に帰ってる頃のはず。
「カリーレ! マレリルズに技術を見てきなさい! すぐにわたくしに伝えるのよ」
「はっ!」
短い言葉を返し、走りながら詠唱をして、窓から飛んで行った。
(ここで足止めされるとは……)




