34 皆とお茶会
今日は魔石研究も魔術特訓もお休みにして、午前中は淑女教育をやらされる。
午後からはマミーユが庭でお茶会する。雑草が前よりも生えかかっていて、土の肌がなくなりつつある時、私は黄金の花を生やす。
「こんな私なんかのために……」
庭を見たマミーユはずっと止めていたが、私は強行突破したのだ。魔力がもったいないと言っていた。今日はマミーユのためのお茶会なのだから、これぐらいはやらないといけないと思う。
「これはわたくしがやりたい事なのよ」
「……わかりました、お茶の用意は終わっています」
少し考えた後に、マミーユはお茶を準備し始める。マミーユと私がいつも飲んでいる茶葉が違うで、彼女はいつもより穏やかな笑顔をしている。背景がキラキラしてる気がする。
「お嬢様、こちらへ」
椅子に座るよう促す彼女にひとつ頷き、席に着いた。マミーユも向かい側へ「失礼します……」と言いながら座る。ちょっと緊張しているのがわかる。
「所作なんて気にしなくていいわ」
「い、いえ、レオネット様に怒られてしまいますので」
なんだか、個人的に仲良くなった人たちはレオネットに叱られがちだ。マミーユも大変なんだね。
「そう、できる限りでいいわ」
笑って返答したあと、マミーユは一口お茶を飲み込む。驚いたようにその味を噛み締めている。
「これは、すごく美味しいです。もっと美味しいお茶を作れるかもしれません」
これ以上に美味しく飲めるなんて、誰が想像していたというのだろうか。嬉しく思い、私はふふっと小さく笑って一口お茶を飲む。
「あ、ズルいですよ、マミーユ」
「か、カリーレ様?」
突然やってきたカリーレが口を尖らせている。そして居なくなったと思ったら、今度は椅子を持ってきて私たちの隣に座った。
「カリーレ? これはマミーユとの約束なのよ」
「お嬢様ぁ、マミーユだけなんてズルいですよ……」
まったくこの人は、大人の皮を被った子供なのではないだろうか。
「カリーレ様、お茶をどうぞ。皆で飲めば、もっと美味しいです」
カリーレも飛び入り参加したことに、マミーユは何も思っていないらしい。なら、全員呼んでお茶会がしたいと思う。
「マミーユ、せっかくだからレオネットとレリアナートも呼んじゃって」
「はい! 行ってまいります」
楽しそうに返事した後に、マミーユは席を立ち、二人を呼びに行った。
「マミーユのあの顔は初めて見た」
「カリーレ、わたくしには見えなかったわ、どんな顔かしら」
「嬉しそうな、楽しんでいるような笑顔です」
ちょうど見ていなかったせいで見逃してしまった。すぐに戻ってきたマミーユはレオネットとレリアナートも一緒にいる。
カリーレが椅子を用意し、五人だけのお茶会が始まった。
「マミーユにも淑女教育をした方がよろしいかもしれません」
「そんな、私は今のままで……」
レオネットはお茶を一口飲んだ後に、口を開いた。マミーユは申し訳なさそうに話すが、実際のところ興味がありそうである。
「これからメルディーラお嬢様のお茶会相手として競い合えば、より一層淑女として磨きがかかると思います」
(お願い! マミーユ断って!)
これ以上厳しくなるのは嫌だ。そう目で訴えるが、マミーユは嬉しそうに「やってみたいです」と答えてしまった。なんだかカリーレの気持ちがよくわかった気がする。
「ふぉふぉ、メルディーラ様。クッキーをお持ちしました」
「クッキー!」
目を輝かせながら、クッキーをひとつ取りかじる。
「お嬢様……お皿に載せないと叱られますよ……」
直でクッキーを取っていたのを見ていたカリーレが、注意してくる。レリアナートは嬉しそうにずっと「ふぉふぉ」と笑っているが、止めてちょうだい。
「今はいいのよ」
「よくありません。教育の見直しが必要かもしれません」
ぷいと顔を背けるが、レオネットによってさらに炎が立ち上がる。
「カリーレが余計なことを……」
「よく注意できました、カリーレ。その調子でどんどんやっていってください」
「かしこまりました!」
むむむ、と二人を睨むが、当然効かなかった。ため息をひとつ吐いて、皆を一人ひとり見つめてみる。
ここまで二月程の時間を過ごした。料理長のレリアナートに、厳しい筆頭侍女のレオネット。そして、カリーレとマミーユ。
皆は思い思いに話をしている。カリーレの所作が褒められていたり、クッキーの出来が良くなったと皆で褒めていたり。今日は皆、褒めるところが多い。
「わたくしが一番褒めたいのは、レオネットかしら」
「私……ですか? 褒められるようなことはしていませんが」
「あなたのおかげで、わたくしは貴族社会にいられるのよ」
相変わらず無表情で見つめてくるレオネットは「大変恐縮です」と言って頭を下げた。実際、初めての記憶ではレオネットが最初だった。頭が痛くてどうすればいいのかも分からずにいる時に、レオネットがいた。
「皆はなぜ、わたくしと一緒にいるの?」
気になった。お金は親のいない私に領主が給付金をくれていた。それでも、給料が貰えても良いものとは言えるほどでは無いと思う。
「約束したからです」
そこでレリアナートが答えた。視線を真っ直ぐ私を見つめ、やや猫背になり目線の高さを合わせている。
「どういうこと?」
「私たちは、ご両親から守るよう約束をしているのです」
親というのはたまにどんなものなのか気になることもあった。でも、結局家族というのであれば、この人たちでもいいと思っている。
「わたくしのお母様とお父様はどんな人なの?」
「情報を扱う者でした」
「情報? それだけ?」
「はい、領地内の派閥や、王城の動きなどの情報仕入れて、領主様に流すというものです」
これは結構大事なお仕事のようだ。色んなお茶会に参加して、探りを入れながら話をする。そうやって、謝礼金を貰いながら貴族社会を生きていたと言う。
「なぜ、いないの?」
「亡くなったからです」
そんなことは言われずとも知っている。侍女三人はどこを見ればいいのか、私と目を合わせることができていなかった。
「この話は終わりにするわ、マミーユとの約束のお茶会だもの」
「いつでも聞いてください」
レリアナートは意をけした勢いで返事をしてくれた。そんなに重要な話なのだろうか。
そこからは、他愛もない話が延々と続いて行った。一番盛り上がっていたのは、成人祭で私が急に宣伝を始めたことだ。
あれは仕方なかった。考え事をしていると同時に話しかけられてしまったせいで、てっきり照明器具が欲しいのかと思ってしまったのだ。
「マミーユ、次は二人だけよ」
「はい、皆様とお茶会ができてとても楽しかったです」
黄金の花たちは赤い太陽に照らされて、橙色になっているように見える。弱い風に押されて、小刻みに揺れるその花は、まるで揺り籠のようだった。
「ええ、わたくしも楽しかったよ」
ボソリと呟いた。けれど、突然やってきた強い風で、私の声は掻き消されていった。
マミーユたちは茶器などの片付けをするため、一度お屋敷に戻って行き、ポツンと庭の真ん中で私は座っていた。生暖かい風が、春の終わりを告げている気がした。




