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黄金のメルディーラ 〜魔石で大切な人を楽にしたい〜  作者: タルミア


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33 交渉

「わたくしは王城に行く理由をお聞きしても?」

「無論、国のための聖女だ。初代からそうしているのだから当然であろう?」


 何を当たり前のことを、と言わんばかりに腕を組み、顎を突き出しながら私を見つめる。


「ところで、次の領主様は成人したばかりの子がいましたね」

「ほぉ、何が言いたい?」


 腕を組んでいる指がトントンとゆっくりと肘を叩き始める。そこで私は確信した。このブリジストは補佐官であるため、領主が未熟だと領地の統率が大変になるのだと。

 この交渉には条件があった。ブリジストは領主より上の立場ではないことである。


「わたくしはここの領地を好んでいるのですよ」

「知っているのか?」


 もちろん。盗み聞きした時、献上しなければ領主の首が飛ぶ、ということを聞いたおかげだ。これは私が逃げ出しても、きっと同じことになっていると思った。

 それで、領主の首が飛ぶと、次の領主は成人して二月の少年ということになる。魔術学院では多分おそらく、領主関係のお勉強は出てこないだろうという、ひとつ賭けでしかなかったが。


「ええ……もちろん」


 ブリジストの眉間に皺が強く浮かび上がる。そうでしょう。仕事が増えれば好きなこともできなくなってしまうのだから。誰だって仕事は嫌なものよ。


「ふん、聖女らしいな君は。何が望みだ?」

「わたくしの侍女三人と料理長一人を連れて行けるのでしたら、王城へ赴きます」


 またお茶を見つめ考え出した。なぜお茶を見つめるのか、ものすごく気になる。


「良かろう。王城に住まう魔族に伝えておく。他には?」


 他にもいいのだろうか。それなら、もう決まっている。これだけは欠かせないのだ。

 私は目をキランと輝かせ、その場で立ち上がり、手を挙げた。ブリジストから見れば顔半分は机で隠れているけれど。


「わたくしの魔石研究所を作ってちょうだい!」

「は?」


 レオネットとカリーレが、深く長いため息が後ろから聞こえる。ブリジストも理解が追いついていない顔をしている。そんなおかしいことを言ってないような気もするけれど。


「王城に魔石研究所だと? 意味がわからん。却下だ」

「それは二個目よ! 絶対いるわ! 世のため人のため、わたくしのためよ!」


 私と彼はジッと目を合わせる。私たちの間に雷が起きそうなほどに。

 ちょっとした後、ブリジストは諦めたようにため息を吐き、頭を抱えて机に肘を置く。


「わかった。検討する」


 やったー! と声を出して喜んでしまった。あたかもこっちが本命でした、と思われそうだが、ちゃんと皆を連れていくのが本命ですよ。


「まあいい、これからの事を説明する。いいな?」

「ええわかりましたわ」


 椅子に座り直し、お茶を一口飲み込み、気持ちを落ち着かせた。その様子を確認したブリジストは口を開いた。


「君には魔法訓練を行う。光の操りを徹底的に叩き込む」

「魔術だけでいいのでは?」

「いいか? 魔術と魔法は別だ。魔術は詠唱の長さや気持ち次第で大地の魔力を使える。だが魔法は自分だけの魔力を使って現象を起こす。わかったか?」

「それは長い話になりそうなので、次の機会でよろしいでしょうか?」


 眉間に皺を寄せまくるブリジストだが、仕方ないのだ。交渉が終わったという安心感と達成感で疲れてしまった。それと、ブリジストは周りが上手く回らないと怒るところがあるようなので、早く帰りたい。

 この人とはきっと相容れない気がする。


「もう良い。明後日、また来なさい」

「わかりました」


 そう返事をして席を立ち、白髪おじさんの背中を追いかけながら、扉をくぐって出ていった。


「ねえ、白髪おじさん? あなたのお名前は?」

「これはこれは、聖女様から名を聞かれるとは、鼻が高いことです。私はベリルと申します」

「そう、ベリルね。白髪おじさんってずっと言うのは申し訳ないと思ったのよ」

「はて? 今回が初めて言われましたが……」


 しまった。口に出して言ったことはなかったが、心の中ではたくさん白髪おじさんって呼んでたせいで、現実と夢の違いがわからなくなっていたようだ。気をつけなくては。


 私は「そうだったかしら……」と誤魔化して、馬車に乗り込み、ベリルにお見送りをされて帰路に着いた。領主の館の門を出ると、一斉に皆がため息を吐いた。


「あぁ、良かったです……今日は本当に疲れました……」

「そうですね、カリーレ様。どうなるかと」

「二人とも、まだお屋敷ではありません。気をしっかりしてください」


 重く疲れた空気が一瞬で消え去った。私も交渉が始まる前は緊張していたし、本当に成功するのかわからなかった。ただ、後悔してる事が一つ。


「メルディーラお嬢様は、領主様の首が飛ぶというのはどこで聞いたのですか?」


 レオネットは視線をカリーレに向けるが、カリーレは激しく首を横に振っている。そして、目線がこちらに来た時は、第二回目の交渉が始まるのだが、これは私の負けでした。

 盗み聞きがバレて、お屋敷に戻るとすぐに自室へ向かって、お叱りを受けた。一番良くないのが、窓の外を魔法で飛んだことがダメらしい。

 落ちたら、とか、もし危険な魔物が来たら、などなど。もうしません。


 その日の夕食はレリアナートも一緒にいた。


「話は聞き及んでおります。交渉成功、おめでとうございます。それと、ありがとうございます」

「ええ、良いわよ。元々わたくしのわがままだったもの」


 自分の席に座り、レリアナートに言葉を返す。今日は彼が直々に料理を運んでくるそうだ。


「今日はデザートを三つご用意しております」

「まあ! 三つも! 早くご飯を食べ終えなくてはなりませんね!」

「メルディーラお嬢様。よく噛んでお召し上がりください。もし食べ物が喉に……」


 とりあえず、レオネットの叱責を無視してご飯を食べる。お肉を食べるとものすごく美味しかった。口の中で溶けるようになくなっている。私の歯などいらないのではと思うほどに。


「このステーキ……すごく美味しいわ……」

「はい、メルディーラ様が捕らえた鹿を、ずっと下ごしらえをしました。臭みもなく、食べやすいと思いますよ」

「凄いわ……あなたの料理は本当に大好きよ」


 そう褒めると、レリアナートは目をこれでもかと見開いて、感激してしまった。


「め、メルディーラ様からのお褒めのお言葉、ありがとうございます!」


 何でしょう、この状況。前にも褒めたことがあったが、こんなことにはならなかった。一体何が原因なんですか。


「お、お嬢様。年上好きというのは分かりましたから……あまり好きというのは異性に……」


 絶対違う。そういうのじゃない。マミーユはすぐそっちへ向かってしまう。

 レリアナートを見てる限り、絶対にこの人は孫からの感謝が嬉しいという感情だ。膝をついて指を組んでいる。「神様……」なんて聞こえてきそうな程に私を拝んでいるのだ。


「なにかしら、この状況……」

「それは同感です」


 レオネットと一緒にため息をひとつ吐いた。

 その後はデザートの三つと、追加で二つずつ頼んだが、三つ食べて断念した。


 お風呂に入り終わり、マミーユと花嫁修業をしていた。


「お嬢様、いつお茶会しますか?」

「そういえば、ずっと放置していたわね」

「忘れていたのですか?」


 悲しそうにしているマミーユだが、忘れるわけがない。忙しくて時間がなかったのが一番の理由だ。


「忘れていないわ、時間がなかったのよ、明日は休みを取るわ」

「お嬢様、ご無理をなさらずに……」

「これはマミーユのためでもあり、今日の交渉成功の祝杯としよう」

「それは、とても嬉しいです!」


 ものすごく嬉しそうに拳を両脇に作り、喜んでいる。それを見て、私はホッとした。

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