27 魔族と遭遇
「ところで、照明器具とはどのようなもの?」
ちょっと沈黙したあと、それを打ち壊すかのようにリュンレルテが口を開いた。私はよくぞ聞いてくれたと言わんばかりの顔になり、また熱弁を始めようとしたが、後ろからレオネットの視線と気配に鳥肌がたってしまった。そして、ゆっくりと話し始める。
「光の魔石を使って、ロウソクの代わりを使うことができるの」
「魔石は高値なのではなくて?」
「加工品だと高値で扱われていますが、原石を削って糊でくっつけたものは安くなるという見込みなのですよ」
リュンレルテは市場価値をよくわかっている様子だった。他の令嬢たちはあまりピンと来てい居ないにも関わらず、リュンレルテは穏やかな顔をしながら何かしら考えている。
「その照明器具が欲しいわ、どこで買えるのかしら」
「平民の商人に作るよう依頼すれば問題ないかと、マレリルズという商人なのです」
名前を聞いた瞬間、リュンレルテの目が大きく開いた。なぜそんなに驚いているのか疑問に思っていると、それに気づいた彼女は教えてくれる。
「メルディーラ、商人に名前を聞くのは、専属や懇意にします、と言っているようなものです。平民から急に貴族への商人になったら、商人同士の諍いが……」
一度目に会った時、マレリルズは嬉しそうに名前を言ったのはそういう事だったのか。さらに、その日から急に専属商人になったことから、他の商人から煙たがれる。なんともめんどうくさい人達なのだろう。貴族も平民も。
「その事はほかの対策を考えるとしますわ、それより、照明器具を使ってからの感想を色々聞かせて欲しいの」
「ええ、わかったわ」
「わたくしも! 欲しいですわ!」
他の令嬢たちも次々と名乗りを上げてくれた。理由を聞いてみると「夜中でも恋愛小説が読めるから」という恋愛脳なのだが。用途はともかく、売れれば私のお財布は豊かになるから、どんどん買っていって貰いたい。
「メルディーラ、今日はありがとう。わたくし、もう帰らなくては」
リュンレルテは一度親の方を見たあと、私に向き直ってそう言ってくれる。私もずっと立ちっぱで足が痛いのでちょうどいい。
「わかったわ、わたくしも帰るとします。他の令嬢方もごきげんよう」
「ごきげんよう」
すっかり皆の警戒心は溶けて、私の挨拶にも答えてくれるようになってくれている。案外、話せばわかるというものだろう。
そうして、私たち三人は馬車に乗るところで後ろから誰かに呼び止められた。
「メルディーラ……だな? どこへ行くのだ」
そこに居たのは藍色の髪をした人間……に見える魔族。ブリジストがいる。その鼠色の瞳はまっすぐに私を上から下まで見つめている。
「ブリジスト様、私たちは今から帰るところでございます」
レオネットはいつもの作り笑顔浮かべ、丁寧にそう伝えてくれる。よく分からないけれど、この人のことはレオネットに任せた方が良さそうな気がする。
「君は関係ない。メルディーラ、時間はあるか? ついてこい」
この人もリーレルトも断る時間をくれないのはなんなのでしょうか。それよりも、この人ちょっと怖いのだ。言葉に圧があるような感じで、魔族だからしょうがないところでもあるけれど。
「わたくし、お屋敷に戻ってやらなくてはいけない事がありますので」
いつもの笑顔を絶やさず、断りを入れる。だけれど、この人はそんなことは構い無しに言葉を放った。
「君は中継ぎ当主なんてやらなくて良い。将来やる必要がないのだ」
「え? はい?」
またこの人もリーレルトとの婚約のことを言うのだろうか。ついうっかり変な声が出てしまい、それに気づいたレオネットの目は鋭く私を見る。仕方がないのだよ本当に。
「ん? 聞こえなかったか? 中継ぎ当主なんてやる必要はない。今は荒れてるんだ。早くしろ」
なんでそんなに焦っているのか全くわからない。
(何も説明にもなってないよ!)
荒れてるとは本当にどういうことなのだろう。屋敷内を見た限りだと、強盗が入ったような感じはないし。
「申し訳ありません。なんの事なのかさっぱり分かりません。なので、後ほど書面にて教えていただけると幸いです」
めんどうなことは紙に書いてもらいたい。話を聞くなんて時間を取るのはどうもめんどうくさい。みんなといる家にいた方が絶対有意義だ。
「その方が早いのか? まあいい。ならばそれに従い、支社に送らせる。返答によっては、リーレルトの婚約も破棄できよう」
何それ嬉しい話ではないか。何の話をされるか分からないけれど、婚約の破棄ならばいいかもしれない。私は感情に任せて「よろしくお願いします!」と大きく声を出して答えてしまった。
ブリジストはひとつ頷いたあと、踵を返してささくさと屋敷内へ戻っていってしまった。
馬車に乗り、動き始めた頃、私はレオネットに聞いてみた。
「あの人、結局なんなの?」
「ブリジスト様は、今後の予定の調整をするつもりでしょう」
「レオネット様、中継ぎ当主をやらなくていいのはどうしてですか?」
カリーレはレオネットを見て、不安そうにそう呟いた。私もそこが気になる。
(私の未来は、一体どうなるのでしょう……)
「それは……今のメルディーラお嬢様にお話するには早いかと」
「では、後で私にだけ教えていただけますか?」
「いやいやいや、まってまって、わたくしも気になるわよ!」
「メルディーラお嬢様。大人の話です」
私だって大人だと思うのだけれど、レオネットから見て私は子供だと言いたいのだろうか。これでも、優秀な子供の中でもずば抜けてるのだ。
「ブリジスト様から送られてきた書面を見てからお考え下さい」
レオネットはそういうけれど、どうしても不安になる。婚約破棄の話という蜜に、心揺さぶられてしまった。この後の自分が気になるのだ。もし、皆と離れることになってしまったら、と考えてしまうと。
「これは、私たち侍女だけでは手に負えないお話です。今後のメルディーラお嬢様の未来に関わる、大事なものです。真実を知るには、ブリジスト様の書面の方がよろしいかと」
「レオネット様、お嬢様がかわいそうです……」
「カリーレ、貴方もお屋敷に戻ったらお話しておかなくてはなりません。マミーユとレリアナートも呼ぶように」
「か、かしこまりました……」
なんだか大事になってきている。なんで皆は私を抜きにして話をするのか、全然理解ができない。そこから沈黙になり、気まづい空気となってしまった。
お屋敷に戻ったあと、私は自室で読書することになり、侍女三人と料理長はレオネットのお部屋に行くことになった。
何の話をしているのかものすごく気になってしまう。
「はぁ……わたくし、まだ子供なのね」
そう自室で呟くが、当然返してくれる言葉はない。本の内容が全く頭に入ってこないのが、読書している意味がないと思う。気になってしまい、私は窓を大きく開けて、脱走した時のように光の足場を作り出した。
「レオネットの部屋は確か……」
レオネットの部屋にはいったことは無いけれど、何となく場所は知ってる感じだった。窓の外までやってきて、中をちらっと覗いてみると、レオネット以外が一列で並びながら立っていた。
「それは本当ですか!? お嬢様は……」
中からはマミーユが大きく声を張り上げる声が聞こえた。私はもっと状況知るために聞き耳を立てる。
「仕方ないことです。献上しなければ、領主様の首を失うことになります」
献上とはどういうことなのだろう。もしかして、私だろうか。
「レオネット様は、よろしいのですか?」
「よろしいも何もありません。今は情勢にガタが来ていますから」
不安そうにしているカリーレの言葉に、レオネットはそう答えた。結局、なんの話なのか全くわからない。
「あとはメルディーラお嬢様のご判断によります。どこへ行っても、悪いようにはならないと思いますよ」
「はい……」
カリーレとマミーユは声を揃えて返事をした。レリアナートは静かにその様子を見つめて、難しい顔をしたまま床に視線を移している。
そして、皆が部屋を出ようとしたところ、私は急いで自分の部屋に戻ることにした。




