26 成人祭
そして成人祭当日となった。成人祭は昼食の時間より少し早めに開催するそうだ。
「なぜ、昼食を食べずに行くのかしら」
「成人祭ですから、昼食は領主のお屋敷でお出しされるのではないのでしょうか?」
「美味しいのかな……」
マミーユは八の字の眉にして小さく笑う。私は領主のお屋敷で出されるデザートのことを考えてみた。レリアナートを連れてって、デザートのレシピをすべて盗んできて、と言いたいけれど、そんな変な令嬢にはなりたくないので一生懸命欲を抑える。
「それより、地味な服装なのに存在感が凄いですね、どんな服でもお姫様みたいです」
マミーユはそういうけれど自分で鏡を見ても、目立たなそうだと思ってしまう。ちょっと他より考えがズレている気がする。
「マミーユは褒め上手ね、そろそろ行かないと」
マミーユを褒めたあとは椅子から飛び降りて、自室を出る。彼女はその姿に叱っていたが、私はそれを無視して玄関に来た。
今回はカリーレとレオネットの二人が同行するのだ。
「お嬢様、すごく綺麗ですね……」
「ありがとうカリーレ。これでも結構控えめの服なのよ」
「メルディーラお嬢様は仕方ありません。髪と瞳が人より神々しい代物ですから」
「レオネット、素直に可愛いと言ってくれてもよろしくてよ?」
レオネットは表情ひとつ変えずに、踵を返して馬車に乗って手を差し出す。カリーレは困惑の顔のまま私の後ろに立ち、私と一緒に馬車へ乗った。
馬車に乗って少しして、お屋敷へ着いた。
「なんだか、緊張するわね」
「今回は一ヶ月の期間がありましたからね、前のように急ではないので」
「そうね」
レオネットと扉を開ける前の会話を少しして、開け放たれる。カリーレとレオネットが先に出て、エスコートで私も外に出て、白髪おじさんに案内される。
(そういえば、この召使いの名前はなんなんだろう)
そう思ったけれど、人の従者に名前を聞き出すのは良くないのでやめておくことにした。
会場前の扉は開け放たれており、既に中の様子が見えている状態だった。ガヤガヤとした声が廊下まで響き渡っている。
扉をくぐり、一番後ろの隅の席へ案内されて、レオネットが私を椅子に座らせてくれる。
「あら、なんだか視線がわたくしに向かってるわね」
先程までのガヤガヤ感は無くなり、代わりに小声で会話する声が聞こえてくる。一体なんのお話なのだろう。
「お嬢様は一人ですからね……」
カリーレは困ったように眉を寄せるが、笑顔は絶やさなかった。さすが元令嬢だ。
私はリュンレルテがいないかと見回してみるが、全然見つからない。やっぱり、前の方にいるせいで見えないのかもしれない。結構人数がいるせいもあるが、圧倒的に身長が足りなすぎる。
「まだ始まらないのかしら」
「多分もうそろそろかと……」
カリーレは色々と質問に答えてくれるけれど、レオネットは社交の笑顔を絶やさず、ずっと辺りを見渡している。誰かを探しているのだろうか。さっきから私の声にあまり反応していないのだ。
「レオネット、探してる人でも?」
「いいえ、貴族や騎士たちの配置の確認です」
「襲撃するでもないのに……」
その瞬間、レオネットは笑顔のまま眉を寄せて、私を見下ろした。その姿が少し怖かったけれど、レオネットは「もしものためです」と言って、また辺りを見渡し始めた。カリーレも同じことをしている。
もしかすると、貴族として普通なのかと思ってしまった。
「皆の者、良くぞ集まった」
一通り見回したあと、一番奥の段の上にいつの間にか領主夫妻と、成人するその息子とリーレルトと小さな女の子がいた。
みんな銀髪のような綺麗な髪をしていて、多分後ろを向いたら絶対誰なのか見分けられないと思う。
「これより、成人祭を執り行う。成人する者、前へ」
会場内に響き渡る領主の声で今年成人する人たちが一斉に立ち上がった。
たくさんの人が立ち上がり、家族に励まされて壇上へと歩み出た。私は数えようとしたけれど、五十人は超えるので辞めることにした。多すぎるせいだ。
「魔族であるブリジストから、祝福が貰える。受け取りなさい」
そう言うと、手を振りブリジストを裏から呼び寄せた。出てきた男性は身長の高い、藍色の髪をした人だった。
「あれが魔族? 普通の人間に見えるわ……」
「魔族なんて、魔力の多い人間にすぎませんよ」
カリーレはブリジストを見つめ、私に聞こえるように呟いた。魔力の多いただの人間。長い間生きているらしいけれど、そんな感じには見えないほどに老けていない。本当に魔族なのだろうか。
「では、皆にこれからの未来のために祝福を」
壇上の真ん中にたち、手を掲げて目を閉じた。少しした後、手からは黄色に淡く光る玉が現れて、成人のみんなに降り注がれて、頭の上で弾ける。
(私の作る光の玉より薄い……)
多分、魔力を温存するためなのだろう。
「皆の者、祝福は終わった。戻りなさい」
領主の声で、跪いていた皆が一斉に立ち上がって、自分の席へ戻って行った。これで終わりなんだと思ったが、その後はご飯が運ばれてくる。侍女たちのはないそうだ。かわいそうに。
領主の人達は壇上で一列になり、皆に見られながらご飯を食べるそうだ。あの小さな女の子が周りをきょろきょろしてて恥ずかしそうにしている。
私のところにもご飯が運ばれて、美味しく食べたあと、念願のデザートがやってきた。果物のタルトだった。
「あら、わたくしがリュンレルテに手土産として渡したやつよね、もう広まっているのかしら」
「そうかもしれません、果物を嫌いな方はいないと予想したのでしょう」
レオネットにそう告げられて、私はタルトを堪能したあとは、皆が立ち上がって挨拶などを始める。私も立ち上がり、皆の元へ向かって挨拶を始めた。その時もレオネットとカリーレは絶対に私の後ろから離れることはなかった。
「お初にお目にかかります。メルディーラともうします。成人おめでとうございます」
「ええ、ありがとう」
それだけ言われるとすぐにどこかへ行ってしまう。そんなことを気にしていても無駄なので、私は次々と挨拶をこなしていく。そして、リュンレルテと出会ったのだ。
「リュンレルテ、ようやく見つけられましたわ……」
「わたくしも、メルディーラを探していたの、挨拶に捕まって大変よ……」
二人して出会って愚痴ってため息を吐いたあとは、タルトの話になった。
「メルディーラ。タルトはいかがでして?」
「まあ、あれはリュンレルテが? とても美味しかったわ」
「それは良かったことよ、あれは領主夫妻に進めてみたら、カリャーシャ夫人が気に入ってくれましたの。メルディーラはいいものを見つけてきたわね」
レシピは商人から買ったやつだけれど、皆が喜んでくれたのならそれは良かった。
「リュンレルテ様、ごきげんよう」
リュンレルテの周りにはいつの間にか他の令嬢たちが取り囲んでいる。私のことは見えないような感じで、肩がぶつかったりするけれど、やっぱり見えていないのかわざとなのか。見えないいじめが見えてくる。
「ごきげんよう皆様。今はメルディーラとお話していますのよ」
「まあ、そんな親無し貴族は放っておいて、恋愛小説のお話をいたしましょう」
リュンレルテの指が前に組まれているが、人差し指がトントンと動き始める。どんな感情なのかは知らないが、リュンレルテは私の方へ歩み寄ってきてくれる。
「メルディーラ、お話に皆様も混ぜてもよろしくて?」
「もちろん、よろしいですわ」
いじめられる事もあるけれど、そんなこといちいち気にしていたら時間の無駄だ。リュンレルテの背後にいる他の数人の令嬢たちは私を見下ろして、眉を寄せている。とても不快そうだ。
「メルディーラは恋愛小説をお読みに?」
どこか隅の方へ移動して、皆と会話することになった時、一番に口を開いたのはリュンレルテだった。場を和ませようとしてくれているのだろう。
「わたくし、恋などは分からなかったのです」
「そうなのね、メルディーラは恋とかには疎そうですものね」
手を口に当てながら小さく笑うリュンレルテに癒される。そして、上を見上げると気づいてしまった。
「そういえば、リュンレルテのお屋敷ではロウソクをお使いに?」
「ええ、そうで……」
「ちょっと、様をつけないとはどういうつもりなのかしら?」
急に口を開いて、リュンレルテの返事を遮った令嬢が現れた。言われたことは別にどうでも良くて、聞かなくては行けないのだ。
「やはり気になりますか? 私研究をしたのですよ。魔力で動く光る魔道具を作り出せたんですよ!」
「はい? えっと……」
困惑してる顔になったが、気になるのだろう。なら教えるまでよ。
「実はですね、魔石の研究をして、魔力を注げば一週間や二週間は注がなくても照明器具として、扱えるようになったのですよ!」
「あ、いや、聞きたいのはそれじゃ……」
「さらにさらに、今は生産途中ですが、今予約しないと何ヶ月後とかになってしまうのです! ロウソクなんて、無駄なお金を落とすより、光の照明の方が見やすくて……」
「メルディーラお嬢様……」
熱弁をしていたところ、急にレオネットから声がかかった。
「なにかしら?」
「今はそこではないです」
「なるほど、研究過程の方がよろしかったかしら」
「メルディーラお嬢様……」
レオネットは額を抑えてしまった。さっきまで声を張り上げていた令嬢は、困惑したようにレオネットを見つめている。レオネットはそれを見て、いつもの笑顔を作り、口を開いた。
「申し訳ありません、ちょっと感情的になってしまったようです。許してくださいませ」
「ふ、ふん! リュンレルテ様と言うようにしてくれればそれでいいわ!」
そう言うと、どこかへ消え去ってしまった。なるほど、それだったのか。と思いつつリュンレルテに顔を向けてみると、なんだかあわあわしててちょっと可愛かった。
「リュンレルテに申し訳ないわ、相手の意図がよく分からなかった……」
「ま、まぁ、メルディーラはそのままでいてくれれば楽しいわ」
「次からは、相手のことを知った上で宣伝しようと思うの」
他の令嬢も、リュンレルテも皆困惑した顔になってしまった。一体何が間違っていたのだろうか。
(なぜそんな目で私を見るの……)




