25 服選び
マミーユの花嫁修業が終わり、ベッドへ放り投げられて就寝となった。
次の日、朝食を済ませるとレオネットが今後の予定を話す。
「メルディーラお嬢様。今後は朝に淑女教育。昼からは魔術の特訓と花嫁修業をやります」
「魔石研究の時間も入れてちょうだいよ」
「ダメです。魔術特訓は義務付けられていますので、魔石研究は後回しです。どうしてもというのであれば、二日に一回なら構いません」
えー、と項垂れる。そんな様子を見たとしてもレオネットは絶対に意見を変えてくれなかった。悲しい。
そんなこんなで、私は二日に一回の魔石研究を楽しんで、商人と会ったり、たまに冒険者たちが遊びに来たりして一月が経った。
「お嬢様、成人祭の服はどうしましょうか、派手なものはいけませんし……」
マミーユは私の服を色々と見比べ、呻いている。ここにある服はほとんどが派手なフリフリの服ばかりのせいで、抑え気味の服があまりない。今から誂えようにも時間もないせいで大変なのだとか。
「古着でいいのでは?」
「それだと、お嬢様の魅力が……」
「わたくし主催ではないのよ、だから古着を商人に持ってこさせようかしら」
腕を組んで指に顎を乗せて考える。マミーユは古着を着させたくなさそうだけれど、先に誂えなかった私も悪いとも言える。ここの服がどんなものがあるのか分からなかったのもあるけれど。
「それより、その照明器具の使い心地はどうかしら」
「発売から半月ぐらいですもんね、これは本当に便利すぎます」
猫の形にできている取っ手。それを引っ張ったり押したりすれば魔力核が近づいて光が放たれる仕組みなのである。
マレリルズから聞いた話によると、三日目で大量の注文がやってきて、バルスクは毎日仕事に追われているのだとか。かわいそうだけれど、お金稼ぎができていいと思う。
「お嬢様は凄いですね、売れる度に一割を貰うなんて、ただでさえ今の段階では高い照明器具の一割が貰えるとなると、裕福になってしまいますよ」
「マレリルズが言っていたわ、供給が間に合っていないから高いと、でもそのうち安値で売りに出されるようになって、魔石の消費者も増える、と」
マレリルズはすごいと思う。先のことまでしっかり考えて、流通に関する書類を見ても無駄なことはないとレオネットが言っていた。未だにお金の価値はちょっと分からないけれど。
マミーユは私の話を聞いて、首を傾げている。あまり理解できていないようだ。
「マミーユ、他にも水の魔石などを研究して、このお屋敷を楽にするつもりよ、だからつらいお仕事があれば、必ず言うのよ」
マミーユは暖かい笑顔を作り、私を見つめた。
「かしこまりました、お嬢様」
本題に戻ると、服をどうするかになるが、ちょっと贅沢に新品の目立たない服を買おう、という話になった。次の日に商人たちを呼び出し、いつもの挨拶を済ませた。
「マレリルズ、服はどんなのがあるかしら」
「はい、色々持ってきてまいりました、髪飾りなどもあります」
ボナが箱を持ってきて、中の髪飾りを見せてくれる。ほとんどの魔石が細かく削ったものを、髪飾り用に加工されており、とても綺麗である。
「最近、メルディーラ様の研究成果を発表したところ、髪飾りにも光る魔石を埋め込めないのか、という研究が行われるようになっています。流石メルディーラ様です」
「光る髪飾りなんて、需要なんてないでしょうに……」
「お嬢様、美はどの女性も欲しがるものですよ、お嬢様は違うかもしれませんが……」
カリーレは横から困ったような顔で話に割って入る。カリーレに髪飾りを贈ってあげたいと思った。過去の事情は分からないけれど、結婚とかも考えなくちゃいけない。
「この黄色いのと、赤いのをちょうだい」
「かしこまりました。あとは服ですね」
「それはマミーユとレオネットに任せるわ」
そういうと、ボナがレオネットとマミーユを連れて部屋から出て行った。服選びが始まったのだ。
私とマレリルズ、カリーレだけが部屋に残り、今後の話を始める。
「水の魔石でもできたのよ、水仕事が楽になりそうね」
「はい、試作品を我が家で試したところ、井戸に行かなくてもいいというのが、ボナが嬉しそうに飛び跳ねていました」
「試作品がもうできているなんて、バルスクは仕事が早くて助かるわ、風と土はなにかに活用できそうではないけれど」
「ですが、ここまでの発明品を作り上げられるのは凄いことです。ところで、製造権を他の鍛冶師にも渡したいと思っているところなのですが……」
そういう権利諸々の話は前にマレリルズに丸投げしていた。でも、製造権は私にあり、製造許可したのはバルスクにだけという形になっている。生真面目な人だ。
「それは、あなたの勝手にしてもらっていいわ、初めて製造された試作品、あるいは製品を私に譲ってくれるなら、構わないわ」
「では、製造料を取りましょう。こちらの利益にもなります」
「マレリルズ、あなた悪い顔になっていましてよ?」
おっとっと、とでも言いたげにすぐに綺麗な笑顔を浮かべて、手を揉み出した。この人の癖なのだが、利益を考える時は悪い顔をする。私にもしっかり利益を分けるところも、切り離されたくないからだろう。
「失礼します。服選び終わりました」
服を選んでいた二人が戻ってきて、代金を支払ったあとは、マレリルズは帰って行った。今や商人たちも忙しそうだ。
自室に戻ると、試着として色々と着せられる。確かに派手でもないし少し地味だけれど、髪飾りをつけると少し綺麗に見える。美を求める令嬢たちは目を輝かせるだろう。きっと。
「カリーレ、これをあげるわ」
「え、私にですか?」
「ええ、そうよ? 気に入らなくて?」
「いえ! 嬉しいです!」
先程買った赤い髪飾りをカリーレが手に取り、自分でつける。
「どうでしょうか?」
「わたくしの思った通り、可愛いわ」
「あ、ありがとうございます……」
少し照れて、頬を抑えて顔を逸らしてしまった。それだと髪飾りが見えないと思ったけれど、本人は鏡を見つめてニヤニヤしているので、そっとしておくことにした。
次は成人祭の本番に向けての特訓を数日やらされる。レオネットは厳しくて嫌だと叫びそうになるが、頑張って耐えた。私、えらい。
「いよいよ明日ですね、社交界の立ち回りは一通り教えましたが、やはり不安ですね」
食事の間での夕食後。お茶を飲んでいるとレオネットからそんな言葉が放たれる。ちょっと失礼なのだが。
「レオネット、わたくしに任せてちょうだい! どんなものからでもわたくしが守ってあげますわ!」
ふふーんと胸を張って声を張り上げた。レオネットはため息を吐いて「それが不安なのです」と呟かれる。そんなのを無視して、私は元気よく心の中で呟いた。
(成人祭を成功に導いてあげるよ!)
と。




