24 魔力増幅魔石
食事を終えたあとはカリーレと一緒に自室へと戻った。
「カリーレ、研究成果を紙に書いといてちょうだい」
「書き方が……」
手紙の書き方も分からないカリーレだけれど、この物書きは適当でいいと思う。
「研究成果なんて、手紙のように書かなくていいわよ」
「では、やらせていただきます」
俯きがちの顔が前を見つめ、ペンを握り書き始めた。
私はずっと魔石を削る仕事をしている。別の魔石の粉が混ざると大変だ。光の中から水が出てきてしまうかもしれない。
「お嬢様、できました」
渡された紙を受け取って見つめてみると、研究成果は分かりやすく書いてある。カリーレは手紙のような遠回しの言葉が書けないんだと思う。きっと。
「できるじゃない」
「ありがとうございます……」
なんだか、褒めたのに嬉しそうじゃないのが気に食わない。喜びなさい。
それはいいとして、お着替えを済ませたあとは商人と会うことになる。
「今レオネット様が向かってるとこです」
私たちは応接間へ移動し、この広くて綺麗な場所での魔石研究の成果が語れるのだ。楽しみ。
「マミーユ、お茶をお出ししてあげて」
「本当ですか?」
「ん? ええ、いいわよ?」
マミーユが悲しそうな笑顔浮かべたあと、お茶を準備し始めた。なにか間違えていないはずだけれど、良くなかったのかもしれない。後で聞いてみよう。
「商人が到着しました」
扉が大きく開け放たれて、レオネットがやってくる。今回もマレリルズとボナの二人だけやってきた。
「本日はメルディーラ様にお会いできたこと、素晴らしき幸運であります」
貴族への挨拶をするため跪いてそんなことを言った。どうも言葉だけのようで変な感じだ。
「ええ、そこに座って」
「失礼します」
マレリルズは向かいの椅子に座り、ボナが箱を持って後ろに立った。今回は冒険者がいないため、カリーレやレオネットは私にピッタリくっついていない。後ろにはいるけれど。
「研究成果をまず見てくれるかしら」
「読ませていただきたいです」
カリーレは動き出し、持参してきていた研究成果をボナに渡して、マレリルズに渡った。一通り読んだあとは目を大きく見開きながら驚いている。
「ま、まさか、これは完成に近いでは無いですか」
「ええ、そうよ、私の助手は優秀なの」
「お、お嬢様。恥ずかしいです……」
ボソッと呟いたカリーレ。マレリルズには聞こえないように私にだけ伝えた。だけれども、これは事実なのだから仕方がない。
「魔力増幅魔石はもう持ってきています。この研究成果の紙だけ、持ち帰ってもよろしいでしょうか?」
「その紙は高いわよ」
「お金ならあります! この紙の五倍でどうでしょう」
五倍か。それなら売るのもいいかもしれないけれど、だいたい紙ってどれくらいなのだろう。よく分からないので、たくさん搾り取って置くべきところなんだろう。
「七倍よ」
「な、七……五倍じゃダメでしょうか」
「弱気になってどうするの、交渉するのでしょう?」
「そうですね、六倍なら今日お持ちできます」
私は不敵な笑みを浮かべてそれに乗っかった。まあ価値なんて分からないんだけれど。
「決まりね、あとは魔石を持ってきてもらおうかしら、魔力増幅魔石も見せてちょうだい」
「かしこまりました」
ささっと動き出すボナはマミーユに箱を手渡した。中から魔石を取りだし、私に持たせてくれる。
「大きい魔力を流すと、割れてしまわれますので、気をつけてください」
私は両手を埋め尽くすほどの大きさをしている魔石を見下しながら見つめる。淡く赤く光っているように見えて、内側に行くほど黒くなっている。加工によってできているのだろうか。
「どのようにしてこの魔石が出来上がって?」
「採掘によって見つかりました。最初からこのように丸いそうです」
魔物を倒すでもなく、地中にあったものを掘り出したのか。見つけた人に大いなる感謝を送りたい気分だ。手の上にある魔石を慎重に箱に移し、カリーレに研究所へと運んで行ってもらう。その間はマレリルズと雑談することになった。
「ところで、長剣はなんの役割かしら」
魔物の知識が全くない。こんど魔物を狩ってきたいとも思っているのだ。絶対レオネットに怒られるんだろうけれど。
「長剣は基本的に、隙を見せた魔物へのトドメだと思います。あの剣で叩き切るようにお考えいただければ」
そう言いながら拳をふたつ作り、剣を握ってるように振っている。
「それは是非とも見てみたいわね」
「それはやめといた方がよろしいかと、あの隊では主にドラゴン討伐などを専門的にやってる人達です。危険すぎます」
「長剣だとドラゴンは切れるの?」
「はい、おそらくは」
マレリルズも直接見た訳では無いのか自分の言葉に不安を抱く。それよりも気になるのが、ドラゴンの魔石だ。
「ドラゴンの魔石と魔力核はどのようなものかしら」
「ドラゴンの魔力核は加工すれば、領地の核になれるものです。あとは絵の具や、装飾品としての観賞用になります」
「もったいないわね……」
きっとたくさんの魔道具が作れるはずなのに、もったいない。出来れば私が待っておいてもいい気もする。
困惑したようなマレリルズは自分の頭をポリポリと掻きながら、目を泳がせていた。
「いいのよ、別に今の魔石でも作れるのだから」
そこへ、カリーレがちょうど戻ってきた。
「お嬢様、置いてまいりました。加工の準備は終わらせてあります」
手を前で組み、お辞儀をする。今まさに侍女みたいだと初めて思ったかもしれない。
「わかったわ、マレリルズ。今日はもういいわ、やりたいことがたくさんあるの、それと流通に関してはそちらに任せるわ」
「かしこまりました。ご期待に応えられるようより一層努力いたします」
椅子から立ち上がり、私の横で膝を付いて言ってくれる。私はそれにひとつ頷き、レオネットに送ってもらった。では、さっそく実験の開始だ。
「その前に、お着替えお願いします」
マミーユに肩を掴まれ、私の体は静止された。
「……はぁい」
マミーユとカリーレに服を着せ替えられて、研究室に入った。きっちり削り用の鉄の棒と増幅魔石が机に並べられている。
「よおし、やるわよ!」
「増幅魔石は高いので、程々にお願いします……」
そんな言葉を無視して、さっそく手に取って眺めてみる。先に効果を確認した方がいいかもしれない。そう思い、カリーレを見上げてみる。カリーレはじっと手の上に置かれている魔石を見つめていた。
「カリーレ、魔石の効力を確認するわ」
「あ、わかりました」
そう言って、魔力核に魔力を貯めて、増幅魔石を間に光の魔石を置いてみた。ものすごく眩しい光を放ち、太陽のようだった。
「もういいわ、まぶたの裏がチカチカする……」
「あはは、お嬢様。これは凄すぎますよ」
乾いた笑いをしたのを無視して、さっそく削ってみた。これがあれば一日中、いや一週間や二週間ももつはずだ。
ガリガリと魔石を削り、増幅魔石の粉を集めて糊でくっつける。これもやはり表面積が一番大事なようで、増幅させる時も解けるように消えていった。
「これも消耗するのは予想外だった」
「ですが、この程度で一週間持つのは凄いことですよ」
「それもそうね、一応完成かしら」
カリーレは目を輝かせて「そうですね!」と言ってくれるが、ここまで完成するのに約一週間。長いような短いような、あまり完成したと実感できなかったけれど、ひとまずロウソク代節約生活は実現できる。製品にして使うのが楽しみだ。
あとは、カリーレとどのような形にして埋め込むかを考えて話し合いをして、結局猫型の照明器具を作ることになってしまった。なぜ猫なのだろう。
「カリーレ、あなたは休んでいいわ、明日でもマレリルズたちに完成の話を持って行ってちょうだい」
「かしこまりました」
そうカリーレは出て行って、ちょっとした後にマミーユがやってくる。
「お嬢様、入れ替わりました、夕飯が出来上がっています」
頭を使いすぎてお腹も空いて、考える気力もなくなってきている。パパっと夕飯を済まして、レオネットによってお風呂で頭をゴシゴシされてる時だった。
「カリーレから聞きました。完成した、と」
「ええ、光以外はまだだけれど、もう出来上がってるようなもの。製品にすれば、お金の心配も無いかもしれないわね」
優しく髪を撫でるようにゴシゴシされ、水の激しく流れる音が響き渡り、桶の音も反響している。
「メルディーラお嬢様はなんでも思いつきますね、魔石にそんな可能性を感じていなかったです。あの時、できるかもなんて言いましたが、本心ではやらせて折らせるつもりでした」
「昔の人たちは増幅魔石が無かったから出来なかったのと、武器や防具にしか興味がなかったのが悪いと思ってるわ」
「どうして、そこまで私たちのために?」
「これは言わないわよ」
私はレオネットを見上げて、笑顔を見せた。レオネットは「よろしいでしょう」と言って、体や髪を拭き始める。
(私が成人したら、教えてあげる)
心の中でそう約束した。本人には聞こえてないけど。
「そうだわ、レオネットもこれがあったら便利だな、なんて思うものがあったらじゃんじゃん言ってちょうだい!」
「淑女たるもの、じゃんじゃんなんて野蛮な言葉は慎んでください」
(今はそこじゃないでしょう!?)
私はぷいっとそっぽ向いて対抗心を体で示した。




