23 照明器具の完成
カリーレを散々いじったあとは、研究室に行くことにした。今日は商人がやってくるので、研究成果を商人に渡せば高値で買ってくれるだろうと踏んだのだ。
「メルディーラお嬢様。服だけはお着替えください」
「レオネットは硬いのね、わかったわ」
服を剥ぎ取られて、研究用の服に着替えたあとはカリーレと一緒に研究室に籠った。
「カリーレ、準備を」
「かしこまりました」
今回もまた光魔石を研究することにする。粉魔石は消費が激しくてすぐ消えるし、原石だと割れてしまうし。うーんと考えながら魔石に魔力を流す。
「そういえば、闇の魔石は魔力を吸うだけで何もないですわね」
「はい、闇の魔石は魔力を吸って、割ると爆発するものです」
それが危険だからやらなかったけれど、一度試さないとどんな特性があるのか分からないというもの。
「さぁ、ちょうだい」
「落としたり、割ったりしないでくださいね……」
カリーレは心配そうにそう言ってくれる。そして、風の盾を作り出して、私の前にも出してくれる。用心深い。
「では、始めましょうか」
「はい」
真剣に闇の魔石を見つめ、返事を返してくれる。私は魔石に魔力を流したあとは魔石を見つめてみる。上限などないかのような感じで、何も変わっていなかった。
「粉にしたらどうなるかしら」
「空の闇魔石にしましょう。魔力があるやつだと爆発するかもしれません」
「ええ、わかったわ」
新しいやつに取り替えてもらって、鉄で削る。
ポロポロと闇の魔石が落ちていき、闇なのに微かに白い光を放っていてとても美しい。一箇所に集めて、一粒だけに魔力を流してみる。
「あら、全然吸うのね、食いしん坊だこと」
「食欲じゃないですよ、きっと……」
そんなことはどうでも良くて、吸うだけ吸ったあとは溶けるように消えた。
「水の出ない氷ね」
これだけでも結構魔力を吸われてしまった。色々試したくなる。
「カリーレ、糊を持ってきて、粉同士をくっつけて魔力を流してみたいわ」
「それはちょっと怖いですよ」
困った顔をされるが、早く早く、と急かして持ってこさせた。光魔石と闇魔石の粉同士をくっつけて魔力核を近ずけてみる。
「あら、普通に光ってるわ、消費はするけれど」
「ほんとだ……すごい、綺麗ですね」
「ええ、本当に。たくさんの光を集めたくなるわ」
普通に光る。私の手で握れるほどの小さなものに固めたが、これぐらいの大きさならば一日程で消費しきると思う。これは素晴らしい発見だった。
「魔力をたくさん流せば強くなるのかしら」
「今はロウソクほどの光はないですが、やってみないと分かりませんね」
物は試しだ。そう思いながら私の手から直接魔力を流してみる。風の盾をしっかり展開されながら。
「あら、闇の魔石だけが消えてきたわ」
一定の魔力供給が必要なのかよく分からないけれど、段々と闇の魔石だけが消え始める。魔力を流すのを辞めたとしても、まだ消えていく。なんなんだろう。
「あのお嬢様。ここまでは何とかなりましたけれど、あとは難しいですね」
「はぁ……あともう少しだって言うのに……」
長い溜め息を吐き、近くにあった椅子に座って机に顔を埋める。うーんと呻きながらどうすればいいのか分からずに、色々と頭の中で考えを整理し続ける。
「あ、お、お嬢様……?」
「なんですの、今は忙しいわ」
「み、見てください!」
カリーレはものすごく慌てたような張り上げた声を私にかけた。私は机に頬を当てながら視線を向けてみる。
「え、え? どういうこと?」
そこには神々しいほどに光る糊でくっつけた魔石がある。なぜ上手くいったのか。
「お嬢様、魔力核に私の魔力を流して見てみようと思ったら、出来てしまいました……」
「なぜカリーレが発見しちゃったのか……」
できれば私が発見したかったけれど、今はそれどころじゃない。魔力が少ないのですぐに消えてしまったけれど、私の魔力を流すとやはり、ロウソクよりも小さい光が放たれる。
「個人魔力は人によって違うのかしら」
「もしかしたら、そうなのかもしれません」
「だとしたら、魔力の低い人の方が光魔石を制御しやすい……?」
でもこれはカリーレのみしか試していないのだ。今日の商人の会合でもしかしたら、魔力増幅魔石があったらもう既に組み立てるだけで完成なのでは。やっと完成したことに私は椅子の上で立ち上がって、拳を天井に向かって喜んだ。
「お、お嬢様。その姿を見られてしまったら……」
「カリーレ! これは発見よ! 完成に近いよ!」
カリーレはぼーっと考えているが、私は嬉しさのあまり、椅子の上で踊り出しそうになる。カリーレは下で落ちないように手を広げて、抱き抱えられるように準備している。
これでようやく、侍女たちを楽にしてあげられる。
「名前をつけなくてはならないわ、カリーレの光とかでいいかしら」
「い、いやです! 照明器具でいいじゃないですか」
名前は商人と決めるとして、カリーレの名前を入れたいと思う。長いのは嫌だけれど、カリーレは困惑したような顔になっている。
「それよりも、他にも作るわよ、全部試すわ!」
「分かりました」
水魔石、光と闇をくっつけた魔石、火の魔石を削った後に、糊で丸める。水は程よい水圧で水が出てきて、火はまだまだ熱くなるだけだけれど、燃えやすいものが近くにあると燃えそうなほど熱い。
「一度粉にしてから、糊でくっつけて丸めないといけないなんて、めんどうくさいわね。光と闇は分かるけれど、水と火は原石でもできるようにして欲しいわ……」
そう嘆いてみるが、カリーレからは「それはもう前試したじゃないですか……」と呟いて却下される。まあ、それは分かっているけれども。
「まあいいわ、カリーレを研究担当でわたくしが発想担当をするわ、いいわね?」
「は、はい、かしこまりました」
微妙な笑顔を浮かべて見つめられた。私はそんな酷いことをしないはずだよ。きっと。
「あとは、魔力増幅魔石だけね、水と火にも使えれば、調整することも可能になると思うわ。未来が輝かしい!」
「お嬢様、椅子から降りてください」
興奮のあまり椅子にずっと立ち上がったまま、天井を見つめているとカリーレに怒られてしまった。まさかカリーレに怒られるとは。
「土と風は使い道があまり無さすぎるわね、保留にしときましょうか」
「はい、生活に必要なのは水と火ですからね」
それにひとつ頷き、昼食の時間になっていたので食事の間へ向かった。そして、マミーユとレオネットに報告するのだ。
「メルディーラお嬢様、本当に完成してしまわれたのですね……流石でございます」
「お嬢様、私たちのためにありがとうございます」
レオネットとマミーユがお礼を言ってくれて、それに私は嬉しさのあまり、また立ち上がろうとしたところでレオネットに肩を掴まれて止められる。いつも通りだ。
「火は炎が出なかったとおっしゃっていましたが、どうお使いに?」
レオネットは肩をギュッと強く握ったまま問いかけてきた。もう離してください。
「燃えそうなものを近づければ、燃えると思うわ」
「なるほど、火起こしが楽になるのですね、つけたり消したりするのが楽になるということでしょうか」
「ええ、魔力を流しておけば、いつでも付けたり消したりできるわ」
カリーレの仕事も、マミーユとレオネットの仕事。これで手荒れが減るかもしれない。ようやく完成したのだ、あとはマレリルズが道具を持ってくるだけだ。
(待ってるわよ! マレリルズ!)




