18 夜中脱走
「さぁ! どこから始めようかしら!」
「お嬢様ぁ、もう爆発はさせないでくださいね……特に、火の属性だけは……」
「分かってるわよ!」
そんなバカっぽい会話をカリーレとしつつ、魔石を握る。そして、鉄でできた板があったので、それをカリーレに丸めてもらい、魔力核を封じ込めて研究を開始するところだ。
「魔力核に魔力を入れるわ」
入れたあとは、光の魔石の隣に置いて穴を開け、様子を伺ってみる。
「カリーレ」
「はい」
淡く光り、机が照らされ、その時間を計測する。が、パキッと割れてしまった。
「十五数えたら割れました」
「どうしてでしょうね、魔力量は十分のはずよ」
「そうですけれど、どの属性の魔石もこうなってましいましたね」
割れても尚、魔力を吸い続ける魔石を二人で見下ろして、うーん、と頭を捻る。そう簡単に案は浮かばないが。
「やっぱり、魔力の安定は確保できたわ。鉄で覆うこと自体は間違ってないみたいね」
魔力が多すぎるのなら、魔力増幅魔石なんて要らないのでは? と思うけれど、それだと、小さい光が輝くだけで、部屋全体を照らすなんてことは絶対できない。
「でも、魔力を増やしたら割れてしまう。これはなんなのかしら、何がいけないの……?」
「ごめんなさい、私は魔石には詳しくないので……」
特に期待はしてないけれど、加工の力や体力には期待している。軽々しく椅子や机を持ち運べるほどだもの。
「これは一回保留ね、加工を試してみたいわ」
「今準備します」
机の上には鉄でできた先が尖ったものと魔石が置かれ、魔石を左手で握ってみる。やっぱり、水の魔石はひんやりしてて気持ちがいい。夏にこれを使うことができれば、暑さに耐えられるお屋敷になると思う。
「では削ってみるわ」
……ガリガリガリ
いつかの床をガリガリした時を思い出す。
魔石を削り、簡単に掘ったところがポロポロと小さくなったものが落ちていく。
「これ、あまり力が要らないのね。変なの……」
「まぁ、鉄だけには柔らかいのです」
「不思議ね、鉄には心を許すなんて……」
「恋とかではないと思いますけれど……」
アハハ……。と笑うカリーレを放っておき、私はガリガリと削り続けたり、この粉になった魔石が気になる。虫の魔石ほどになったものは使えるのだろうか。
「この粉魔石を使って実験するわ」
カリーレはまたもや準備をテキパキと動き始め、魔力核が入った鉄の包みと粉魔石を横に添えた。今回は水の魔石なので、桶の中でやることにしている。
「穴を開けるわよ」
カリーレは真剣な顔で粉魔石を見つめる。すると、魔石からは少量だが、水が出てくる。
「魔石が、さらに小さくなってるわ」
「あ、本当ですね。魔石自体が水という仮説が出てきましたよ」
余計ややこしい。まさか、小さくなるとは思わなかった。だとすると、魔石の安定供給の契約は間違いではなかったかもしれない。
桶の三分の一くらいまで水がたまると、粉魔石は完全に消えていた。魔力核にはまだ魔力がある。
「これだけでも結構水が出るのね、魔石の原石はちょろちょろだったのに」
「これは仮説ですが、魔石の表面が溶けるっていうイメージをするのがいいかもしれません。小さい物の方が、表面に触れる魔力が多いから、水が出やすい。こう考えるといいかもしれません」
たしかに、そう言われると、水の出てくる速さは違えど、量はよく似ていると思う。
「まるで魔力で溶ける氷ね」
「確かにそうですね」
水の魔石はほぼ完成に近い。粉にすれば、ほとんどが使えると思う。
「光の魔石は難しいままね……」
「ですが、光以外のものは大発見ですよ、魔石が溶けるなんて、誰も思ってもいなかった事です」
四属性は効果が出た。だが、光の魔石が上手くいかない。粉にしても、少し光ったら消える。魔力の消費量に加えて、魔石の消費量も多いとわかった。難題だ。
「粉にしてもダメ、原石でも割れる。まだ色々実験がしたいわね」
「もう終わりです、ご飯をお食べにならなくては」
そう話していると、レオネットがやってきた。ガチャと扉が大きく開かれ、レオネットは私を上から下まで観察したあと、大きく息を吸った。
「メルディーラお嬢様、お着替えは?」
「あ……」
カリーレと私は服を見て知った。まだ客人を迎えるための服だった。しまった、と思ったがもう手遅れだった。
「メルディーラお嬢様。お伝えしたはずです。汚れでもしたら、また誂えなくてはと、淑女たるもの、服装にはしっかり気を配ってもらわなくては」
「は、はい……」
怒られてしまった。前に言われたけれど、どうもめんどうくさい。レオネットは私の叱責が終わると、今度はカリーレを見つめた。カリーレは「うひっ……」と、息を呑む。
「カリーレ、あなたは侍女ですよ、なのに……」
「ご、ごめんなさい! ですが……」
「言い訳は聞きたくありません。メルディーラお嬢様には見えないところでお話があります」
多分心の中で盛大に叫んでいるであろうカリーレを置いて、食事の間へと向かった。
(カリーレ、ごめんね、私の不注意だったよ)
聞こえていないが謝罪はしておく。次からは気をつけよう、そう決心した。
夕飯を食べていると、思い出した。リーレルトとのお茶会。今日、商人とお話をしたけれど、手土産のことをすっかりぽっかり、頭から抜けていた。
「リーレルト様のお茶会の手土産はどうしようかしら」
カトラリーを置いて、レオネットに尋ねてみる。
「もう用意してありますよ」
さすがレオネットだ。何も頼んでいなくてもやってくれている。
「どんな物かしら」
「それは教えません」
絶対甘いものだ。そう思う。私が食べたいと駄々ごねるのを阻止するために隠しているのだ。
「マミーユ」
「ごめんなさい……」
マミーユまでもが買収されている。手を回すのが早い。だったら、最終手段だ。
「レリアナート!」
私は厨房へ聞こえるように大きな声で呼び出す。レオネットは「淑女たるもの……」と何か言っているが、今は甘いものだ。食べてやる。
「どうされましたか?」
「明日のリーレルト様の手土産はなにかしら」
「それは……すみません……」
(あああああ! レリアナートまでもが!)
ううぅ、と呻き、明日になればわかること、と自分に言い聞かせる。ふん! とそっぽ向いて、食事を終わらせた。
お風呂も終わり、マミーユの花嫁修業を受けて、就寝の時間となった。
月明かりが部屋全体を照らして、未だに甘い食べ物のことを考えていた。
一体どんなものなのだろう。前の果物のタルトは美味しかった。さすがレリアナートだ。
そう思いながら、目を閉じた。
パチッと目が覚めた、頭も冴えてる。いい方法を思いついたのだ。
「そうよ、光の盾を足場にすれば空を歩けるわ!」
これで、平民街に行ける。リーレルトとのお茶会はあるが、それは明日の午後だ。その時まで眠れば問題ない。
(そうと決まれば、早速準備よ!)
バタバタとベッドを這いつくばって天蓋を開けて、早速準備に取り掛かる。そこら辺にあった変な布で頭と体を覆い、窓を全開にした。
「さぁ! わたくしも冒険するわよ!」
未知による好奇心に心が踊り、他のことはすっかり考えていなかった。
窓の淵に立ち、片手で体を支えながら、もう片方に魔力を貯めて盾を出した。
びよーんと横に伸び、それに乗り込むと少し揺れる。高いとこが怖くて、心の中で叫ぶが、それでも好奇心は抑えられない。いざ、出発だ。
次々と盾を出し、走っていくことにした。途中で息が上がり歩く。それを繰り返し、貴族の森の上空を抜けて、平民街へと着いた。
「思ったよりも暗いわね、月明かりがなければ歩けないわよ」
一人でボソリと呟くが、誰かが私に意見することはない。今ここにいるのは私ただ一人。自由なのだ。
「さっそく、魔石工房よ!」




