17 冒険の役割
ささっと設計図を書いて、皆に見せる。渾身の自信作だ。
「この魔力増幅魔石があれば、上手くいくかもしれないわ!」
自信満々に設計図に見せるが、やっぱり前と変わらない反応だった。きょとんとした顔で、マレリルズが喋り出す。
「あの、これは本当に設計図ですか……」
「なにかしら、もう猫じゃないわよ」
「いえ……その、まだ猫のようにしか……」
むぅ、と口を尖らせ、結局口頭で説明することになった。
「魔力核と光属性の魔石の間にこれを置くのよ」
「仕組みは理解しました。ただ、増幅魔石は最近取れるようになったばかりで、値段が高いのです」
どうりで先人の魔石研究が進まなかったわけだ。この存在を知らなかったから。マレリルズは申し訳なさそうにするが、最近のものだし、高いのは仕方がない。
「じゃあ、俺たちがその増幅魔石を取りに行くというのは?」
そこで口を開いたのは長剣冒険者だった、魔石と同時にそれを取りに行って、安定供給してくれるなら、契約するのもアリかもしれない。
「それを契約内容に入れるのもいいですわね、レオネット」
レオネットを呼ぶと、彼女は俊敏な動きで紙を見せてくれる。これは、このお屋敷でのお金の流れだ。どれくらいあって、どれくらい使えるのか。今初めて見るせいで、あまり価値が分からない。
「契約内容は一月に大きい魔力増幅魔石が一個、属性アリの魔石が取れるだけ取れたら定価でいいか?」
これはすごく大きい。魔力増幅魔石が一個。あんまり取れないのだと理解できる。でも大きさがあの杖ものだったら、大人の手ほどの大きさもある。なら、加工することは可能かもしれない。それも実験がしたい。
「えぇ、ですが、属性魔石は買取上限をつけてもらうわ」
「わかった。それで頼む」
それに頷き合い、もう一枚、マミーユが紙を用意して、マレリルズに契約書を書かせる。マレリルズは紙に書くのに少し躊躇ったあと、ペンを握った。
「貴族様は凄いですね、紙もふんだんにお使いになると思いきや、商談まで難なく動けてしまいます」
ペンを走らせる手を止めず、そんなことを言い出した。数字の計算は簡単だし、文字も読めておけば、変な契約にならない。先のことを考えなくてはならない。
「それは、メルディーラお嬢様が特別ですから」
急にレオネットが後ろから喋りだした。そして「失礼しました」と言って、一歩引いた。
「なんだか、誰も喋ってはいけないというのは嫌ね、この場にいるものは喋ることを許可するわ、そこの冒険者もよ」
そういうと、全員が肩の力が抜けて、ふぅ、と大きく長いため息を吐いた。
「名乗った方がいいですか?」
そういえば、全体的に黒い女性と、長剣冒険者の名前を聞いていない。私は頷き許可を出した。
黒い魔術師らしき女性は大きな帽子を取って胸前に添え、頭を下げる。黒い髪が風に揺らぎ、とても綺麗だった。
「私はカリスティーと申します」
礼儀が正しく、凛々しいその姿は貴族らしく、少し警戒対象になるかもしれない。頭を上げたあと、今度は長剣冒険者の自己紹介がはじまる。
「俺はサンクルーズという、よろしく頼む」
少し頭を下げたサンクルーズ。そして、私は気になった。
「カリスティーはなぜ杖を持っていないのかしら? 魔術師のような格好をしているのに」
この人には杖がない。ササターニャは全体的に白めの魔術師に杖を持っている。これはどんな差なのだろうか。
「はい、私は攻撃、足止めを優先して魔術を使うので、杖があると移動しずらいのですよ」
なるほど、冒険者とは命懸けで魔物を討伐するようだ。当然だが。そして、ササターニャの方を見つめると、ササターニャはおどおどした状態のまま口を動かす。
「わわ、私は回復専用として、それから、防御の魔法に使うので、必要な魔力量を確保しなくてはならないのです……」
「面白いわ! 冒険者になってみたい!」
「メルディーラお嬢様。貴族は冒険者になれません」
「え!?」
やっぱりダメだった。まぁ、命懸けというのもあるし、それにしても、冒険してみたいな。友達と一緒に行く旅なんて言うのも悪くない気もするけれど、お風呂が無さそうだしやめておこう。
「お嬢様、契約書の確認をお願いいたします」
マレリルズはちょうどいいタイミングを狙って、口を開いた。その契約書にはお金の面では問題はなく、綺麗に読みやすくされており、さすが本業だなと思わざるを得ない。
「全く問題ないわ、よろしくね、サンクルーズ」
「ああ、よろしく頼む」
「ところで、ササターニャとサンクルーズが結婚するのかしら?」
「え? え?」
やはりそうなのだろう。二人とも、情けない声が出ている。顔も赤いし。
少しお祝いとして、魔術を使おうと思う。この二人を見ると、お祝いしたいと考えると同時に、祝福のやり方が頭に出てくる。
「二人に祝福を与えるわ」
椅子から降りて、庭の方へ歩み出る。そして、手を空高く上げると、何となくやり方がわかる。
「二人の結婚への祝福を」
そういうと、手から魔力がたくさん流れ、空へと舞い上がった。キラキラと光る、その魔力はササターニャとサンクルーズの周りをグルグルと周り、二人を持ち上げた。
「わわ、わわわ!」
ササターニャは相変わらず変な声を出すが、しばらくすると、その神々しい光は消え去り、二人は優しく降ろされた。
「め、メルディーラ様! こ、これは!?」
カリスティーが驚きの顔のまま、質問をしようとするが、おそらく聞きたいことが山ほどあるせいで口をパクパクするだけだった。
「もう祝福は終わりよ、それと、マレリルズ、あなたは月に一回、必ず、どこでどのようなお金を使ったのか、報告してちょうだい」
「か……かしこまりました」
カリスティーは何か言いたげのままだったが、帰らせることにした。
「今度会った時は、冒険譚などのお話をしてちょうだい」
「もちろん、喜んで」
サンクルーズは契約したこと、冒険者を卑下にしなかったことに、嬉しそうに返事を返してくれる。なぜ、カリーレとサンクルーズは睨み合っていたのか。もしかしたら、昨日のカリーレのおつかいでトラブルでもあったのだろうか。
一度考えることをやめて、皆をレオネットによって、平民街へ返すことにした。
「あ、メルディーラ様、魔力核に魔力をお願いいたします」
「わかったわ」
「助かります。これがないと、貴族の森を抜けることができないので、恐縮です……」
「レオネットに教えてもらったわ、貴族の資格。それが必要だもの」
差し出された魔力核に魔力をちょろちょろと流し込む。割れないように慎重に入れ、貯まると同時に返した。
「ありがとうございます。明後日は流通についてのお話と、試作品をお持ちしてまいります」
「ええ、元々は明後日の予定だったけれど、今日来てもらったもの、感謝してるわ」
この言葉にマレリルズは嬉しそうな笑顔を浮かべ、深く一礼した後、レオネットの背中を追いかけて行った。
「マミーユ、お片付けはお願い。カリーレは私と一緒に研究室に行くわよ」
「かしこまりました」
マミーユは手に迷いなくお片付けをはじめ、私とカリーレは研究室まで歩いていく。
「そういえば、カリスティーとササターニャは良く似ていましたね」
確かに、カリーレの言う通り、よく似ていた。顔立ちというか、輪郭がシュッとしてるところ。唯一目だけが似てないかも、ササターニャはタレ目で、カリスティーはつり目だ。
「まぁ、姉妹なんでしょう。でも、カリスティーは貴族だと思うわ」
「私もそう思います」
廊下を歩く音が響き、無言の時間が流れる。カリーレも考えているのだろう。でも、今考えても仕方ない。個人的な情報をぺらぺら喋らせる訳には行かないので。
「着きました。今開けます」
考え事をしていると、もう既に着いていた。
私は長い廊下を眺めてみた。こうして見ると、リュンレルテとは違う。階段もなければ、大きな庭園もない。一番思うのは、家族がいないこと。
寂しい気持ちはないと侍女の前で言ったけれど、今実感がひしひしと湧いてくる。さっきの結婚のことも見たせいなのもあるだろう。あの二人に子供が産まれれば、リュンレルテのような家族が。
「お嬢様?」
「あら、わたくしったら、ぼーっとしていましたわ」
「お嬢様にもそういうことがあるのですね、なんか安心します」
「あら、わたくしだって人間よ?」
今の家族はこれでいい。お姉ちゃんが二人に親が一人、そして、レリアナートのことも忘れないよ。
頭の中に顔が浮かび上がる。でも、消えることは無い。今を大切にすれば、きっと報われるのだから。
「さ、魔石の研究はまだまだ先が長いわ」
「あまり、無茶なことはしないでくださいね……」




