16 冒険者たち
机などの準備を整え、私は庭の席へ座るよう促される。ちょこんと座ると、それと同時にお茶が用意され、クッキーが置かれる。
この肌を伝う空気が横切り、春の涼しさと、さっきの楽しい時間が風となって飛んでいくような感覚になる。
お茶を一口。クッキーも別皿に盛られ、私の前までマミーユが寄せる。さすがマミーユ、次に欲しいものが分かっている。
「どれくらいでくるかしら」
「今、レオネット様が向かっているので、既に着いていると思いますよ」
ひとつ頷き、クッキーをかじりながら、待つことにした。
「お待たせしました」
しばらくすると、レオネットとともに、マレリルズとボナがやってくる。今回は子供のヒュールはお留守番のようだ。
その後ろには背の高い男性二人と、杖を持っている女性一人と持ってない一人が立っている。
「またお呼び頂き、ありがとうございます」
マレリルズとボナが跪き、そう挨拶をする。冒険者らしき四人組はずっと立ったままで、何をしてるんだろうと思い、首を傾げた。
「まず、ご挨拶をなさいませ」
レオネットが私の考えているに気づき、四人組の冒険者に注意をすると、その人たちは不服そうにマレリルズの後ろで跪いた。
「俺たちは、冒険者の討魔隊です」
討魔隊という冒険者から、一人代表として口を動かした。後ろ三人はずっと俯いたままで表情は見えない、だが、この隊の代表者はずっとカリーレを見つめていた。眉をひそめ、警戒している。
「カリーレとお知り合いかしら?」
私はお茶を片手に、カリーレと赤茶色の冒険者を交互に見つめる。カリーレも鋭い目つきで警戒しているのがわかる。このふたりは一体何があったのだろうか。
少しでも動けば、腰にある等身がすごく長い剣でカリーレと戦うことになるかもしれない。そう思い、お茶を置いて手を強く合わせ、音を鳴らす。
その場はひとつのぺちっ、という音が鳴り響いたあとすぐに消え去り、私は口を開く。
「こんな殺伐とした空気は嫌よ、さっさと話をするわよ」
その言葉に皆が息を吐き、マレリルズは私の案内で机の向かいの椅子に座る。
「この庭はすごく綺麗です」
最初にマレリルズが口を開き、場を和ませようと奮闘する。冒険者たちはマレリルズの後ろに付き、レオネットとカリーレが私の後ろにピッタリくっついている。
何をしても変わらなそうなこの状況で、お話し合いをするなんて、ものすごく胃が痛い。
「そう、それの言葉は嬉しくてよ。そういえば、鍛治職人はどこかしら?」
髪がない大柄な人が鍛治職人だろうか、でも冒険者にも見える。でかい斧が背中にある。
「鍛治職人はこのバルスクが冒険者を引退したため、今は鍛治職人としてこの場にいるのです」
やはり、この斧使いが鍛治職人のようだ。冒険者を引退するなんて、歳なのだろうか。
「あら、冒険者を引退なさるのですね。バルスク、専用鍛治職人として頑張ってもらうわ」
バルスクは髪のない頭を指先でポリポリと掻き、マレリルズに、助けを求めて眉を八の字にしていた。
「すみません、お嬢様を不快にさせる訳には行かないため、喋らないように伝えていたのです」
「なるほど、ならあなたは口を開いても構わないわ」
バルスクは手を顎につけて少し言葉を考えて、やっと捻り出した言葉を出す。
「わかりました。鍛治職人となるバルスク……です。何を作ればいい……いいですか?」
敬語がものすごくぎこちないバルスクにちょっと面白くなってしまい、からかうために口を開いてしまう。
「まあ、貴族と話すのは初めてかしら?」
マレリルズは顔色が悪く、私とバルスクを高速に見つめる。バルスクも焦っているが、何よりもマレリルズが焦っているのが少し面白いところだが、マミーユが真剣な目で遠くから私を見つめていた。怒ってる時の目だ。
(ご、ごめんなさい……)
心の中で謝っておき、私は弁解を始める。
「ちょっとからかっただけですわ、言葉を崩しても構いませんことよ」
「そうか、わかった。俺は何を作ればいい?」
肩の力を抜いたバルスクは少し嬉しそうに作って欲しいものを要求した。残念だけれど、武器ではないのだ。
「マレリルズに前に話した、魔力核をくっつけるのはどうなっていまして?」
マレリルズに視線を移し、彼は良くぞ聞いてくれました、と言わんばかりの顔を浮かべ、息を吸う。
「実は、光の魔石は魔力の消費量が大きすぎまして、ダメでした……」
「そう……では、魔力核が大きいのを使うというのは?」
「それですと、魔力を多く入れる必要がありまして、貴族様方の魔力でしても一日ぐらいだと思われます」
それはダメだ。全魔力を入れたとしても一日しか、もたないとなると、ほかのお仕事が難しくなる。
「先人たちはその可能性を考えていたけれど、魔力量によって、成功はしても失敗ということでしたのね」
そう呟きながらクッキーをかじり、マミーユに新しいお皿にクッキーを盛らせてマレリルズにあげた。これはご褒美なのだ。
「やはり、魔石研究は無茶だと存じます……」
それはもっともな意見だけど光の魔石以外ならできるかもしれないので、鍛治職人に作ってもらいたいものを注文する。
「バルスク、あなたは魔力核が入るぐらいの鉄で覆うことは可能かしら?」
そこから話を戻し、バルスクが少し考えたあと、頷いた。
「それはだいぶ簡単な作業だ、薄くして、丸くすればいいのだろう?」
「そうでもいいけれど、蓋があって、いつでも中の魔力核が取り出せるようにしてちょうだい、後は……小さな穴を開けて、そこにも蓋があるような感じで」
「わかった。すぐ作る」
初依頼なのか、なんだか茶色の瞳がキラキラしている。
「あの、俺の話も聞いてくれるか?」
急に声をかけたのは、長剣を腰にさした赤茶色の長髪に黄色の瞳をした冒険者だ。カリーレと睨み合っていたが、今は私をしっかり見ている。
「無礼であるぞ。許可もなく口を開かないように」
(はじめてカリーレの怒ってるとこを見ちゃった……)
普段怒ることのないカリーレが平民冒険者に低い声で言った。ここでも平民と貴族の壁があるのだと実感した。
「カリーレ、あなたにも許可していないわ」
二人はいつでも睨み合うので、さっさとその空気を壊して、話を進めることにする。カリーレは不服な顔で私を見たが、私がここの主導権を握っているのだ。
「すみません……」
カリーレは一歩後ろに行き、体で口を挟まない、と伝える。多分これは冒険者に伝わらないと思った。もちろん、多分だが。
「それで、あなたにも許可を出していなかったわよ、今回は多めに見てあげるわ、話というのは?」
「あ、ありがとう……ございます。それでですが、魔石の買取契約をして欲しい」
(なにそれ)
短い言葉が心の中で響いた。私はマレリルズへ目を向け、説明するよう促す。
「魔石の買取契約とは、ギルドでも使っていまして、特定の人だけに魔石を売るって言うものでございます」
つまり、私が定期的に魔石を買う人で、冒険者たちが取ってくる人。魔石の供給が途絶える必要は無いし、壊してもすぐ持ってきてくれるから、それでも構わないけれど、期間をまだ聞いていなかった。
「それはどれくらいの期間かしら」
「今度は俺が説明をする。できれば、二十年ぐらいだとありがたい」
「二十年……それはまた長いものね」
冒険者は真剣な顔で私を見ている。そんなことをしなくてもギルドに売ればいいと思うのだけれど、何があったのだろう?
「実は、結婚して、冒険者を引退するんだ。その生活費のために安定した収入をと思った……のです」
なるほど、お互い悪い話ではないけれど、お金の面が難しいかもしれない。長期となると、早めに魔石でできる魔道具を作って、売らなければ意味がない。
「それは簡単に決められ……」
私はほか二人、女性の持っている棒みたいなものを見た。ぐるぐるに布が巻かれており、そちらに興味が向かってしまった。
「その棒みたいなの見せて!」
知らないもの。謎に包まれたもの。ものすごく知りたい。なら見せてもらおう。と思い、指を指した。
「こ、この杖でしょうか……」
一歩前に出てきたのは、長い黒っぽい灰色の髪をした、藍色の瞳の人。少し怯えているが、構うものか。
「ええ、そうよ、どんな物かしら」
気になって仕方ない。剣や斧は見ればわかる。だが、その杖はどうやって戦うのか気になる。
布は解かれたのは、魔石が浮いた杖だった。一番上に、大きな円の中に魔石が浮いている。紐かなにかで浮かせているのだろうか。
「触ってみても?」
「だ、大丈夫です……」
その子はこちらまで歩み寄り、怪訝そうな顔をした長剣冒険者を視野の端で見て、杖に触ってみる。
紐で吊るしてる訳でもない。この魔石はなんだろう。綺麗な丸い魔石。そして、なぜ浮かせてるのだろうか。気になるところが多すぎる。
「この魔石は魔力による、攻撃や防御、回復などを大きくするためのものです」
魔力を大幅に増やすもの。つまり、少ない魔力でも、大きい魔力に変換して、魔術を行使する。これは、魔道具に応用する。
「これよ! 魔道具に組み込めば上手くいくわ!」
「え、これが、ですか?」
眉を八の字にして、変な子というような顔をこの女性にされているが、関係ない。
「あなた、名前は?」
「さ、サターニャです……」
「ササターニャね!」
「いえ、ちが……」
「マミーユ! 紙とペンを!」
ササターニャが言い切る前にマミーユに指示を出した。一体何を言おうとしていたのかは分からないが、今は研究魂が活性化してるような気がする。
顔が青くなっている、ササターニャが元の位置に戻り、杖に布を巻き付けて、長剣冒険者に肩を叩かれ、ため息を吐いてしまった。余程緊張したのだろう。仕方がない。




