2 お披露目お茶会
私は、叱られながら馬車に乗り、レオネットも紫と黒色を基調とした服を着て帯でしっかり締められた正装を着ている。カリーレとマミーユも目立たぬように、灰色に見えなくもない黒を来て、同乗している。
私だけが金色で眩しいほどに輝き、目がぱちぱちしそうだ。
「お茶会では何をするのですか?」
何も聞かせれてない、というより、何もかもを忘れてしまったので、そんなことを聞いてみる。
「お嬢様はお友達をお作りになり、他家の方の令嬢たちの情報交換です。もっとも、情報交換になれるかどうか……」
レオネットがそこで口を噤む。代わりに、カリーレが補足で口を開く。
「お嬢様はご両親がおられませんので、既に隙を見せている状態なのです。他家の者たちからは親無し貴族と言われるかもしれません」
既に、そんな事が貴族たちに広まっているため、情報交換することもなく、いじめられる対象になるかもしれない。と、カリーレは言った。
「では、静かにお茶が飲めそうですね」
「メルディーラお嬢様、さすがにそれは……」
私の発言に困った顔をしながら言葉を出すマミーユ。そんなにおかしな事だろうか。
(あぁ、いじめられるから静かにお茶は飲めないのね)
「大丈夫よ、わたくしは、寂しさも悲しさも、欠片もないのですよ、何言われても来いって感じです」
「お嬢様、お口が悪ぅございます」
「はい、すいません」
私の張り切った言葉にレオネットは額を抑え、ため息混じりの叱責を飛ばす。私も苦笑しながら返し、外の様子を眺めてみる。
(お茶会、急だなぁ……前から決まってたとしても、記憶ないのは不便だなぁ)
そう心の中で自分の脳みそに文句を垂れ流したけれど、今思うと、本を読む記憶力は異常だ。一文字間違えずに読み聞かせできるほどまでに、見ただけで覚えている。
(それに、記憶がないのに、知らない人が来ても怖くなかった)
そもそも、記憶がなかったら怯えるはずなのだが、その感覚すらもなかった。記憶を失い慣れてるかもと頭の片隅に出てきたりもした。
「今考えても仕方がないですね」
ボソッとそう呟いたあと、カリーレが発言する。
「お嬢様。申し訳ありません。嫌な思いをさせるつもりなど、なかったのです」
どうやら、親無し貴族関連の事を気にしているようだ。先程から目がちらちらと私の方に向けていたのもこの事だったんだろう。
「いいえ、違うことを考えていたのよ、気にしないで」
安心させるために優しく微笑み、暖かい目をしてみる。
「ありがとうございます。お嬢様はとても優しいですね!」
うふふ、と笑顔になったカリーレを見て、一安心したあと、私はまた外を眺める。すると、大きな屋敷がすぐ目の前にあった。
「ちょうど着いたようですね。下を向かず、気品ある立ち居振る舞いを心がけてください。わたしは馬車から降りたら、お嬢様の両親代理になります」
「わかりました」
レオネットは一つ頷くと、ドアを開け、カリーレとマミーユが外を出て、ドアの両側に立つ。その後に、レオネットが出て、手を差し出してくれる。エスコートだ。
「ありがとうございます」
「お易い御用ですとも」
そんな小さい会話をしながら、私は馬車の階段を降り、正面を向きながら、地に足をつけた。
「お待ちしておりました。メルディーラお嬢様、レオネット様」
そこに立っていたのは、白髪をしたおじいちゃんだった。白い髭も生えており、右手をお腹に回し、お辞儀していた。
「案内をお願いいたします」
レオネットは微笑みを絶やさず、案内するよう促す。
(レオネットの笑顔は私には見せてくれていません! ふん!)
ちょっと、このイケメンおじさんに嫉妬したけれども、笑顔は絶やさずに、案内されるのを待つ、貴族令嬢らしい、立ち居振る舞いをする。
「では、こちらへ」
とてとてとその背中を追いかけたら、みんなが一斉に歩き出した。先頭に執事、レオネットと私がその後ろを歩き、一番後ろはカリーレとマミーユが歩く。
館は広くて、天井には金色の模様が絶え間なく広がっており、廊下には赤い絨毯が敷かれている。
(私の家には絨毯なんてないのに……)
おそらく、私の家は下の地位なのだろう。それに両親がいないとなると、当主もいないことになり、私の立場は下の下と言ったところだろう。
(私の頭は理解が早くて大助かりだね!)
うふふん、と笑みがこぼれた。
無言のまま歩き続けた後、ドアの前で止まった。カリーレとマミーユはドアを開けるための定位置に歩き寄り、合図を待っている。
「メルディーラお嬢様。くれぐれも、気品ある振る舞いをお願いいたします」
ものすごく念押しされているが、実際記憶喪失から二日目なのだから、心配なのだろう。仕方がない。ここは、素直に受け入れておこう。
「任せてくださいませ、中継ぎ当主であるわたくしは、そう易々と隙を見せませんわ」
「この廊下を見ただけでの理解力の速さは流石ですね。期待はしておきます」
私はその言葉に一つ頷き、レオネットはそれを見てカリーレとマミーユに合図を送り、扉が大きく開かれた。
中はガヤガヤと子供の高い声が響き渡っており、親同士の挨拶をするものたちもいた。意外と人が多い。
一瞬、頬が引き攣りそうになるが、笑顔を絶やさずに、声をかける。
「では、参りましょう」
私の言葉に私とレオネットは同時にドアをくぐると、ドアの近場にいた者たちは半分ぐらいが私をじっと見つめていた。
(な、なんでしょう……自己紹介しておくべき?)
そう思い、私を見ているものたちだけに聞こえるように、裾を摘んで、右足を左足の後ろに回し、膝を曲げ、挨拶を始める。
「お初にお目にかかります、皆様方。わたくしはメルディーラと申します。どうぞ、よろしくお願いいたします」
(完璧なのでは!? 完璧淑女でございますよ!)
心の中では自分に大絶賛で、レオネットを見上げてみる。そんなレオネットは眉間に皺を寄せていた。
(何か間違いですね、なにかは分からないけれど、 すいません……)
ものすごく反省し、視線を前に向けてみる。すると、誰かが近づいてきた。
「面白い自己紹介だね、メルディーラ。私と一緒に話でもしよう」
(早速お友達確保できました!)
声をかけてくれたのは、銀髪の少年で、青い瞳をしていて、顔立ちが整っている。案内された席に座ると、左隣の席にその少年は座った。
「私は領主の子、リーレルトだ。よろしく頼む」
「よ、よろしくお願いいたします」
(まさか、領主の子と話すことになるとは……)
さすがに領主の子と聞いた時は驚きを隠せずに瞬きの回数が増えたと思う。
「それで、わたくしにお話とは?」
自分の驚きを隠すかのように話を促す。リーレルトも一つ頷き、口を開く。
「君は私の婚約者だそうだ」
(ええぇぇぇぇ!? なにそれ! 知らないよ!?)
「あ、あら、そうなのですか?」
またもや驚かされて、このお茶会で叫び出しそうになったが、耐える。
私は中継ぎ当主。嫁に行くことはできずに婿入りしてもらうことになる。そうなると、リーレルトは領主の子という立場ではなくなる。
「やはり、知らなかったようだね」
そんなことを言いながら、ニヤニヤと笑みを浮かべるリーレルト。私は、何かしら? と、頬に手を当て、首を傾げる。
「本来、皆に挨拶をするのは領主、領主の子、もしくは主催者なのだ。それで、この茶会は領主が仕切っていることになる。ここまで言ったら分かるかな?」
頭に疑問符がたくさん出てきた。とりあえず、整理するために人差し指を下唇に当て、天井を見上げてみる。
私はみんなに挨拶をしてしまった。リーレルトに婚約者になったと言われた。つまり、領主の子の婚約者だから、挨拶をした。って思われているのかもしれない。と、頭の中に出てきた。
(え、なにそれ、すごく面倒くさいことになってない?)
一瞬冷静に分析したあと、私は徐々に血の気が引いた。そして、謝罪する。
「も、申し訳ありません! 知らなかったとは言え、ご迷惑をおかけしてしまいました……」
私は、誠心誠意を込めて謝罪する。この後の展開を想像するだけでも、ものすごく胃がキリキリする。
(お友達、できない……)
「いや、いいんだ。このまま婚約者になっといてくれないか?」
「はい……え?」
許されたと思い、はい、と答えてしまった。今は頭の整理が全く追いついていない。何がどうなってこうなってるんでしょう。
「面倒な令嬢から、ずっと婚約の打診が来てるんだ。だから、君がそれを受け止める皿となってもらいたいんだ」
(何言っちゃってるんですか、このリーレルト様!?)
このまま流されるわけには行かない。誰かは知らないけれど、その令嬢にいじめられる未来しか見えない。「私の婚約者を取った」とか言われるなんて絶対嫌。
「わたくしは受け止めるには、お皿がものすごく小さいのです」
お断りします。と、遠回しに言ってみたが、この領主の子は諦めるつもりはないようだ。彼も口を開いた。
「だが、私から、発言の撤回がなければ、君はこのままだよ。メルディーラ」
その言葉に、うっ、と呻く。確かに、私から発言撤回なんてすれば、不敬。だから、リーレルトしか撤回ができない。この場には領主もいない。困った。
(流されてはダメだ!)
「そこまで言うのでしたら、リーレルト様は、わたくしの婿に来てもらうことになります」
「それは、どういう意味かな?」
リーレルトの笑顔が消え、その瞳が私をじっと見つめている。私はその威圧感に息を呑み、言葉を続ける。もちろん、笑顔は絶やさない。
「わたくしは、親のいない五歳の子供です。成人後、中継ぎ当主になります。そう決まっているのです」
「ふむ、では、君の家は違う貴族が引き継ぐとして、君を我が家の一室で住んでもらう。これでいいでしょう」
(いやいやいや! 勝手に決めないで!?)




