14 防衛魔術
刺繍が終わると、マミーユによって刺繍道具一式は回収されて行った。私はベッドの中に潜り込み、レオネットがその様子を見に来る。
「メルディーラお嬢様、明日の朝食後に報告をします。お休みなさいませ」
「……はぁい」
眠たくて返事が曖昧になって、レオネットがロウソクの灯りを消して立ち去って言った。
その時には、もう眠ってしまっていた。
次の日、私は湯浴みを終え、朝食を食べて終え、お茶の時間となった。
「では、報告します」
「レオネット、一体何があったの?」
私はレオネットに見上げ、カリーレといい、レオネットも気を引き締めている。カリーレなんて、腰に剣が刺さってるではないか。物騒な。
「本日、昼食後は商人とお話がありますが、その際、鍛治職人と冒険者の一組がやってくると報告を得ました」
「冒険者!? 冒険者ギルドの人ですわね! 気になるわ!」
冒険者の言葉にパァと明るくなるが、カリーレとレオネットは全く違う。一体、どんな人なんだろう。
「いいですか? メルディーラお嬢様。冒険者は野蛮な人です。くれぐれも、気をつけてください」
「ええ、分かったわ!」
レオネットと真逆の感情で私は喜んでいた。一体誰が来るのだろうか。やはり、戦いに赴くのだから強いんだろう。何かいい情報や面白いことがあるだろうか。そんな事ばかり考えていた。
「はぁ……お嬢様、冒険者は魔物を倒すのに特化した人たちです。もしこちらに牙を向くようなことがありましたら、お嬢様の前で……」
そう言いながら、腰の剣を撫でるカリーレ。最初からその様子を見せると、相手も警戒せざるを得ないと思ってしまう。あまり人の血が流れるようなことは、して欲しくない。カリーレが怪我なんてして欲しくない。
「カリーレ、安心してちょうだい、わたくしはここの当主よ、いい方向に持っていきますとも」
「お嬢様は何を言うのか見当も着きません……それでですが、今回はお嬢様の安全のため、防御魔術の特訓を教えます」
そう告げられ、お着替えをしたあとは庭へと向かった。レオネットとマミーユはそれぞれのお仕事へと向かい、カリーレと私だけが庭で特訓することになった。
「お嬢様は魔法が使えるので、魔力を盾にする想像をしてください」
「盾ってどんなもの?」
「持ってきています」
と言って、少し離れたところに置いてあったものを走って取りに行き、戻ってくる。
手にしてきたものはなんとも大きいもので、カリーレの足元から胸元まである。一体どこにそんな物を持っていたのか知りたかったが、それは言わないことにした。
「変な形ね、全体的に四角くて令嬢らしくないわ」
「たしかに……ですが、これくらい大きい方が私たちも安心するので」
苦笑いを浮かべながら、盾を少し撫でる。カリーレがお手本を見せることになった。
「風の盾よ 我が身 我が主をお守りするお力を 今ここに宿りたまえ」
そう唱えると、カリーレと私の前には盾が現れる。緑色に輝くその透明の盾は、カリーレが動くと同時に盾も動く。なんて便利な。
「わたくし、風の盾なんて出せないわよ?」
「おそらく、お嬢様の光の玉を薄く広げて、固まるように考えれば同じことができるかもしれません」
そういうと、やってみて! と元気になったカリーレは動きが俊敏になり、私の前までやってくる。
一歩離れ、光の玉を出す。が、まだ時間がかかる。魔力をふんだんに使い、やっとの思いで光の玉を出し、そのまま手のひらぐらいに大きく念じ、薄く伸ばす。
「カリーレ、触ってみてくれる?」
「かしこまりました」
カリーレは光の薄い壁のようなものに触れようとするが、すり抜けてしまう。固まるように考えてもやはり難しい。光が硬いとか全く想像できない。
「そもそも、光って触れられるものかしら……」
「土だと思えばいいと思います。水なんて、凍ると個体になるので」
彼女の言う通り、個体になるものはあるけれど、光はそもそもなんだろう、と、こう考えるとキリがないので一旦考えることをやめて、個体になれと念じる。
「今回は固くなりましたが、これだと発動までに時間がかかりすぎます」
手をぺたぺたと光の盾に触れるカリーレから、指摘が飛んでくる。たしかに、いちいち念じるのはめんどうとも思う。私もその盾に触り、頭の中ですぐにできるように想像する。
「とりあえず、早くできるようにやってみますわ」
私の言葉にひとつ頷き、一歩後ろに引いた。
それを見たあと、私は盾を消して、もう一度やってみることにする。今度は盾を考えながら。少し離れた場所に小さな光の玉が浮かび上がる。そして、一瞬で光の壁が出来上がった。
だが、今回は違った。
「色が薄いわ、これだと壊されちゃいそうよ?」
「一度、攻撃してみます」
物は試しだ。私は少し離れた場所まで行き、盾に魔力を流し続けた。カリーレは長い詠唱を唱え始め、頭上に炎の玉を作り出した。結構大きい。
手を前に出し、槍を飛ばすかのように炎の揺らぐ音とともに盾へ飛ばした。光の盾にその玉が当たる瞬間、物凄い爆音とともに熱波が押し寄せてくる。
「あ、あつい!」
土煙と同時に煙もこちらへやってくるので、目の前に光の盾を作り出した。今回は一瞬で作り上げ、色も濃く、熱波の元凶が少しぼやけて見える。
「お、お嬢様! 申し訳ありません! つい……」
十数える頃には熱波も止んで、土煙の向こうから走り寄るカリーレの姿が現れた。
「カリーレ、あとでレオネットに言いつけるわ」
恨みがましくそういうと彼女は口を開け、顔色が悪くなってくる。これは、甘い罰だ。もっと厳しくしたい気持ちを抑え、話を続ける。
「まだ、魔力の繋がりがあるわ、壊れてないみたいよ」
「そ、そうですか……土煙が止むまではどうなってるのか知りたいので、そのまま流しててください」
顔色の悪さは変わっていないが、それでも魔術が好きなのだろう。私の魔石への執着心とよく似ている。
土煙が薄くなり、奥には淡く輝く光の盾が現れる。無傷とまで行かず、大きくヒビが入っていた。真ん中から端の方までビッシリヒビがあり、触れば割れそうになっている。
「これでまだ割れないなんて、濃い色をしたものだとどうなるか気になりますね」
「やりたくないわよ、もう二度と……」
もうやりたくない。熱波のあの熱さ、もう少し盾を出すのが遅かったら、焼け焦げていたかもしれないのに。前髪少し焦げた気がする。
「そういえば、盾をすぐに出せるようになったわ」
「本当ですか! さすがお嬢様です!」
そう喜んでくれるが、良くも悪くもカリーレのおかげなのは確かだが、なんか解せない気持ちだ。
あとの魔術特訓は盾を出し、消して、全方位の盾を作る練習などをしていた。さすがに魔力も尽きかけているのが分かる。疲労感がすごく、立ち上がるのが大変な程となっている。
「お嬢様、魔力回復薬をお作りしましたので、飲んでください」
「ああ……ずっと腰にあった、小さな瓶はそれだったのね」
腰にある動物の皮でできた、瓶を入れる用のホルダーを見つめ、差し出された瓶を取った。
「ええ、午前中は限界を見ておきたかったのです」
カリーレは魔術のことになると、活き活きする。用意周到だが、威力だけは何とかして欲しい。
「どう? 魔力量は」
「はい、上級貴族なんて比にならないぐらいには多いと思います。ですが、魔法は光なので、使える長さや維持のために使う魔力が多いので、上級貴族並になってしまいますが、すごいと思います」
急に饒舌になったカリーレはまるで、自分のことのかのように嬉しそうに話す。
「そうなのね、成人したら、上級貴族になれるかもしれないわよ」
「この魔力量なら余裕でなれちゃいますね」
二人で、クスクスと笑い合う。そんな時間はすぐに終わり、昼食の時間になった。レオネットが庭まで来て、カリーレを見つめる。
「カリーレ、先程の爆発音と庭の荒れ具合のご説明をお願いしても?」
レオネットは徐々に怒りが顕になってくる。さすがにカリーレも「うひっ」と情けない声で呻き、事情を説明し始めた。
それを聞いたレオネットは静かに言葉をこぼす。
「商人の話が終わったあと、お話があります。カリーレ」
「も、申し訳ありません!」
レオネットに謝ってるカリーレに少し追い討ちをと思い、私は口を開く。
「カリーレ、肝心なことを言ってないわよ、わたくし、あの熱波で焼けそうでしたもの」
そういうとレオネットはキリッとした鋭い目つきでカリーレを見やる。カリーレは顔面蒼白となり、私を見つめた。
(ごめんね、カリーレ。これだけはちょっと許せいないの……)
心の中で呟き、ぷいっとそっぽ向いた。視界の端ではカリーレは変わらず、口をぱくぱくして助けを求めようとしているが、残念ながら助けられない。今のレオネットはちょっと怖いので。
「メルディーラお嬢様、昼食をお食べになりましょう」
「はぁい、お腹ぺこぺこ……」
魔力の使いすぎのもあり、お腹がすごく空いている。今回はデザートをつけてもらいたい。タルトがいい。
私は今日の昼食はなんなのか想像しながら、軽い足取りで食事の間へ向かった。
(昼食が終われば、冒険のお話を聞いてみたい!)
その思いを抱きながら。




