13 リュンレルテとお茶会
他愛もない話をした後は、リュンレルテに案内されて庭へやってきた。
「すごく綺麗ですわね」
広大な範囲にお花が植えられており、色鮮やかで、目に優しい。
「今日は黄金の花のお茶会にいたしましょう」
「黄金の花……?」
リュンレルテは目線を横へ向けて、そちらに歩を進める。私もそれを追いかけながら、周りを見渡す。
「き、きれい……」
真ん中に丸い机、屋根がついており、そのまわりには黄色のお花が柱にもぐるっと括られている。
「ここはメルディーラに、とってもお似合いだと思うのよ、わたくしの服だって黄色を基調としましたもの」
そこまで、私のことを考えてくれていたとは、なんだか恥ずかしくなってくる。だが、今日は茶色を基調とした服を着ている。表面上では、リュンレルテの髪色に合わせているよ、という意思表示だ。
「まあ、わたくしと考えることは一緒なのね」
ふふっと笑ってみると、リュンレルテは「そうね!」と嬉しそうに微笑んでくれる。そして、案内された場所に座る。
この小さな屋根の下から見ても、本当に周りが絶景だ。先程まで見えなかったが、小さな川が流れており、川の音で耳も癒されてしまう。
「本日は来ていただけて嬉しいわ」
癒されている時、リュンレルテからそう言われ、私は我に返る。つかさず笑顔を作り、言葉を返す。
「いいえ、リュンレルテ様とお茶会ができて、わたくしの方は光栄ですわよ」
「光栄だなんて、あなたが殿方ではなくて良かったですわ」
ちょっと疑問符が吹き出てきた。それを察したのか、そのまま言葉を重ねた。
「メルディーラが殿方だったら、その美しい姿だと、みんなに好かれてしまうでしょうね」
リュンレルテは私の髪を一本一本数えるように見つめる。
「いいとは言いきれないですわ、目立つのは避けたいのよ」
「メルディーラはいるだけで目立つものね」
(ん? どういう意味ですか? 悪目立ち!?)
あまりいいように聞こえないが、リュンレルテはとろけるようなニコッとした笑顔が消えることはない。なので何を考えているのか全くわからない。難しい。
「わたくし、リュンレルテ様が羨ましいですよ、色んな意味で」
「どういう意味でしょう。羨ましがられるところなど、なかったと思いますが……」
そこへ、お茶がやってくる。目の前にことっと置かれ、タルトのことを思い出す。
「お口に合うといいのですが、リュンレルテ様のタルトも手土産として持ってきたのですよ」
そう言いながら、お茶をコクッと一口飲み、その美味しさに片手で頬を落ちるのを防いでいた。
「あら、わたくしにもあるのね、一緒に食べましょう」
「食べる! あ……いただきますわ……」
一瞬我を失ってしまった。タルトをお屋敷までお預けを受けていたのもあって、食べたい気持ちを必死に堪えていた。
「ふふふ、メルディーラは甘いものがお好きなのね」
「恥ずかしいところをお見せしました……」
「いいのよ、その方がわたくしは好きよ」
侍女同士の話し合いが終わり、タルトが持ち込まれてくる。果物が沢山乗っており、何がどれなのか分からないほど色鮮やかだ。景色と相性がいい。
「早速だけれど、中央首都をどう思います?」
「中央首都とは、王族の直轄地ですよね、どうと言うのは?」
質問の意図が分からない。何が起きて、何が行われようとしているのか、情報が全くない。
「聖女派と占い派というのに別れているの」
また初めて聞く単語が出てくる。聖女派は何となくわかるが、占い派とはどんな派閥なのだろう。
「占い派とは、なんでしょう?」
「占いを信じる人たちよ、今から千年後に道標の存在が占われたのですって」
「千年ですか……それはわたくしたち生きていませんよ」
リュンレルテは「ふふ」と笑って、そうねと返す。さっきから、意図が分からない質問ばかりしてくる。
「中央首都よりも、訂正しておきたいことがあります。わたくし、領主の子である、リーレルト様と婚約する気はなかったのです」
真剣にそういうと、リュンレルテは相も変わらず、笑顔を見せたまま言う。
「分かっていたわ、親のいない貴族が婚約者になるのは難しいですし、あの時のメルディーラは驚いた顔をしていましたもの」
知られていた。そんなに私の顔は分かりやすいのだろうか。
「よろしいのですか? リーレルト様の婚約者だからと、言ってくれましたのに……」
「いいのよ、今日のお茶会でメルディーラのことがよく分かったの、ずっとおともだちでいてくださいね」
その言葉に心いっぱいに嬉しさが広がる。もちろん私は「よろしくお願いしますわ!」と元気よく返事を返した。あとタルト美味しい。
「本日はお招きありがとうございました」
ほとんど、リーレルトの婚約話や、他のご令嬢の話、好きな本の話をした。「好きな本は魔石に関すること」って言うと、困ったような顔をされ、私も困惑してしまっていた。
そんな楽しい時間はあっという間で、そろそろ帰る頃となり、挨拶をしていた。
「次は、メルディーラのお屋敷にも行ってみたいですわ」
その言葉にすぐに返事ができず、レオネットを見上げてみる。レオネットはひとつ頷き、誘っても良いと合図をしてくれる。
「ええ、ぜひいらしてくださいな!」
自分の屋敷に人を呼ぶ、そんな小さなことが嬉しくて、つい声を大きく言ってしまった。が、リュンレルテはすごく嬉しそうに、本を持ってきた。
「これは恋愛の本よ、わたくしは所々でしか読めないけれど、メルディーラなら全部読めそうね」
本を侍女同士で受け取り、私は「ありがとうございます、リュンレルテ」と言って、馬車に乗った。馬車の窓越しに二人で手を振り、立ち去った。
「レオネット、わたくし、変なことしてないわよね」
馬車の移動の途中、レオネットにそう問いかける。変な子というような顔を良くされていたけれど、きっと問題ないはず。
「ええ、綺麗な所作に、良いお友達でありましたよ、ただ……」
一度そこで言葉を切り、少しした後、また口を開く。
「こわーい侍女に叱られているというのは余計ですね」
「うっ……あれは場を和ませるために……」
「そうですか、他にもあったと思いますが?」
レオネットと目を合わせられず、たまにチラッと顔色を伺ってみるが、無表情なので何考えているのかが全くわからない。ちょっと怖い。
「ですが、場を和ませるのは良い判断でした。ガラスティル様は威厳があるお方ですので」
初めて褒められて、私はぱぁっと明るくなる。そして、立ち上がって自分に祝福を送ろうとしたところ、肩を掴まれ、座らされた。
「メルディーラお嬢様。淑女たるもの、ちょっと褒められたぐらいで立ち上がるほど、喜ばれるではありません」
怒られてしまった。だが、それでも嬉しいのだ。
レオネットに心なしの返事を返して、馬車の外を眺める。夕日に照らされ、色んな屋敷を横切り、色んなお花の匂いがする。こんな日がずっと続く、そう思える。
馬車が自屋敷に着き、扉を開け、優雅に屋敷に入った。
「おかえりなさいませ、お嬢様、レオネット様」
カリーレとマミーユが声を揃えて出迎えてくれる。そして、カリーレはレオネットに近寄り「少しお話がございます」と言った。
「何かありまして? わたくしには言わないのかしら?」
「レオネット様からの指示を受けたいので、申し訳ありませんが、後ほど報告いたします」
カリーレにそう言われ、私は仕方なく了承する。なんの話をするのかがものすごく気になる。無理やり言わせることもできるが、そんなことをしていいことはないと思うので、辞めることにした。
「マミーユ、先にお風呂に入りたいのだけれど、お願いしても?」
「はい、問題ありません」
マミーユに優しい笑顔でそう言い、レオネットにお水を用意してもらった後、カリーレとレオネットはどこかへ行ってしまった。
マミーユによって、服を剥ぎ取られ、お風呂の中へじゃぶんと入ると、マミーユからは「ゆっくり入ってください」と叱られてしまった。
「今日はレオネットじゃないから、気が抜けていたのだけれど、マミーユの時でも気をつけないといけないわね」
「カリーレ様はお風呂担当にはなりませんよ」
カリーレなら大丈夫かもって考えていたのはお見通しのようだ。意外と、用心深い。
「マミーユ、二人はなんのお話をするのかしら」
そう問いかけると、彼女は「きっと、商人のお話かと」と言った。もしかして、商人が悪巧みを始めたのかなと考えてみたけれど、あの恥ずかしい怒りを見せてしまったのだから、そんなことはしないと思う。きっと。
「明日は商人と鍛治職人が来るのよね、あとが気になるわ」
頭をごしごしと優しく洗ってくれながら、マミーユは少し考えている。
「お嬢様は魔石のことを考えていてください、明日は魔道具のお話ですから」
そう言われ、それもそうね、と呟き、食事の間へと行った。あとの報告は明日することになり、夕飯を食べたあと、自室に向かったが、勉強机の上には花嫁修業として、刺繍道具一式が置かれている。
「これ、やらないとダメなのかしら……」
「やってください」
マミーユが真剣な目でそう言って、刺繍の手つきや、少しのズレにも厳しく叱る。
(こんな厳しいマミーユは嫌!)
心の中でそう叫ぶが、当然聞こえることなく、ちくちくと刺繍を進めて行った。




