11 魔石研究所
「レリアナートを呼んでちょうだい」
お茶を一口飲む前にそう言って、レオネットが「かしこまりました」と言い、動き出す。そして、レリアナートは厨房から出てきた。
「私の料理はお口に合いませんでしたか……?」
恐る恐る、口を開くレリアナートは心配した面持ちをしていた。が、そうでは無いのだ。
「違うわ。あなたの厨房を明日見せてもらいたいの」
更に不安になったようだ。眉尻が下がり、なにか間違いを犯したのだろうかと考えているのだろうが、私は厨房で使えそうな魔道具の開発をしたいのだ。失敗しても怒られなそうなので。
「かしこまりました。朝食後にお越しくださいませ」
長く考えたあと、了承するレリアナートにひとつ頷き、お茶を全て飲んだあとは、お風呂の時間だ。客人や家族がいる時は先にお風呂に入るが、今は一人なので順番を気にする事はない。
それでも、一人で食べるご飯は寂しい。
「レオネット、ここではどうやって水を持ってきているのかしら?」
ここにも水が出る魔道具があれば、楽になるだろうし、照明でも湿気でつかないロウソクに悩まされることはなくなるはずだ、と私は考えた。
「私が魔術で水を出していますよ。あとは火を扱えるカリーレが外で焚き木しております」
頭をゴシゴシと洗いながらレオネットは言った。目を開けると、レオネットは真剣な目で私の髪を見つめ、丁寧に洗ってくれている。それを見ると嬉しくて、ふふっと笑う。レオネットは首を傾げたが、分からなくていいのだ。
「みんなに魔力を使わせているのね、わたくしの魔力も使ってもよろしくてよ?」
「それはなりません。主の魔力をいただくなど、侍女として失格です」
「……はい」
そう怒るレオネットだが、私のためにいつも魔力を使っているのだと考えると、大変だと思う。ただでさえ、広いお風呂なのに、水を一人で出すのは疲労が出るだろう。
「レオネットはあまり甘えないのね」
「甘えるほどではありませんから、それより、魔石研究所とはどのようなものですか?」
ばしゃあっと髪を流すレオネットから質問をされた。髪をクルッと止めたあと、私はレオネットを見上げ、言葉を出す。
「魔石で道具を作ろうと思うの、色々性質があるのだから、使えれば役に立つと思うわ」
「なるほど、ですがたくさんの方がそれをやり、失敗しています。魔道具なんて作れないと思いますよ」
「え!?」
失敗……。その言葉がどれだけ心を刺されたのか。たしか失敗談の本を見る限り、たしかに剣や防具は失敗だらけだった。それでも、小さな道具ならできると思った。
「ですが、わたくしが考えた照明器具はできそうなのよ?」
「……たしかに、できそうですね。画期的な物だと思います」
顎に手を当て、少し考えたレオネットはそう言った。魔道具が出来なかった原因はまだ分からないが、明日、魔石研究をすればわかると思うので、今日は考えることをやめた。
「明日考えるわ、のぼせそうなので、上がるわ」
「かしこまりました」
そう言って、体をふいたあと、寝間着に着替え、自室のベッドに潜り込んだ。昨日のように眠れないということはなかった。
よく寝た次の日、記憶喪失から三日目。湯浴みを終え、朝食を食べたあと、厨房へやってきた。
「たくさん桶があるのね」
「はい、手を洗う用と料理に使う用、それから厨房を掃除する用として、扱っております」
レリアナートは一つ一つ教えてくれた。こんなに水があるのはやはり魔術で作り出したものだろうか。
「誰の魔術で出しているの?」
「レオネット様が出しておられます、私は水の適性だけないので……」
ここでもレオネットの魔力を使っているようだ。一体、どれだけの魔力を隠し持っているのやら。そう考えた。
他にも、火はカリーレ。料理をたまに手伝うマミーユ。みんながみんな、大事な役目を持っている。
「人材募集するべきかしら、一人だと大変でしょう?」
「いえいえ、一人でも今は十分です」
謙虚な人だ。みんな私に甘えてこない。私の方はみんなに甘えて迷惑ばかりかけているのに。でもそれももう終わりなのだ。魔石の道具を使って、楽してもらわなくては気が済まない。
「一通り分かったわ、ありがとうレリアナート」
「どういたしまして、今度一緒に、クッキーでも作りましょう」
「作るわ! 作ってみたいわ!」
クッキーに耳がピクっと動き、目を輝かせて、承諾すると、ふぉふぉと笑いながら、頭を撫でてくれる。この人はまるで私のおじいちゃんのようだ。
次はカリーレに連れられて、魔石研究所へと向かった。
「あら、魔石はもうあるのね」
真ん中の長い机には大きな箱があり、中には色とりどりの魔石が入っている。早速実験をしようとすると、カリーレに止められた。
「お嬢様、魔石は危険でもあります。せめて、防御がある服に着替えなくてはなりません」
真剣な顔でそういうカリーレだが、また着替えるのはめんどうくさい。このままではいいではないか。
「そんなめんどうくさい顔しないでください」
どうやら、顔に出ていたようだ。ちょっと恥ずかしいが、仕方ないと思っている。ことある事にお着替えだなんて。
「着替えはそんなに重要なのかしら」
ぷいっとカリーレの反対側へ顔を背け、そう呟いた。
「魔石は無理に魔力を流し込むと爆発するのですよ、せめて、魔力防御の服を着ませんと……」
え!? とカリーレの方へ顔を向ける。爆発したらさすがに痛い思いをするとので、着替えることにした。着替えたあとは早速実験だ。
とりあえず、水の魔石を取ってみる。青色で美しい。ちょっとぼこぼことしていて私の小さな手じゃ、持ちにくい。
ほんのちょこっとだけ、魔力を流してみると、光るとともに水が一滴垂れる。
「こんだけなのね、ならたくさん魔力を注ぐとどうなるかしら」
そう呟いたあと、カリーレが目を見開いて、大股で近寄ってくるが、私はそれを気にすることなくたくさん魔力を注いだ。すると、パキッと割れる。
「お嬢様!?」
その声は乏しく、水の魔石が割れると同時に水がたくさん溢れた。その反動で、私は大きく後ろに飛ばされ、カリーレに抱き止められる。
「けほ……けほ……」
水の勢いで、鼻の中にたくさん入った。危うく溺れかけてしまった。地上なのに。
「お嬢様!? 言ったではありませんか! 危険です。もうやめましょう!?」
カリーレが聞いたこともない大声で呼びかける。流石にこれにはカリーレは本当に怒ってしまった。注意されたばかりと言うのに、反省。
「ごめんなさいね、カリーレ。次からはちゃんとしますわ」
「懲りてください……」
カリーレを見上げ、お願いして、もう一度挑戦することにした。次はカリーレがいつでも抱きとめれるように私の横に張り付いている。もう大丈夫だと思うのだけれど。
「水の魔石を」
魔石を取ってもらい、私の手でもう一度魔力を流してみる。一滴ずつ垂れる水。だが、これだけだと、全然足りない。水周りではこれでは意味がない。一度魔石を話して、魔力核を持ってみる。
「これは爆発しないわよね……」
「魔力核なら、割れるだけで大丈夫だと思いますが、念の為です」
次はカリーレに抱きしめられながら魔力核に魔力を流し始めた。黄色に輝く魔力核は綺麗に輝き、離すと少しづつ色が薄くなりまた透明の玉になる。
もう一度魔力を流したあと、魔石に近づけてみると、次はちょろちょろ、と魔石から水が滴り落ちてくる。
「もしかすると、魔力の波長かしら」
「え? なんですかそれ」
キョトンとした顔をしつつ、尋ねてくる。感覚でやってる人には分からないのかもしれないけれど、細心の注意をはらったらわかると思う。
「魔力には流す時に、一定ではないといけないのかもしれません」
「一定? 難しすぎますよ」
一定に魔力を流すのは難しすぎる。大きかったり小さかったり、その些細なことでも、魔石は壊れる。それに魔力核は品質によって、魔力が出にくかったり、出やすかったり。一定にするにも難しい。
「これは、他にもなにか必要ですね、光の魔石も試しましょう」
「はい……私は絶対お嬢様をお守りしますからね」
本当に心配してくれてるが分かる。さっきのは私の不注意だが。
そして、色々試したあとは昼食を食べ、午後はまた魔石の研究を始めた。
「ご飯を食べながら考えたのですけれど、魔力を跳ね返す素材があったとして、魔力核を覆うように包み込んだ後、少し穴を開ければ、一定な魔力を魔石に届けるのではなくて?」
「ん? どういうことですか?」
カリーレは全くわかっていないけれど、「魔力を跳ね返す素材なら、ありますよ」と言ってくれた。そしてここにあるのだとか。
「どれでしょう?」
「この鉄ですよ」
持ってきたのは鞘に収められた剣だった。ただの剣。
「えっと、剣ですか?」
「いいえ、鉄がそうなのです」
鉄を覆うようにしてもらって、魔力核を入れて蓋をすれば、行けるかもしれない。
「見たところ、魔石は魔力核から出てくる魔力を全て吸っている感じはしないわよね」
「そうですね、半分くらい逃がしてしまっています」
「そう! そうなのよ! これを全て魔石側に行けたとしたらどうなるのでしょうね!」
カリーレは思い詰めたように考え始めた。そしてしばらくした後、私を見つめた。
「これは革命ですよ、魔力が少なくても魔石を扱えるなんて。誰が考えるでしょうか……」
「ええ、穴の大きさで、出す量も変わる可能性も充分あるかもしれません。明日はリュンレルテ様のお茶会ですが、明後日の午後、商人と鍛治職人を呼びましょう!」
兆しが見えてきた。こんな簡単にできるのに、なぜ先人たちはできなかったのだうか。それは疑問だったが、私には関係がない。この屋敷が快適になれば、それで十分なのだ。




