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63 学園祭(3)危険な作業

午後になると真赤な太陽が強烈な殺人的ともいえる光線を放っていた。校舎の下からは何人かの先生と多くの生徒がバナーを吊り下げる作業を凝視している。屋上にはクラスの生徒が十人ほどいて、気性の激しい風間が谷内田先生に

「先生、早く吊り下げてよ。まだやることがいろいろあるんだからさ」


かわいそうな谷内田先生はもちろんスカートではなくズボンを履いているが、滑らないようにと靴や靴下は脱ぎ、裸足で恐々とではあるが柵を乗り越えた。


この時点でももしバランスを崩せば急降下してしまう状況だが、柵を越えると恐怖のあまり、座ってから這うようにしてアームにバナーの先端の中心部をつけるために恐る恐る手を伸ばした。そこには強烈な太陽光線が容赦なく照りつけている。


 下から見ているマーガレットは

「お姉ちゃん、谷内田先生、危ないんじゃないかな。何とかできる?」


プリンセスは先ほどからそのことを考えていた。谷内田先生が万が一落下した時に使える魔法は彼女の得意な物体移動魔法だが、この状況ではかなり難易度が上がるのだ。


単に何かの物体を動かすのと違って人間の場合は体重がある。谷内田先生は全体的に細身ではあるが、50キロはあるだろう。しかも重力がかかる。


それに空中で止めるわけにはいかないから、自然に落ちていくように見えなければならない。そこでプリンセスは少し前から両腕を腰の前に組んで魔法エネルギーを全身から腕のほうに集めていた。


エネルギーを十分に貯めておかないと重い人間の体を支えることはできないからだ。先生が何とか作業を無事に終えることができればこの努力は無駄になるが、そうなることを祈りつつも万が一に備えて集中していた。


 谷内田先生はアームにバナーの先端の中心部を取り付けようと恐怖と戦いながら懸命に取り組んでいた。最近は食欲が無く、夜もよく眠れていないので体力的に弱っているが、必死になって集中して手を伸ばしていた。


もう少しなのだが接続できそうでなかなかできない。後ろから風間がもう少し右、などと叫んでいる。何とか接続できた、その瞬間太陽の強烈な光線を浴びる中で急に意識が朦朧としてきた。


何とか接続できたので戻るために立ちあがろうとした瞬間、急にバランスを失ってしまい、前につんのめるようにして落ちてしまった。上からも下からもきゃーという悲鳴が聞こえた。


 その瞬間プリンセスは貯めておいた魔法エネルギーを全力で落下していく先生の少し下に放射し、人間の目にはかなりの速度で落下しているように見えるが、実際はかなりゆっくりと下方へ移動させ、地面に生えている木立の上にそっと載せた。


先生たちは慌てふためきながら、木立の上に落ちた谷内田先生を静かにおろし、救急車を呼んだ。


 夕方になると先生たちは職員室に集合し、校長先生が話をした。

「谷内田先生は学園祭の準備作業中に校舎の屋上から落下しましたが、奇跡的に助かりました。無傷であり、精密検査の結果も何の異常もありませんでした。本当に良かったです。


ところで聞くところによると谷内田先生は極度の高所恐怖症であり、相当悩んでいたそうですね。ある先生に助けを求めたところ怒鳴られたという話も聞いております」


校長は一瞬話をやめて若い体育教師の方をジロリと見た。彼は下を向いた。校長は再び話を続けた。


「教師と言っても万能ではありません。自分の専門外のことでは苦手なこともあるでしょう。そんな時、どうかこれからは優しい言葉をかけてあげてください。そして何よりも助け合って欲しいのです」


 学校の帰りにマーガレットはご機嫌でプリンセスに話しかけた。

「お姉さま、そこの四つ角を右に曲がったところに新しいスイーツのお店ができて、そこのストロベリーパフェが絶品だってクラスメートが言ってたの。ねえ、寄っていかない?」


「いいわね。ちょうど甘いものが食べたいと思っていたとこなの」

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