62 学園祭(2)(高所恐怖症)
「バナーの制作は順調なんだけど・・・」
「えっ、言ってちょうだい」
「バナーはもうすぐ完成するんだけど、それを校舎の屋上から垂らすので、先端部を屋上の柵を越えたところにあるアームに取り付ける作業があるの。それってとっても危険な作業で、もし足を滑らせたりしたら落ちちゃうわけ。
校舎は5階建だから、まず助からないわよね。だから学校としてはその最後の取り付けだけは絶対に生徒がやっちゃいけないっていうの」
「ということは先生がやるわけ?」
「そうなの」
「確かあなたのクラスの担任の先生は筋骨隆々の藤塚先生だから大丈夫でしょ?」
「ところが藤塚先生は明日から1週間出張でいないの」
「ということは?誰がやるの?あっ、担任がいなければ副担任の先生がいるじゃない。誰だっけ?」
「古典担当の女性教諭。谷内田里子先生よ」
「あっ、私、古文教わってるわ。ちょっと弱々しい感じだけど、授業はなかなか緻密よ。冗談の一つも言わないけどね」
「学級委員長の風間さんが谷内田先生に依頼したんだけど、先生は極度の高所恐怖症だからできないって言うんだって。それで風間さんが、あっ、風間さんて女生徒なんだけど気象が激しくてきつい性格なんだけど、ちゃんと副担任の責任を果たせって先生に食ってかかったそうなの。
それで先生は仕方なくオーケーしたそうなんだけど。そのせいか、この頃谷内田先生は元気がないし顔色が悪いの。きっとバナーのことで悩んでいるんだと思うの。だとしたら、いくら副担任といってもかわいそうだと思うのよ」
「そっかー。それは心配ね」
ある日プリンセスは学園祭の準備の件で、職員室で担任の先生と話をしていた。たまたますぐそばに谷内田先生の席があり、彼女の様子が見えてしまった。彼女はおずおずしながら隣の席の若い体育教員に話しかけているのだった。
「あっ、あのう、私が副担任をしているクラスで空き缶を使ったバナーを制作しているのをご存知ですか?」
「ああ、知ってるけどそれが何か?」
「担任の先生が出張中なので、今日の午後私が屋上からバナーを吊るさないといけないんですけど、私、極度の高所恐怖症なので、も、申し訳ありませんが吊るすのを手伝っていただけないでしょうか?」
「ふざけんな!どうして担当クラスでもないのに俺がやらなきゃいけないんだよ。それは副担任であるあんたの仕事だ。そういうのを職務怠慢て言うんだよ。あんたの仕事は責任もってあんたがやれよ!」
「ですよね。失礼しました」
プリンセスは妹のマーガレットから話は聞いていたが、今日の午後に高所恐怖症の谷内田先生がその作業をやらなければならないことを偶然知ってしまった。あんな怒鳴られ方をしてかわいそうな谷内田先生。このままではいけない。何とかしないと。




