表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
非業の枷  作者: 陰東 紅祢
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/84

悪夢

 暗い闇に抑揚のない女性の声が響き渡る。


『あなたは誰なの……』


 次の瞬間浮かび上がった女の顔は、恐怖に青ざめていた。顔はやつれきり、生気が感じられない。その虚ろな眼差しは、真っすぐにこちらを向いていた。


『……あなたみたいな悪魔、産んだ覚えはないわ』


 喉の奥から絞り出すようなくぐもった震える声で女性はそう言った。

 存在自体を否定する強烈なその言葉。それが、胸を裂かれるほどに痛みを与え、同時にじわりと深い闇を滲ませる。


 必要とされて生まれてきたはずだが、そうではないと拒絶された。

 ならば、こうなる前までに向けられていた笑顔は何だったというのだろうか。優しい声音で名を呼び、受け入れる為に広げられていたあの温かな腕は、何だったのか。


 ……無条件に与えられる、柔らかくて優しいそれらは全て愛だと思っていた。そう思っていた。だが……どうやら違うらしい。

 

 針で刺されたような痛みが、胸の奥を刺激する。その針は胸の奥に刺さったまま抜けることはない。


「…………じゃない」


 幼いリガルナは暗闇に蹲り、幾度と無く頬を濡らした涙が伝い落ちる。何度声にしても誰の耳にも届かない心の叫びは虚しく響き渡るだけ。それでも、彼は幾度となく叫んだ言葉をもう一度だけ天を仰いで叫ぶ。


「俺は……俺は、こんな姿に好きで産まれた訳じゃない!」



                    ***



「……」


 ピクリと身体が微かに跳ね、伏せていたまつ毛が微かに震える。

 夢から覚めたリガルナはゆっくりと瞼を開く。その視界にはゴツゴツとした岩肌と緑色の炎が風に煽られて揺れているのが見える。


「……はぁー……」

 僅かに上がった呼吸を落ち着かせながらおもむろに顔を上げ、深いため息を吐く。

 いつの間にか眠っていた……。体を石の上に横たえる事も無く、じっと座ったままで。


「……不愉快だ」


 リガルナは憮然とした表情を露にゆっくりと立ち上がる。

 緑色の松明の炎に照らし出されたリガルナの纏う“赤”は、揺れる度に不気味さを醸し出していた。

 血のように深い赤。誰もがそれを目にする事すら恐れ、口にする事すら憚る。

 それも今となってはいつもの事で、分かり切っていた。


「……ッチ」

 苛立ちから、リガルナは小さく舌打ちをする。

 忘れたくても忘れられない。忘れようと思っても、自分の中にある何かがそれをさせてはくれなかった。少年時代に負った、体に残った数々の傷が消えないのと同様に……。


 脳裏にこびりつく記憶。

 人間たちが自分に向ける目は、いつも恐怖と威嚇、そして牽制。

 リガルナのどんな訴えすらも聞き入れられず、一方的に向けられる悪意と拒絶の言葉。

 ……そんなことばかりだった。


 リガルナは固く拳を握り込む。

 これまでもいくつか町や村を消して来たが、目の前で人間たちの日々の営みの灯が消えていくその瞬間は、すぅっと胸の奥が凪いだ。

 またこんな夢を見ては不愉快以外の何ものでもない。このままではゆっくり休む事も出来ず、リガルナはジャリッと地面を踏み鳴らし、洞窟の出口を目指して歩き出した。

 外に出れば、空には満天の星空。先日同様に少しだけ欠け始めた大きく丸い月が冷ややかにこちらを見下ろしている。


「………」


 リガルナはそっと目を伏せ両手を腰の辺りで大きく広げた。

 穏やかに流れていた風が、リガルナの呼応に応えるかのように入り乱れ、集まり始める。

 閉じていた瞼を開き、暗い夜の闇を鋭く見据える。


 思い出しただけで虫唾の走る過去の出来事だった。このままじっと夜を明かすには、あまりに気分が悪い。


「さて……次はどこを潰してやろうか」


 リガルナは口の端を引き上げ、不敵にほくそ笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ