27 羽黒祐介の誘い
海が暗くなり、そして黒くなった。隣の部屋では未だに長倉 理沙の尋問が行われていた。 やがて月が輝き始めると、部屋のドアが鳴った。羽黒だった。
「どうしました? 」と僕は言った。
「取り敢えず、一段落がついたので。皆さんも今日のところは自由に行動してもいいらしいです。そう根来さんに言伝てを頼まれました。もちろん、この事件については秘密にしてもらうことが条件です」
「……長倉 理沙はどうなりました? 」
羽黒は首を振った。
「まだ、根来さんは彼女を拘束するつもりらしいです。と言っても、部屋は他に移すのでしょうが」
「なるほどね。それはいつ頃までですか? 」
「根来さんの気が済むまで」
僕は肩をすくめた。
「なんで彼ってあんなに怒る人なのかな? 」
「正義感の強い人なんですよ。一つのことを正しいと思ったら、梃子でも動かないんです」
「無鉄砲なだけでは? 」
羽黒はそれに困ったように笑った。別に否定もする気もなければ、肯定することもありません、と彼は言った。それは根来さんの闇であり、希望なんです。そして人差し指を立てて、思い出したように言った。
「そうだ、お腹は空いてませんか? 」
「まあ」と僕は言った。
話をすり替えられたな、と思った。しかし、たしかに腹は減っていた。やれやれ今日は何を食べたかな? 少なくとも大したものは腹に入ってないはずだった。
「三人で食堂に行きませんか? もう用意も済んでいるだろうし」
「私は結構です」とカールさんは言った。「あんなのを見たあとではね」
彼の顔はやつれているようだった。元々、目尻の皺や、白い髭も生えており、お爺さん真っ直中のようなイメージがあったが、それよりも何十年か上乗せしたように見えた。顔に覇気がなく、十秒に一度の具合でため息を吐いた。長くて、大きな声で。
「じゃあ、あなたは? 」と羽黒は気にする風でもなく言った。
どうしようかな、と僕は思った。このまま、カールさんと二人でいる方が落ち着くような気がしていた。しかしこの機会に羽黒がどこまで何を――たとえば、清蔵の遺体等から――把握したのかを知っておきたかった。そして確実に何らかの事実を隠していることはわかっていた。その上でハッタリを掛けるつもりなのかもしれない。この食事の誘いだってその一貫のはずなのだろう。だが、騙すのはこいつであってはならない。それは僕でなくてはならないのだ。
「ええ」と僕は言った。「是非、ご一緒させてください」




