のらりくらり~あー札束を刷る音ー~
『今から龍馬を連れて行くけどバトルでアリアンロッド出したからバレないようにして』
そんな連絡をこっそり入れてから顔を出すとアリアは髪型を変えて眼鏡をかけていた。
絵違いと呼ばれる、モンスターの姿勢や表情が違う差分であったな。
当然私は持っていたし、シリアルナンバー入りで厳重に保管していた。
前世でも売ったら3桁万円半ばまで行けたんじゃないかなあれ、ナンバーも001だったし。
なお死ぬほど頑張った結果手に入れた一番最初のシリアルで、公式から直々に手に入れた物なので本物なのは確定している。
世間では行方不明カード扱いされていたけど、私は絶対に口外しなかった。
「いらっしゃいませ。カードをお探しですか?」
「いえ、強くなれると聞いたんで! 修行にもカードを揃えるにもうってつけって静香が!」
言ったけどさぁ……500円のB定食で尻込みしてる奴が買えるカードはたかが知れてるぞ。
「龍馬、この店の商品はかなりの値段よ?」
「え?」
「店長、ストレージは1枚500円スタートよね」
「そうですね。ちなみにうちでの最高金額は9桁になります」
要するに億単位。
売っているだけありがたいと思えという超レアカードだ。
ランク付けするならコモン、アンコモン、レア、スーパーレア、ダブルスーパーレア、ウルトラレア、シークレットレア、ウルトラシークレットレアという頭の悪い語録が並ぶことになる。
まぁ基本的に略されてC、UC、R、SR、SSR、UR、CR、UCRとなるので正式に覚える必要はない。
龍馬の使うカードの大半はコモンかアンコモン、レアに満たないカードが中心だ。
現状龍馬の切り札の【英雄 炎風の戦士】がSRに届くかなと言うライン。
中盤くらいからエースになるカードがURだな。
ちなみに【天使クリエル】もUR。
終盤に手にするカードはどれもUR以上でインフレしていくし、そのうち1枚は前世のトップ環境でも強力なカードとして愛されつつも出されたら舌打ち待ったなしのカードだった。
「そりゃ手が届かねえや……」
「ストレージやオリパならそこそこ強化に使えると思うけど?」
「……B定食、少し待ってもらってもいいか?」
「年内ならね」
「サンキュー! じゃあストレージ見せてもらうぜ! あ、あとバトルできる人いるならバトルしたい!」
拝み倒された結果店員たちが奮起するのだが、流石主人公。
世代がまるで違うデッキに対してギリギリの所まで噛みついてきた。
何人か負けそうになってたほどだが、どうにかショップの面目と彼女たちの給料は保たれたようである。
「くっそー、今日だけで一生分の負けを痛感した!」
まぁそりゃな。
ビートダウン、モンスターの攻撃で殴り倒すタイプにロック、行動を封じて何かしらの手段と混ぜて勝ち筋を作るタイプ。
効果ダメージで戦うバーンに、特殊勝利狙いにロックを混ぜたほにゃららロックと言われる形式の物。
更にはデッキ切れ狙いの除外デッキなんかも用いられていた。
歴史に歪みが出ないレベルでそれなりに強いカードをブッパされ続けても龍馬はバトルを挑み続け、その多くを楽しんでいた。
流石にロックバーンとかいう行動封じて効果ダメージでチクチクしてくるデッキには渋い顔をしていたけど……途中でロック外したのはさすがのドロー力だな。
まぁ手遅れだったんだけど、ギリギリ逆転しそうになってたから凄かったよ。
「そういや静香とはまだバトルしてないな……」
「悪いけど今はデッキの調整中だから無理だよ。レンタルで本領発揮できるとも思わないしやるなら最大火力でぶつかり合いたいじゃない」
「それもそうか……楽しみにしてるぜ!」
悪いね龍馬、機械仕掛けの神でぼっこぼこにしたし、今後別のデッキでバトルすることは多分ないよ。
一応それに備えたデッキは用意しておくけどさ……。
こう、絶妙に勝てるラインと負けるラインが見えるタイプのそこまで強くないデッキをね。
なお弱いとも言っていない。
強いて言うなら悪辣なデッキと言うべきか……?
どれもこれも【機械仕掛けの神】程じゃないけど禁止カード入りした連中が当たり前のように3枚積まれているから対処札が無ければどうにもならない。
特に【英雄】デッキは小細工抜きで敵盤面をがら空きにしてぶん殴るのが得意だ。
まさに主人公のビートダウンと言った所なんだが……汎用除去札に負ける、汎用じゃない除去札にも負ける、墓地送りならアドがとれるが除外されたら基本的に動けなくなる、手札消費が非常に激しいので手札破壊に弱い、そもそものキーカードの【ジョグレス】を封じるだけで動きが鈍る。
他にも多くの弱点があり、その分爆発力がとてつもないのだ。
なにせ【英雄 炎風の戦士】は守備のモンスターをぶちのめしてもそのモンスターが持っていた打点分のダメージを与えるし、攻撃表示の場合は貫通で打点ダメージ与えたうえで打点分のダメージを与えるを効果を持っている。
更に【英雄】専用のカードを使えば攻撃力と打点をあげることができるし、【英雄 炎風の戦士】から派生するモンスターなんかは自前で攻撃力と打点をあげたうえでぶん殴ってくるからライフマックスでもワンキルされるくらいの能力がある。
一方で相手盤面をがら空きにするにはかなりの手間がかかるので将来的に滅茶苦茶強化入るのだが、それでも他のデッキや汎用カードに比べればだいぶ手間がかかる。
具体的にはカードを5枚くらい使ってようやく全除去できるレベルなので、現状の龍馬じゃどうにもならない事の方が多い。
まぁ……これで食らいつけるのが主人公ならではなんだろうな。
「で、強化に使えそうなカードとかあった?」
「あー、ストレージにある罠カードとか魔法カードはなかなか使えそうなのがあったんだが……予算がな」
「あぁ、うん」
そりゃまあ汎用カードなら揃えておきたいのはわかる。
わかるけど、500円ストレージってなんだよっていうのも事実だ。
ショーケースになってくると何百万の世界だから仕方ないんだけど、この世界そもそも汎用カードの値段が馬鹿にならないからな。
やはりグッドスタッフはこの時代ならではのデッキの変化がみられるから楽しいんだけど……どうしても根底の火力が足りない。
「ショーケースは見た?」
「見た、値段見ただけで倒れそうになったぜ……」
「でしょうね。けど【英雄】に使えそうなカードもいくつかあったわよ」
「使えそうでも買えなきゃ意味ないってー」
それもその通りなんだよな。
結局世の中金よ!
「そういや裏で店長となんか話してたみたいだけど、なんの話だったんだ?」
「ん? カードの売却」
【セイントアリゲーター】になったヤミ札、1枚200万円で購入すると言われた。
実際のカード価値はその半分くらいだが、ヤミ札事件解決の報酬とのこと。
聞いたところによると専門の組織が存在して、そこから報酬が出て、使い勝手がいいとそれなりの値段で買い取ってくれるらしい。
あとテーマデッキの一部だったりしたら8桁はもらえるとか。
今の所アリゲーターデッキと言うのは存在しないから汎用カードとして店に利益が出つつ、私に還元できる金額としてはこのくらいと言う事で提示されたものである。
まぁお金はそのまま持って帰るわけにはいかないので金庫にぶち込んでおいたけど。
ついでに確認したら前世で集めたレアカードが並んでて興奮したし、ほっとした。
資産価値だけで言うなら前世で数千万、今世じゃ数百億とかになると思う。
売らないし、全部売ったら国に影響及ぼせるくらいの代物がこの店には大量に眠っているから。
だからこそカードの精霊たちが来客用デッキと防犯用デッキを使い分けて、招かれざる客を追い返しているともいえる。
たまに物理的に追い出したり投げ捨てたりするらしいけど。
「今度皆も連れてきてやりたいなぁ」
「いいんじゃない? 店長が認めたら問題ないと思うけど」
「あと店長ともバトルしたい!」
「それは……あー、控えめに言ってあの人プロ入りしてないだけで実力は世界トップクラスだから」
「ならなおさらやりたい! 世界トップクラスかぁ……どんなバトルするのかなぁ」
多分先行ワンキルしてくる。
アリアは話しててわかったが、合理的な側面と遊び心が同居しているタイプだ。
で、見せプとして先行ワンキルかましてから店の商品で対処法を教えて、その後別の手段でもう一回ワンキルする。
エンターテイナーと呼ぶには悪辣な側面が強いな……相手を強制的に道化にしているんだから。
「そんなにバトルしたいならこれ出たら? さっき店長から貰ったんだけど秋葉原でそこそこの賞金出る大会やるらしいけど」
「おぉ!」
龍馬が目を輝かせて、私の差し出したチラシを見る。
優勝賞金は100万円とレアカードなのだが、初代主人公のエースモンスターのレプリカとのこと。
私はイラスト違い含めて数百枚持っているから参加する意味は……ファンとしてはあるんだけど、目立ちたくないのでパス。
賞金も悪くないんだけど、アカデミアのレッドが参加して優勝するのも違うし、そもそもこれは原作イベントの一つだ。
私はその輪に入りたくないので逃げるのが一番である。
「よしっ、登録完了! 静香も出るだろ! 一緒に登録しておくぜ!」
「いや、出ないわよ? まだデッキ調整中だし間に合わないんだって。さっきの買取りだけじゃ調整にはもう少し時間かかりそうだし」
「なんだぁ、残念。けど俺が優勝してやるぜ! そしたらA定食からE定食まで順番に奢ってやるよ!」
「期待しないで待ってるわ。じゃあまた月曜日に」
「おう! いい店紹介してくれてありがとうな!」
なおこの時私は知らなかったが、あの店はアリアが認めた人か私が案内した人じゃないと辿り着けないシステムになっていたらしい。
ヤミ札関係で抜け道から来る人もいるけどその場合は強制退店。
そして龍馬は認められたらしく、このあとちょくちょく通うようになった。
あいつのホームにしている店をないがしろにしていないようなので私が気付くの遅れたんだけどね。




