運命の輪~当然正位置~
「ふぁあ……」
朝6時、アラームがなくとも目が覚める体質になって結構経つ。
実家から会社に通ってた頃は7時には家を出ないと9時の始業に間に合わなかったからなぁ……。
目をこすりながら身体を起こして、数秒。
異変に気が付いた。
「え、あれ?」
部屋が違う。
昨晩寝た部屋ではない、実家の私の部屋だ。
しかも今のシックな感じにしたものとは違う、昔のファンシーな要素が残っている部屋だ。
「……どういうこと?」
飲み過ぎたのかとも思ったが違うな……髪の毛からシャンプーの香りがする。
お風呂に入らなかった翌日特有のべたつきも無い。
それに普段は適当な恰好で寝るのにちゃんとパジャマを着ている……咄嗟に周囲の物を見ればそれは学生時代の品々。
おかしい、教科書とかとっくに捨てたはずなのに……なんだろう、一時的狂気に陥りそうな感覚を振りほどいてリビングに向かう。
「あら、おはよう静香。今日は早いのね」
「え、あ、おはよう。母さん」
「朝ごはんもう少し待ってね。あ、入学式の準備できているかもう一回見てきたら?」
「入学式……?」
「あらあら、やっぱり寝ぼけてるのね。今日は入学式でしょ。辰巳学園の」
「誰が?」
「静香が」
「……辰巳学園?」
「うん」
その名前には聞き覚えがある。
通称アカデミアと呼ばれるデュエリスト育成学校だ。
「ほら、デッキとディスクも忘れずにね」
「え、あ、えーと……ちょっとカバンの中見てくる」
「そうしなさい。着替えはご飯食べてからでいいわね?」
「えと、うん」
どういうことだ、本当に何が起こっている?
まずアカデミアへの入学がわけわからないんだけど……というか私のデッキってなによ。
いろんなの使ってきたけど……少なくともカードゲームアニメでこんな流れで始まるものは無かった。
主人公が裏人格に目覚めたり、アカデミア入学して連戦連勝したり、バイクに乗ってバトルしたり、拉致監禁された経験があったり、エンタメで大会に出たり、不良とのバトルで謎の生命体が現れたり……いや結構無茶苦茶してるな?
「……マジでディスクとデッキだ。しかもファングッズのディスクじゃない」
仕事柄いろいろな品物に触れてきた。
バトル用ディスク、モンスターをホログラムで呼び出して戦わせることができる。
更に言うなら主人公の素質次第ではモンスターを実体化させ、現実の建物などに被害を与える事だって可能だ。
それが手元に……頬を抓るが痛い。
夢じゃないようだ……。
よし、ひとまず枕に顔をうずめて。
「どういうことぉ!?」
思いっきり内心を吐き出した。
それで少し落ち着いたのもあるが、とりあえずディスクを腕につけてみる。
うーん、ずっしりとした重みがあるけど……やっぱり私の体格に比べると少し大きいな。
統一規格でオリジナルとかチューンナップしてないと大人も子供も同じ大きさの物をつける事になるんだが、私は中学に入るころに成長が止まってしまい身長は140㎝ちょうどだ。
社会人になってからも何度子供と間違われたことか……いや、それはいい。
次にデッキだが、カバンの中に雑に投げ込まれたデッキケースを手に取る。
うん、とりあえず仮説を立ててみよう。
これはいわゆる異世界転移の類?
パラレルワールド的な……母さんは確かに母さんだった。
最後にあった時は「こんなに小さかったっけ」と思わせる老いが見られない、私が子供の頃憧れを持ってみていた親の背中そのもの。
圧だって老いて丸くなったものじゃなく、現役バリバリの鋭さがあった。
となるとやはり……夢でないならそういう事なのか?
まぁ仮説としておくけどさ……だとしたら私がするべきは何だろう。
無難にアカデミアを卒業して、デュエリストとしてそれなりの実力を持ちながら普通に生活したい。
それだけだな。
もしここが本当にあのアニメの世界だとしたら……ファンガール……今はガールだから!
とにかくファンガールとしては主人公たちに関わりたいかと言われると微妙なところだ。
推しと面識を持ちたいタイプのオタクではないのだ。
となれば方針は決まった。
成績は上位ながらに目立たない、そんな立場を目指そう。
そう思ってデッキを広げて眩暈がした。
うん、まぁそうだね。
あのアニメの時代だとこんな感じのデッキになるよねと言うべきものだった。
まだゲームシステム的にテーマデッキと呼ばれるものが少なく、そしてその大半が実戦向きではなかった。
それこそ運命力とかそういうのが無いとまともに回せないデッキと言えばいいか。
主人公たちだからこそ使えるデッキというのがある。
対して私みたいな一般人が使うデッキはわかりやすく戦いやすいデッキだ。
グッドスタッフ、TCG用語ではそう呼ばれるタイプのデッキ。
カードごとのシナジー、つまり繋がりやコンボを狙わず単品で強いカードだけで作ったデッキだ。
例えば特定の種族をサーチ、デッキから手札に加える事だが、それを使い次の手を打つとか、魔法で敵のモンスターを破壊したりデュエリストにダメージを与えるカード。
あるいは罠として活用して、攻撃を無効化したりするカードがデッキとしてそこに鎮座していた。
はっきり言うと当時の環境ではそこそこ動けるという評価だったが、最新のシリーズになってくるとパワー不足で展開能力、つまりモンスターや罠魔法を並べる能力に乏しい。
過去の遺物として廃れたタイプの物だ。
まぁ強いて言うならグッドスタッフ寄りのテーマデッキかなこれは……モンスター系は統一されているしワンキルも狙えるけど、そのために後に禁止カード化されるパワーカードで補ってる。
くそ、私のカードコレクションとデッキコレクションがあれば……そう思った瞬間携帯電話が鳴った。
携帯電話と言ったけどホログラムを投影できるだけの技術力のある世界、その性能はスマホを優に超えて空中にタッチ可能な映像パネルを展開する。
アニメで細かく見ていたからなんとなく操作はわかった。
「もしもし?」
「静香さん、あなたの家で待ちます」
「え、誰? 私の家って?」
「あなたが購入して建てた家です。私達はあなたをこちらに呼んだ者、と言えば興味を持っていただけますか?」
「……そうね、興味がわいたわ。秋葉原近くのあそこであってるわよね」
「そうです」
「入学式の後で向かうから……あぁいや、ダメね。多分父さん母さんがパーティとか言い出すから後日になるけどいいかしら」
「そうですね、では週末にでも」
「最後に聞かせて、あなたを何と呼べばいい?」
「アリアンロッド、愛称としてアリアと呼んでいただければ」
アリアンロッドねぇ……運命の輪を回す天使だったっけ。
たしかタロットカードにも書かれてたかな。
そしてなにより、私個人が愛用しているデッキの中でエースと呼ぶにふさわしいカード!
リクルートにサーチに墓地肥やしにドローに効果無効化に特殊召喚。
これ一枚で何でもできる最強のカード。
出来ない事はと聞かれたら禁止解除だけと言われるほど凶悪なソレは私が手ずから作ったフィギュアでもある。
……まぁ胡散臭いけど、話だけ聞いてみるとしよう。
他に事情が分かる人もいなさそうだし。




