導入~プロローグとも言えない自語り~
独り身高収入OL彼氏いない歴=年齢、それが私だった。
有沢静香、アラサーに差し掛かった今日この頃。
昼はオフィス街で仕事をし、そして夜はビール片手に動画サイトを漁るのが楽しみというなんとも枯れた人生……けど満足していた。
会社は糞だ、業界的な意味合いでド級のブラックな仕事量だがその分給料は高い。
おかげでこの歳で会社から程々の距離にして、秋葉原に近い土地に家を構える事が出来たと言ってもいい。
最初のうちは絶対に稼いだらやめてやると決めていたのだが、求人サイトを開いて今の半分以下の収入になると知ってからはどんな仕事でもしたよ。
そりゃもう会社は稼ぐ場所と割り切って、課長補佐の立場を得てそこそこの猶予も作れるような立場でありながら実質平社員というとてもおいしい所に落ち着いた。
なお昇進は断り続けているが、家を買ったので出張はあっても出向はない。
会社も配慮してくれている、と言うかさせた。
なぜそこまで立場と金にこだわるか、それは私の趣味と言うのが非常にお金のかかるものだからだ。
通称TCG、要するにトレーディングカードゲームが好きになった。
社会人になって、まだ実家から2時間かけて通勤していた頃に動画サイトで見かけた古いカードゲームアニメ。
世界は1枚のカードから始まり、そして古代エジプトやアメリカ、そして日本の架空都市でホログラムを使いモンスターを召喚して戦う主人公たち。
本当に最初はなんとなくお勧めにあがってきたのを見ただけだった。
だが私は弾けた。
主人公たちカードゲームで世界を救ったりするプレイヤーの事をデュエリストと呼ぶ。
それでもデュエリストかという問いに対する「リアリストだ」という回答が非常に気に入り、その日のうちにサブスク登録。
時間さえあればイヤホンをして動画を見ていた。
シリーズ三作目と言う事もあり画質もよく、また画面比率も現代と同様の物になっていて非常に見やすかったのを覚えている。
その後初代を見て、劇場版を見て、二作目を見て、三作目の劇場版を見て、シリーズを追いかけるごとに私はカードゲームの深みにはまっていった。
まさに遅れた青春を取り返すように。
だが現実は無常、まず女デュエリストと言うのが少ない。
いたとしても表に出てくることが稀で、シリーズ内でもカードバトルをするヒロインが出てくるのはアニメオリジナル回か原作の無い二作目からだった。
なんならヒロインが全くバトルをしない作品もあるし、そもそもヒロインと呼んでいいキャラがいないなんてものまであるのだから仕方ない。
それでもそのシステムにハマった私はゲーム機を購入して、大画面でバトルをする日々にのめり込んでいった。
最終的にトップランカーになるほど戦い、電子上での世界大会でも準優勝するに至った。
数千数万のカードの効果も網羅しており、モンスターの名前やカード効果からカードのイラストをそのまま描くことだってできるようになった。
というかそのためにイラストの勉強までしたし、フィギュアが発売されたら買いに行った。
だがそういう公式グッズと言うのはいつも人気キャラや人気モンスターの専売、私が真に好きだったモンスターはアニメ内でも登場しておらず、なんなら現代環境では禁止カードと言う公式では使ってはいけないとされる代物になっていたためグッズ化など夢のまた夢。
なんなら凶悪すぎる能力のせいでエラッタ、つまりテキストの書き換えが行われたとしても復帰は難しいだろうと言われているくらいに。
だから私は弾けた。
フィギュア造形の勉強もして自力で作り上げた時の達成感たるや……今は仏間にご神体として置かれている。
……流石に細かいディティールにこだわるならデカくないと無理だったんだ。
大味でよければ小さく作る事も出来たけど、そもそも完成までに何度も失敗したし。
毎月購入していた大量のカードパックやオリパと呼ばれる店が用意したガチャのようなもの、更に単品で購入できるのでそれらを駆使してファンデッキからガチガチのバトル用デッキまで組み上げていた予算をそちらに咲くか迷ったほどだ。
結論から言えば食費を削ったけど。
そして今、私は特別にこしらえた地下室でアニメシリーズ最後の一話を見終えようとしていた。
今まで購入して、デッキにしたそれらが所狭しと、しかしどこか誇らしげに佇むシアタールーム兼デッキ専用倉庫。
バラのカードは別の部屋に複数の箪笥の中にぎちぎちに詰まっている。
高額レア専用の金庫もあり、私の日常は全てカードゲームのために費やされていた。
エンディングが流れる。
あぁ、これでこのシリーズもおしまいなのだ。
物語がではない、シリーズ完結と銘打たれたそれが終わってしまった以上今後の展開は望めない。
ビールを飲み干し、部屋の電気をつけ、シアタールームを後にして仏間に行く。
「これからどうしようか……」
カードは今後も増えていく。
足を止める事の出来ないマラソン、売れなくなるまで続くカードゲーム商売とはそういうものだ。
逆に言うなら一定以上の売り上げを出せるのであれば永遠と走るし、それを応用に私達デュエリストも走る。
「せっかくだからリアルの大会に……時間がないか」
ご神体になっている自作の推しフィギュアに語り掛ける。
いかんな、少し酔ってるかもしれない。
いつもより気合を入れて臨んだのもあるけど、シリーズが終わってしまった寂しさと言う隙間に酔いが入ってきたのか。
「……お風呂、明日の朝でいいか」
湯沸かし予約をしてからベッドに倒れ込む。
そう言えば来月は新弾の発売だったっけ……あまり興味のないテーマだったけど、このゲームのだいご味は思わぬコンボ、界隈の言葉を使うならシナジーだ。
カードの効果同士が思わぬところでつながった時の高揚感、それの第一発見者になれるかもしれないというワクワク、そんなものを抱えて眠りにつく。
あぁ、そう言えば私の一番好きな主人公、二作品目の彼は途中でそれを失ったんだった……私も、今はそういう時期なのかもな。




