裏ボス~第一章のボスなんてかませ~
そこからの三日間は特に何も起こらなかった。
強いて言うなら登下校の最中に雑に出てきた野生のヤミ札使いを処した程度で、授業中とかアカデミアでなんか事件があったりは無かった。
まぁ事件そのものはあったんだけど、原作で主人公が解決する類の物だったので面白おかしく静観させてもらった。
くそっ、機関での仕事が無ければもうちょい見ていられたんだが……幸いと言うか神鏡が見た物を映し出す能力も持っているという事だったので私がいない間の光景と授業は見せてもらう事になった。
なんだかんだでこいつ便利だな。
ちなみにアリアが店長の座に就くまでと、その後今に至るまでも見せてもらったが……見なかったことにした。
特に意味のない巨大石臼みたいなの回させられる精霊とか、回し車の中でひたすら走らされる精霊とか見ていないから。
しかもそれがエネルギーになるとか発電とかじゃなくて、しつけのためと言うだけでやらされているとか私知らない。
ともあれ、そんなこんなで約束の日を迎えた私は通学路にある路地裏で神鏡と入れ替わった。
「いい? 余計なことはしない、何かあっても基本的に静観、私の知識持っているからわかるでしょうけど本編には介入しない。これはしっかり守ってね」
「うすっ」
「あと授業はちゃんと聞いてノートもとる事」
「まぁそのくらいなら?」
「それとこれだけは絶対にと念押ししておくんだけど……部活の勧誘は絶対に近づかないで。特にバトル関連の部活、見学に行ったら入部届にサインさせられるのは日常で、勝っても負けても付きまとってくるから」
同級生にね、その被害にあった子がいるの。
後々主人公が粛正するんだけど、粛清後なら私が牛耳ってもいいんだけどさ……こんな所で主人公たちと近づく理由を作りたくない。
なんだよ朝練ドロー100回って……そんなんでドロー運がつくわけないだろ。
と言いたいけど、この世界だとそうでもないから困る。
でも私の場合精霊の力借りてデッキトップ操作くらいできるからそんな練習は意味ないんだ。
もとよりその手の恩恵は精霊側の働きかけ以外じゃ何もない一般人、チマチマサーチして手札に持ってきたり、墓地に落として特殊サモンしたりが基本なのだ。
運命力はカスだがデッキのパワーで全部押し通しているからね。
「あー、そういやいましたねそんなん。勝っても負けてもダメってなりゃ関わらないのが一番か……その辺はうまくやっておきますんで」
「頼んだわよ? もしミスしたら……」
「完ぺきにこなしてみせます!」
「よろしい」
まぁいざとなったら私が対処すればいいし、究極的にはバトルで決着をつけてもいい。
あるいは主人公に助けられるまで適当にサボってもいいんだけどね。
「さてさて、確かこれがボイチェン機能付きの仮面か……」
【機械仕掛けの神】を使う時のバニッシュメントにも搭載された新機能、【深海のマーメイド】を使うディープブルーは可愛い系の声に変換されるようになっている。
今も特徴的な声をしているわけではないのだが、声優さんみたいな声色を出す事が可能だ。
ちなみに段階的に切り替えもできるし、衣装のカラーも変えられるので格闘ゲームの2Pカラーとかを1着でこなせる。
で、これは後々神鏡にもやらせる予定だけどひたすらバトルして鍛えて、ディープブルーなんかの別枠をこなしてもらう必要がある。
背丈を変えたうえでね。
他にもアリアも同じような恰好で秋葉原の治安維持をしているという事なので、同時多発的に謎の組織が動いているように見せる事ができるのだ。
……何だよ謎の組織って、原作に無い組織を追加するんじゃねえよ。
「じゃあ私はこのままステルスモードで機関に行くから、なんかあったら連絡して」
「うっす、アリア通して連絡入れます」
なお追加された機能でステルスモード、透明になるわけじゃなくて認識がずれて気が付いたらそこにいた状態にできるようにしてもらった。
言うなれば最初のターンからこっそり伏せられていて見落としていた特大の罠カードみたいなものだ。
こういうのが逆転の一手になったり、ブラフかましたりできるようになる。
そういう意味合いを込めたもので、通信機能はさすがに付けられなかったけどスマホと連動したインカムシステムは物理的に組み込んだ。
精霊パワーで何とかしようとすると手間がかかるが、科学技術で補えばどうとでもなる分野もあるのだと思い知ったね。
ともあれそのまま機関に直行。
秘匿とか言っているくせにホームページ有って、住所も電話番号も公開されてるのなんなんだよ……アリア経由でデカいビルの地下が本命って教えてもらったけどさ。
あの、特殊なシステムと言うかエレベーターの階層を決まった順番でポチポチすると隠しコマンド認証で地下に連れて行ってくれるらしい。
そこはカードキーとかも使えと思ったけど紛失したら面倒だから導入していないらしい。
カードゲームの世界なんだからカードで認証しろよ!
「お待ちしておりました、ディープブルー様ですね」
「様はいらない。俺程度、組織でもそこまでの地位じゃないからな」
出迎えに対して遠慮を見せておく。
ちなみに組織云々は適当に言いました。
実力だけで言えば【機械仕掛けの神】使ってる時のバニッシュメントの方が上だけど、実力順で並べたら次点が【深海のマーメイド】なんだよなぁ……。
あ、声はショタボイスにしている。
声変わりしていないくらいの少年と言った感じで、身長もそのままで誤魔化していない。
「失礼しました。まもなく予告されていた時間です。お越しいただけたこと、心より感謝申し上げます」
「まだ結果を出していない。感謝は後で、アリアにでもなんかくれてやればいい」
「そうですか。では先にこちらへ」
案内に従い進むと棚などでバリケードが作られた広間に出た。
アニメで見たけど、こうして全力で守り固めていると面影くらいしかわからんな。
とはいえ、実際にその舞台に立てるのは感激……とはいかないのが私の精神性だ。
夢小説のキャラになりたいんじゃない、壁になってそいつらを見ていたいだけなんだ!
だから私自身がここにいるのも、アカデミアにいるのも介錯違いと言うか……とにかくこういうのはもっと主人公らしい奴らにやってほしい!
「防御に徹するよう職員に伝えています。向こうが予告通りにこの場所に来てくれるならそれでいいのですが……」
「万が一奥の部屋や上層階にでも出てきたらと言う心配ならいらない。あの手合いはこういう約束だけは律儀に守る……ほら、来たぞ」
空中にカードの気配を感じ取ったのでそこを指させば先日の真っ黒い影みたいな事象王様と、その配下らしきフードを目深にかぶった連中がいた。
四人か……四天王かな?
「貴様が我が試みに挑む道化か。しかし数が足らんな、王の凱旋であるぞ」
「裸の王が騒いだところで変質者でしかない。御託はいい、かかってこい」
「余興と言うのを知らんようだな。謁見のための順と言うものがある」
その言葉と同時に四人が降りてきた。
「どれ、楽しませてみせよ。最初は誰が行く」
「面倒だ、全員で纏めてかかってこい」
「……うぬぼれも大概にせよ。貴様如き有象無象が吠えるのは見ていて愉快だが、度を過ぎれば不愉快だ」
まぁ、うん、言わんとすることはわかる。
格下だと思っている相手が大言壮語ぶちまけてきたらね、私も苦笑いしながらボコボコにするよ。
たまにあるんだ、カードショップで初心者の子供がバトル挑んできて、絶対に勝つと言い放って相手のお母さんがペコペコ頭下げてくることが。
女同士だと相手の手や首から年齢察する事が多いから……それでも10歳くらい若く見られるのはなんなんだよ。
誰が合法ロリだよ!
ぶっ飛ばすぞ!
「雑魚はどれだけ群れても雑魚に変わらないだろう。溺死か圧死か、好きな方を選ばせてやる」
「王が望むは惨殺のみ、そのシレ物を蹂躙せよ」
「「「「「バトル!」」」」」
「専攻は俺が貰う。【深海のマーメイド・リトルプリンセス】の効果を手札から発動。互いにデッキからカードを5枚墓地に送る」
【深海のマーメイド】デッキ、それは墓地とデッキを海に見立てたテーマデッキである。
主な効果としてはカードを墓地に送る事、これは相手にとってもアドバンテージになりやすいのだが……。
「墓地に送られた【深海のマーメイド・トライデントナイト】と【深海のマーメイド・マジシャン】の効果によりさらに互いのデッキから10枚のカードを墓地に送る」
「む……」
お、反応したな?
このデッキの特性の一つはデッキ切れを狙いやすいというのがある。
もちろんそれを止めるための手札誘発とかもあるんだけど、それを握っていないとあっという間にデッキ切れを起こして負ける。
なおこれでも勝ち筋の一つでしかない。
「さらに墓地の【深海のマーメイド・ホワイトシェル】と【深海のマーメイド・レッドクラブ】の効果。このカードがデッキから墓地に送られた場合フィールドに特殊サモンする。そしてシェルは特殊サモンに成功した時、俺のデッキから【深海】と名の付く魔法カードを、クラブは罠カードを墓地に送る事ができる」
このできるという文面は大切。
カードゲームに置いて「する」と「できる」は天と地ほどの差があるから。
できるならやらなくてもいいよって事になるからね。
「墓地に送った【深海の交わり】発動、墓地のカードでジョグレス召喚! 特殊サモン、【深海のマーメイドクイーン・クティーラ】!」
はい、もう勝ちです。
クティーラが場に出たら勝ったも同然と言うか、ここまでぶん回したら前世でも【機械仕掛けの神】ですら手札次第では降参するレベルだ。
一見簡単そうに見えるけど、数回の妨害を潜り抜けねばたどり着けないのでそれが難しいんだけどね……。
「クティーラの効果発動! このカードが墓地のカード効果で特殊サモンに成功した時、互いのフィールド、墓地に存在する水属性の数を打点として相手にダメージを与える。俺の場と墓地に存在する水属性カードは17枚。更にクラブで送った【深海の異変】の効果で相手はこの効果の発動を無効にできず、モンスター魔法罠の効果を使用する事ができない」
はい、全体バーンダメージ。
先行ワンキルの一種です。
攻撃できない先行なのでこうやってバーンダメージ飛ばしてワンキルするのが普通。
デッキ削って相手のデッキを0にしてもいいし、バーンダメージで倒してもいい。
何ならクティーラ以外のカードも総じて攻撃力と打点が高いので殴り倒すのも有りだ。
墓地に送られるだけで効果を発揮するカードが多いので出張カードとしても使われるし、メインに据えたうえで混ぜ物を入れる事もある。
今回は純構築だけど。
「散れ、雑魚共」
四天王を纏めてバーンダメージで吹き飛ばして終了だ。
後ろで職員さんが驚いている……いや、なぜわかる私!?
なんでか知らんけどわかるんだよ、気配が!
カードだけに収まらず人の気配までわかり始めたぞおい。
カードアニメじゃよくある事だけど人間やめてるなぁ……。
自分が人間やめるとは思わなかったけどさ。
と言うかこのまま行ったらそのうち精霊にされそうで怖いな、自重しておこう。
「前座がこの程度なら、親玉もたかが知れているな」
「ふん、威勢だけではないようだな小僧」
あ、よかった。
ちゃんと男として認識されてる。
そうなるように認識阻害機能も付けてもらったからね。
仮面の小僧って事しか記憶に残らないようになってるから。
ディープブルーの名前は前もって知らせてたから覚えているだろうけど、細かいことは思い出せないはず。
今のワンキルは装備性能関係ないから伝わるだろうし、監視カメラとかの映像まではごまかせないけどさ。
「いいだろう、このダイナゲイトキング様が直々に貴様を惨殺してやろう」
「はっ、大層な名前はここで捨てる事になるな。トカゲ野郎」
「「バトル!」」
「貴様の手の内は知れた! 我がターン! ドロー! 手札から魔法カード、【恐竜次元】を発動! この効果により場の全てのモンスターは恐竜族として扱い、墓地に送られるカードは全て除外される!」
む、メタカードぶっこんできたか。
だがその程度、【深海のマーメイド】ならよく見る光景だ。
対策も当然してある。
「さらに手札の【ブルーアリゲーター】と【ニトロレックス】を除外して【ダイナゲイトキング】をサモン! 和が真の姿を見よ!」
……いや、真の姿って言われてもワニっぽい何かが二足歩行しているようにしか見えないな。
なんか後ろの職員さん怯えてるけどその程度だ。
あ、もしかしてダイナソーとアリゲーター混ぜてダイナゲイト?
ネーミングセンスよ……。
「さらにカードを二枚伏せてターンを終える!」
「俺のターン。手札から【深海への手招き】を発動。フィールドの全てのカードを破壊する」
「なにっ⁉」
「この効果を使った後、このカードは除外される。そしてコストとしてデッキの半分を墓地に送り、ライフを5点失う」
デメリットがデメリットになってないカードです。
本当にありがとうございました。
あとは墓地のカードでジョグレスして、クティーラを召喚すれば……。
「破壊された罠の効果発動! このカードが相手によって破壊された時、デッキから爬虫類族、あるいは恐竜族のモンスターを特殊サモンする!」
「手札から【春精桜咲】を発動、デッキからカードを咥える効果を無効にする」
「……え?」
「もう一枚のカードは?」
「あ、えと……攻撃反射……」
「なら特に効果は無いな。裁定上お前のカードを全部破壊したタイミングでキングも同時にいなくなったから除外されたわけで墓地効果も無いんだろう」
「……除外された時、キングはデッキからクイーンを呼ぶ!」
「二枚目の【春精桜咲】」
「……………………」
「クティーラを特殊サモン。手札から【深海のマーメイドナイト・ダゴン】をサモン、効果でデッキから【深海のマーメイドレディナイト・ハイドラ】を特殊サモン。ダゴンとハイドラが揃った事で墓地の【深海のマーメイドキング・クトゥルフ】を特殊サモン。総攻撃。対処は?」
「………………ない」
「なら俺の勝利だ。ほれ、ヤミ札置いて帰れ」
「……敗者はただ去るのみ」
「ダゴン、捕まえてヤミ札持ってきてくれ。ハイドラ、こいつら元の次元に投げ込んでおいてくれ。場所がわからなければ最悪次元の狭間でいいから」
「全て渡す! すぐに帰る! だから次元の狭間は許してくれ!」
「くれ?」
「許してください!」
「チッ……しょうがねえな。さっさと帰れ」
「はい……」
チッ、久しぶりに【深海のマーメイド】デッキの全力だして、デッキ切れギリギリになるかもしれないひやひやを味わえるかと思ったのに……。
デッキパワーが違いすぎて半分程度しかデッキ使わなかったじゃねえか。
せっかく知らないカードとかヤミ札使ってるんだからもっと理不尽なカード出してもいいんだぞ?
「仕事は終わった。カードの浄化も済ませた。カード代と礼金はアリアにな」
「あ、はい……えと、お強いのですね」
「あいつらが弱かっただけだ。何かあったらアリア経由で連絡してくれれば顔を出す。あるいはうちのトップが出てくるかもしれないし、他の誰かが派遣されるかもしれないがな」
「……お聞きしていいのかわかりませんが、あなた方は一体」
「さてな、組織なんて言っているがそんな大層な物じゃないとだけ言っておく」
うん、本当にそんな大層なもんじゃないんです。
アリアと私と精霊たちが適当に強いデッキぶん回しても良心が痛まない相手ぶちのめしてストレス発散しているだけなんで。
やってること小学生グループに突撃してバトル仕掛けてるおっさんと同じだから……誰がおっさんだこの野郎!
「報酬さえしっかりしていれば我々は手を取り合える。それだけは伝えておく」
なお報酬が支払われなかったり、無かったことにされたら牙を剥く。
「ではな」
カッコつけて去るけど、エレベーターに乗るだけなんだよね……あぁ、案の定誰かつけてきてるけどこの程度の尾行ならどうにでも巻けるわ。
ビルの隙間で壁キックジャンプで屋上に登って、ぴょんぴょんと屋上を飛び乗っていけば数分で終わった。
……自重しようとか言った矢先にこれって、我ながらできそうだからやったが多すぎるな。
反省しよう。




