神鏡~入れ替わりは裏主人公の特権~
「と、いうわけでディープブルーの衣装です!」
機関の人が急いで帰って対策すると車に乗り込んだのを見送って、どこからともなくアリアが青いミサンガを取り出した。
「用意してたの?」
「話している間に作りました」
器用なことを……。
これ一応精霊の力借りているんだよね。
確かに【深海のマーメイド】デッキはあの衣装と共にミサンガに収納しているけどさ。
「けどどうしよう、三日後都合よくサボる言い訳が見つからないわ……」
「そんなあなたのために、じゃじゃーん」
「ん? 鏡? そのシルエット……もしかして【機械仕掛けの神鏡】?」
「はい、大正解です!」
魔法カードで相手モンスターを対象に取らないまま装備カードとして扱い、その効果と攻撃力と打点を追加するぶっ壊れカード。
言うまでもなく禁止されたカードだが、もうここまでくるとカード作ってた人達が正気じゃなかったと思う。
ぶっ壊した環境を更地にしてからまとめて禁止措置ってのは……言いかえるなら街の復興のために爆撃して更地にした方が早いよねと言い出すレベルの暴挙だ。
そりゃ株価落ちるって。
「これにマスターを映して……サモン!」
アリアが叫ぶと同時に鏡が私の姿になった。
おぉ……ステータスパクるのをこういう形で再現したか。
「精神性などをそのままコピーしたマスターです。ドッペルゲンガーとかそういうの。ただちゃんと【神鏡】の意思もあるのでマスターにとって不都合なことはしませんし、口にもしません」
「なるほど、よろしく神鏡」
「どうぞよろしくお願いします糞マスター」
「あ?」
「お?」
なんかいきなり罵倒されたんだが?
どうなってるんだアリア!
「マスターの現身ですからね。性格とかも諸々コピーしているので口の悪さもご愛敬でしょう」
苦笑いしているけどさぁ!
「私こんなに口悪くないぞ!」
「コピーしてびっくりするほど性根が腐ってる女だなと思いましたよマスター」
「こんなに煽らないからな!」
たぶん!
「まったく……とにかくその毒舌控えて煽りも無し。それで三日後は学校に行きなさい。私は普通に家出て途中で入れ替わればいいでしょ」
「は? 俺がバトル行きますが頭大丈夫ですか馬鹿マスター」
「あ? 私が売られた喧嘩なんだから私が買うに決まってるでしょ」
「おん? あなたのような単細胞の低知能がボロ出さずに隠し通せるとか思ってるんですか? やはり愚かですねぇ」
「よし、アリア。ちょっとこいつ鏡に戻して。何ならカードに戻して。叩き割るか破り捨てる。あぁ、その前にこいつがヤミ札の可能性あるから一度浄化を試してみましょう。それで変化が無ければ焼却するわ」
「はははっ、これだから馬鹿は困る。あんたの代わりができる俺がいなくなってどうやって替え玉するんだって話ですが?」
「途中で貧血起こして病院に運ばれたことにすればいい。アリアなら口添えもしてくれるだろうし」
「毎回その手法が通じるとでも? 下手したら奇病扱いで入院缶詰コースってのもわからないかなぁ。愚かなマスターを持つと精霊も苦労するよ」
「性格のひねくれた精霊を持つとマスターって呼ばれるのも反吐が出るわね」
「おっとブーメラン、鏡に向かって罵倒するの楽しいでちゅかー?」
「それお前に一言一句違わず言ってやるよ。お前がさっきから罵倒してるの、お前の性根をコピーした相手だから。オリジナル私だから。その罵倒全部お前に刺さってるからな。コントロールの権利がお前にあるのは知っているんだからな?」
「………………」
「………………」
「「バトル!」」
この後メイクアップして滅茶苦茶バトルした。
【機械仕掛けの神】のミラーマッチだったけど、経験が違うんだよ。
どこで誘発打つとか妨害吐くとか、お前は知識では知っているかもしれないけど経験していないんだ。
そんな教科書通り……ではないけど、私ならこうするだろうという所まで考えが及んでいない。
なぜそうするのかを理解しないまま私の真似をすれば事故を起こすのは当然だ。
だってブラフとか込み込みでやってるからな?
むしろ相手の暴発を狙って、吐かないでいいタイミングで誘発打ってくれたラッキーで通すのも当然だからな。
伊達に大会優勝とかしてねえんだよボケが。
「というわけで上下関係がはっきりしたし、あんたは学校行きなさい。【セイントナイツ】デッキ持って行っていいから。私は【深海のマーメイド】デッキ持って機関に行くから」
「くそっ……一生身長伸びない奴に負けた……胸も一生平らなままなのに」
「今チビで貧乳は関係ないよなぁ? 負け惜しみが気持ちいいなぁ! なぁアリア?」
「あははははは……血涙流しながら強がって煽っても……その、痛々しくて」
「だってよ馬鹿マスター。精神性が幼いなぁ」
「あ、負け犬は黙っていてください。マスターに噛みつく権利はありませんよ。どうせこうなって力関係はっきりさせるだろうと思ってたから見過ごしていただけでこれ以上は私が話し相手になりましょう」
「………………」
「………………」
「なぁマスター、一時休戦としないか?」
「奇遇ね……というかアリアってそんなにヤバいの……?」
「超やばい……今店員している精霊たちは全員アリアが一度〆た。その上で奴隷契約みたいな書類に判を押して笑顔で接客させられてる。そのうち反乱されるタイプの恐怖政治独裁者」
「それは……一時的には色々解決しそうだけど長期的に見たら良くないわね。流石に私から注意しておくわ」
「まじかよ、冷血女と思っていたけどいい所あるな」
「このままアリアに突き出してやろうか? 必死になって集めたカードに宿ってくれた精霊が酷い目に合うのは見ていられないってだけよ。あんた以外は」
「内緒話はいいですけど、全部聞こえているので内緒話になっていませんよ? もとより恐怖政治はBadpoliceっていうやつです。私より良い待遇でマスターが迎え入れるならみんなそっちに行きますよね。それが多少ブラックでも。そのための下地として奴隷契約みたいな書類を差し出しているだけで、いずれはマスターにトップを譲るつもりですよ。それこそギリギリまで絞ってから」
あ、アリアがやばい目をしている。
経営者とかデュエリストとか精霊とか関係ない。
純水に利益だけを求める悪い大人の目だ。
なんどか社長がそういう目してたの覚えている……まぁ経費で女の子のお店に遊びに行こうとして誤魔化してた時の目ともいうけど。
とにかく利益を最大限に、リターンも貰いながら全てを手に入れるための計画をしている時の目だ。
「アリア、トップ交代は早めにね」
「はい、マスターが中学を卒業したらちょうどいいかと」
すまん、精霊のみんな。
3年間だけ我慢してくれ……その後は私が正しい業務に切り替えるから。
「あ、この鏡だけはアリアのサポートに置くわ。助手としてこき使ってあげて」
「おいマスター!」
「あんたの罵倒はね、私のコンプレックス全部知っているから出てくるものなのよ。つまり滅茶苦茶心にダメージ受けたの。そんな相手に手を差し伸べてやるほどやさしい女じゃないのよ」
「まって、謝る! 土下座でも何でもする! だから許して!」
「その姿と声でそういうことを言わない。ご近所さんが誤解するでしょう。それに頭を下げられた所で踏みやすいだけじゃない。謝罪したいなら行動で示しなさい」
「うぐっ……」
「まぁそうね、とりあえず三日後の働き次第では私の秘書と言う立場においてあげてもいいけど……少しでも粗があったら、わかっているわよね」
「全力で普段のマスターとして行動させていただきます!」
「よろしい。さて、じゃあいったん鏡に戻ってもらおうかしら。いや、カードの方がいいのかな……アリア、使い方はさっきみたいに実体化させてから自分を映してサモンって言えばいいのかしら」
上下関係がはっきりしたところで本題だ。
こいつの使い方を覚えて手元に置いておくのが一番だ。
「まぁそうですけど……いいのですか? 一応ソレの性別雄なんですけど。必要な時に私が持って行くのも有りですよ」
「無しね、手間がかかりすぎるし店外でアリアと会っているのを見られるのはあまり良くないのよ。お店が遠いのに何でって言われたら説明に困るわ」
「なるほど、人間はテレポートできないですもんね」
こいつら精霊だから、精霊の世界通ってこっちの好きな所にワープしてこられるんだよな……地味に羨ましいので今度やり方教えてもらおう。
少なくとも秋葉原への時短とお金の節約になる。
「で、性別が雄だからなに? 犬猫に着替え見られて恥じる事ある?」
「……俺、犬猫レベルですか?」
「犬猫の方が可愛いからドブネズミレベル」
「ひでぇ……わかっちゃいたけどこの女、人の心がねえ……」
「ジャジャジャジャーン、ここで明かされる新事実。お前に明日は来ない」
「すんませんした!」
よし、神鏡の調教も済んだしこのくらいでいいだろう。
「ま、とりあえず三日後に備えてデッキ回しの勘を取り戻しておくわ。その間これは便利に使わせてもらうから」
「と、いいますと?」
「アカデミアの生活見せつつ、ヤミ札関係の何かが起こったらディープブルーの姿になる。その時の替え玉にする」
「なるほど」
ようするに授業中にトイレに言って入れ替わったりするわけだ。
手間はかかるけど、サボるよりはマシと言う事で。
最悪寝ててもらってもいいし……いや成績に響くからできるだけ起きててほしいけどね?
中学の授業内容とか学習範囲なんて覚えていないから、学び直しになるわけだし……。
そういう意味じゃできれば入れ替わりはしたくないけど、三日後の事は仕方ないとしておこう。
まぁそれまでにこいつを破り捨てないで済む方法を考えるべきなんだけどね!




