警察~カードゲームに限らずアニメやゲームの警察なんてこんなもんよ~
しばらくは私にとって平穏な時間が流れた。
龍馬が大会に参加したり、奥ヶ崎君が武者修行とか言ってアカデミアを休学したくらいか?
一応在校生ではあるんだけど、場合によってはすぐに退学にされるような立場。
アカデミアが、ではなく家族が退学させるというのが闇が深いというかなんというか……。
そして私はヤミ札関係の事件を本編に支障がない程度に解決していた。
なんていうか……想像していた以上にヤミ札って流通しているなぁと痛感する。
秋葉原以外に地元やちょっとした出先でも事件が起こっている事はよくある。
酷い時はグッドスタッフデッキでヤミ札の相手をしなきゃいけない事もあったわけで……その事をアリアに伝えると渋々ナイフを指輪として別途携帯できるようになった。
龍馬に見つかった時の事もあるからね。
そんな日々の中で不意にチャイムが鳴る。
「カード警察です。ヤミ札事件の関係者である娘さんにお話を聞きたいのですが」
そんな言葉を伝えてから。
「令状もあります」
拒否権は無いと告げてきた。
カード警察ねぇ……たしか腐敗した組織だったのを奥ヶ崎君がぼっこぼこに叩き潰して、新生カード警察として立ち直らせるストーリーがあったな。
「で、お話とは」
「単刀直入にお聞きしますが、先日のヤミ札とのバトルについて。そしてあなたがヤミ札かそれに相当するデッキを所持しているという可能性を考慮しています」
刑事のテンプレみたいな恰好の人と、ザマス口調が似合いそうなどぎついお姉さんが並んでいるのは少しシュールだな。
まぁ見たところ刑事さんの方が優しいデカポジションなんだろう。
「早速で申し訳ないんですが、お部屋を見せていただくことは可能ですかね」
「構いませんよ」
機械仕掛けの神をはじめとした未来の強力なデッキはあのパンクファッションと一緒に保管している。
と言うかそういう機能をつけてもらった。
流石にあんな札束デッキを持ち歩くのは怖いからね。
だから手元にあるのはグッドスタッフデッキと、ヤミ札解決の際に浄化したカードが数枚だけである。
5枚くらいあるから一千万くらいの価値はあるけど……今まで解決した事件の本の一端だから、大した金額じゃないんだよなぁ。
金銭感覚バグ起こさないように手元に置いていないし、そこそこお金かけないと取りに行けない秋葉原のショップで金庫に投げ込んでいるけど。
その気になればどこぞのディスク開発者よろしく札束やカードの詰まったアタッシュケースのダイレクトアタックができるくらいにはお金持っている。
カード製造会社とディスク開発会社の株でも買うかと思ったけど、その二つは半ば国営化、というか国がすり寄って株式を一部どうにか融通してもらっているらしく一般人が入るには少し規模が大きすぎるし、資金が足りないという事で貯蓄フェイズになっているんだ。
そのうち買えたら買うよくらいな姿勢で、将来的には株だけでのびりとした生活も悪くないかなと考えているけど……アリアの言葉通りなら将来も楽はできないんだろうなぁ。
いや、ヤミ札関係だけでお金は稼げるけどさ。
その手の機関に入る予定もないんだよね。
こちらの行動が監視されるし、持っているカード的に色々怪しい立場だし、給料が出る形になるせいでヤミ札の売買よりも大幅に取り分が落ちるから。
「この歳になると女子中学生の部屋と言うのは緊張しますな」
「そうですか。近くに行きつけのショップ店員が来ているので同伴したいそうですがいいですか?」
「どのくらいかかりますか」
「あと数分でしょうか……あ、いや、来ましたね」
来客を告げるチャイム。
アリアの一番のチート能力である。
あの子をはじめとして、カードの精霊は遠方にいてもデッキやカードを持っていればそれを通じて長距離でも一瞬で持ち主の所に現れる事ができる。
カード警察が来た際にアリアを呼び出して、近場で待機してもらっていた。
ヤミ札関係で警察来たらすぐに呼んでくれといわれてたから。
そんなに信用できない組織なのかな……。
「お初お目にかかります。静香さんの友人で、秋葉原の一角に店舗を構えている仕掛アリアと申します」
【機械仕掛けの神アリアンロッド】、を略して仕掛アリアか。
いや、未来のカードだからバレないだろうけど安直だなぁ。
「秋葉原のショップでしたか。それはまた大御所ですな」
前世で言う丸の内オフィスのオーナーですって言うくらいの立場らしい。
想像以上にデカい相手が出てきて女性の顔が引きつっている。
「静香さんにはいろいろお世話になっていますので、今回ショップ店員として同伴させていただきます」
「こう言ってはなんですが……随分と都合のいいタイミングですねぇ」
「逆ですよ。私は今日来訪する予定がありました。そこにそちらが来たというのが真相です」
招かれざる客はお前らだぞ、と暗に伝えているのがわかる。
言葉を盾に牽制し合っているのがよくわかるなぁ……。
むしろアリアは牽制どころか普通に刺しに行っているけど。
「大御所のスタッフさんがどうしてこちらへ?」
「まず誤解を解いておきますとスタッフではなく店長です。先に申し上げた通り静香さんにはお世話になっていまして」
「それはヤミ札関係ですか?」
お、切り込んだ。
「そうですね。ヤミ札対策機関と提携している立場なので彼女のタクティクスを見込んで力を貸してもらっています。エージェントというやつでしょうか」
映画とかで誤解されがちだが、エージェントと言うのは組織所属の強者と言う意味じゃない。
組織外から協力してくれている臨時職員のような立場の人である。
「なるほど、だからヤミ札相手にも太刀打ちできると」
「彼女のポテンシャルを見れば余程下手な構築をしない限りは対処できるでしょう」
「ではヤミ札を取得した場合はそちらに?」
「そうです。うちから機関に提出させてもらっています」
間違ってはいない。
うん、浄化後とかそういうのは言わなくてもいい事だからな。
というか今更だけどアリアたちの戸籍ってどうなっているんだろう……。
「道中襲われたり、ヤミ札に彼女が飲まれる可能性は?」
「まずありえないですね。こう見えて静香さんは並のデュエリストよりも高い身体能力と精神性をしています。バトルも上澄みと言っていいレベルで強いので余程の事がなければ問題ないでしょう」
そうなんだよ、この世界バトルすると身体能力が上がっていくんだ。
筋肉もついていくぞ。
今の私はヤミ札関係のバトルが多かったのもあってパワーレベリングされている状態だ。
こっちに来てすぐはバトルのできない一般人と変わらない身体能力だったけど、今は二階の窓から部屋に突入くらいできる。
アリア曰く、ゲームで言うならまだレベル1桁と言われた時は愕然としたが……確かに坑道でダイナマイト使われてがけ下に落下してもほぼ無傷な主人公と書いたからな。
それに比べたらまぁ……。
バトルで数m吹っ飛ぶとか、きりもみ回転しながら頭から落下するヒロインとかもいたし……バイクで事故っても大抵のキャラはぴんぴんしてたし……あ、でもヒロインは意識不明で入院してたっけ。
ともかくこの世界の法則ではバトルを重ねると肉体がレベルアップして強靭なパワーを手に入れられるらしい。
ただし健全なバトルの方がレベルアップが早く、更に接戦だともっと早いとか。
例外はヤミ札のバトルくらいなもので、あれは一種のレイドバトルとかそう言う類らしい。
その分一人でクリアすると一気にレベルが上がるんだとか。
なおこのレベル、運命力とも直結しているので私と言うイレギュラーがヤミ札関係片っ端から潰していくと主人公たちが出会うヤミ札使いの出番が無くなって詰むという事でその辺は自重している。
カードのモンスターも魔法罠も全部見ればわかるんだけど、キャラクターは網羅できていないから特徴的なのは避けている。
「そうでしたか。では……」
「おっと、どこから出したか知りませんがそういう小細工はダメですよ」
刑事さんが何かを言おうとした瞬間、アリアが眼鏡の女性の腕を捻りあげた。
その手から落ちたのは見たことのないカード。
私が知らないならアニメ限定のカードか、ヤミ札かの二択だ。
そしてこの場合、このシチュエーションで考えられるのはヤミ札だけである。
「ぐっ……」
「カード警察も落ちたものですね。ヤミ札を紛れ込ませて冤罪を作るとは」
「………………」
おっと、刑事さんが黙ってしまった。
表情は能面のようだ。
女性の方は痛そうに、そして悔しそうにうめいている。
「静香さん、ヤミ札にアレを」
「はいはい」
言われるがままに指輪を取り出してヤミ札にあてる。
校則とかで指輪付けてると怒られるから普段は懐に隠してあるんだ。
ちなみに紛失盗難防止で一定以上私から離れると勝手に手元に戻ってくる。
……一度試したけど、左手薬指に戻ってくるのは嫌がらせでしかないよなアリア?
おい、こっちを見ろ。
「さて、尋問のお時間です。誰に命令された」
アリアが怒気全開で二人を睨む。
さすが最高レベルのカードの精霊。
威圧感だけで眩暈がするわ。
これを直に浴びた2人はたじろいでいるし……これが本気じゃないのが何より恐ろしい。
「あぁ、逃がしませんよ? 私はこれでも鼻がきくのでヤミ札の匂いはすぐにわかるんです。お二人からはそれはもう酷い匂いがしていましてね……既に機関にも通報済みです。逃げ場はなし、増援も無し、さてどうします?」
「ならばこうします」
刑事さんがディスクを装着してカードを叩きつけるように召喚した。
このカードも知らない……しかも禍々しい気配を持っている。
間違いなくヤミ札です、本当にありがとうございました。
「静香さん、お願いできますか?」
「えぇ……? どうだろう……」
「大丈夫ですよ。今の静香さんならできます」
「そこまで言うならやってみるけど……部屋とか家具壊れたら弁償してもらえるかな……」
「機関が動いているのでそのくらいはしてくれると思いますよ。なんならWi-Fiとか含めて最新のものに交換してもらえるかもしれませんね。ついでに報酬も出ます」
「そっかぁ……なら【セイントナイツ・アーサー】を召喚! あのモンスターを倒して!」
「てぁっ!」
召喚したアーサーがヤミ札のモンスターに切りかかる。
【セイントナイツ】シリーズのエースともいえるカード、アーサー。
言うまでもなくアーサー王伝説が元ネタで、【ラウンズ】と言う分類としても扱うカードだ。
複数のテーマを一緒のデッキで使えるように作られたカードなのだが……ぶっちゃけた話サーチが容易で召喚条件も緩い【セイントナイツ・アーサー】単体で出張……他のデッキにお呼ばれして使われる事が多いカードだ。
そもそも【ラウンズ】デッキが古くなったカードで、それをリメイクしつつ【ラウンズ】とも併用できるように作られたテーマが【セイントナイツ】だからね。
他の円卓の騎士もカードになっているし【セイントナイツ】になっているんだけど、それぞれが別方面で強いアプローチしているのでテーマで纏めてもいいし、単品で他のデッキに出張してもいい。
そんな扱いを受けている。
「ふっ、【魔神道化師アンサー】は戦闘では破壊されない! 迎え撃て!」
「あ、【飢饉】発動。フィールドのカード一掃します」
刑事さんとアーサーが「え?」みたいな表情でこっち見るけど仕方ないじゃん。
戦闘で破壊されないんだし、これバトルじゃないから。
こうやってカード出して、それをホログラムじゃなく実体化させての戦闘ってのはちょいちょいある事だから。
できるデュエリストは主人公含めても少ないけど。
ついでにアーサーは墓地に言ってこそポテンシャル発揮するし……。
「道化師がこんなにあっさりと……ならば!」
「ダメです。アーサーが効果で墓地に送られた瞬間【ラウンズ】と【セイントナイツ】どちらかの名前が記されたモンスターを可能な限り特殊サモンします」
「え?」
「戦闘した相手を必ず破壊する【ランスロット】、相手に直接攻撃できる【トリスタン】、戦闘効果で破壊されない【ガウェイン】、フィールドを円卓に変える【パーシヴァル】、そして墓地に送られた【アーサー】を特殊サモン。まだやりますか? ちなみに【円卓】のフィールドだと全員攻撃力と打点が上昇します。攻撃力は1500上昇、打点はフィールドの【ラウンズ】と【セイントナイツ】の合計数上昇」
直接攻撃できる【トリスタン】のもともとの打点が0、フィールドの【ラウンズ】【セイントナイツ】【円卓】の名前を持つカードの数だけ打点を上げる上級モンスターだが効果のため低ステータスで攻撃力も低いのがネックだ。
だが【アーサー】と【円卓】の効果で安全にワンキルが狙えるデッキであり、適当に攻撃力が高くて打点がそこそこあるモンスターと一緒に殴れば解決するよねという脳筋殺法である。
ちなみに最大でフィールドにおけるカードの枚数が11枚なのでこいつだけでワンキルも狙えるが脳筋の役目を果たすのが【ランスロット】で、こいつは素で打点5を持っている上に攻撃力は3000だ。
今の【トリスタン】は【円卓】の効果と、フィールドのカード枚数の関係で打点が11になっている。
【セイントナイツ】5体に【円卓】で6点の打点、さらに【円卓】の効果で5の打点を得たためワンキルできる。
当然ながら禁止カードである。
嘆きのワンキルデッキとか言われてたのが懐かしいわ。
ちなみに【トリスタン】がいなくても【ランスロット】が強力だったし、【アーサー】から簡単に召喚できるし、毎ターン自分のターンの間攻撃力が3倍になって打点が上昇し続ける【ガウェイン】という砦もいる。
【パーシヴァル】で円卓を用意したらほぼ負けないデッキとして一時期大会入賞者全員が握っていたデッキでもあった。
「一応説明しておきますけど、【トリスタン】が攻撃したら致死ダメージですよ」
カードが実体化している以上、ダメージも本物になる。
要するにライフを全部削られたら死ぬ。
一応手加減もできるんだけど、精霊にお願いしたところで高打点高攻撃力なのは変わらないので四肢の一本くらい吹き飛ぶことになる。
「降参するならここでやめておいてもいいですけど」
というかやめたい。
殺人とか傷害に対する忌避感じゃなくて狭苦しいから。
そもそも私は自分を害そうとしてきた相手に慈悲をかけてやれるほどやさしくないのです。
主人公たちと違って社会人を経験してきたからね。
セクハラパワハラ上等、全部記録残して労基に提出してやるぜと言うスタンスで成り上がって、そして上層部に貸しがあるよなぁと笑顔で言って課長補佐の立場に居座り続けたのだ。
「……降参します」
刑事さんがディスクを外して、アリアがそれを踏み砕く。
続けて眼鏡の女性の持っていたディスクも同様に踏み砕いた。
多分記録している部分はそのままにしてあるんだろうけど……容赦ないなぁ。
ディスク単体で10万円くらいするのに。
あ、この人達の場合経費かな?
だったらいいか。
「じゃ、トリスタンとアーサーとランスロットだけ残って。みんなお疲れ様」
はい、じゃあ機関とやらが来るまでのんびり待ちますか。
しかし……やっぱり実体化させたモンスターはでかくて場所を取るなぁ。
女子中学生の私室だと圧迫されるわ。




