4話・生贄姫はある日、美丈夫に会いました
ヴィジリタス王家には因習があった。双子が生まれると、片方は王家の守護神ガーゴイルに生贄として捧げられる。それは建国時代から脈々と受け継がれてきた儀式らしい。何の為に始まったかと言えば、この国が生まれた当初、大陸は荒れていた。近隣諸国で領土を広げようと戦争が続き大地は痩せ、自然災害が勃発し、国民は常に飢えていた。それを危惧したある男が、人外の者の力を借りて国を興した。それがヴィジリタス国とされている。それが本当かどうかは分からない。歴史と言うものはいつも後付けで、時の権力者によって書き換えられていくものだからだ。
そして数十年前に王家に双子が生まれてしまった。当時の王は迷わず双子のうち片方を取り上げて乳母に渡した。
「この子はガーゴイルさまへの生贄となる。20歳になるまで心して育てよ」
と、命じた。生贄は20歳になると、ガーゴイルの住処とされているノースデン山の崖から落とされるのだ。生贄となった赤子には名前も付けられずに王宮から追い払われた。生贄の存在を知るのは陛下と、その場に立ち会った乳母。そして王妃の弟であり陛下の腹心とされる宰相のみ。王妃は双子を産み落とすと同時に亡くなっていた。
ノースデン山には、打ち捨てられたような離宮が残されていた。そこは先々代の王女が病弱で静養の為に訪れ、終の棲家となった場所だった。それからこの離宮は誰にも試みられることはなく無人と化していた。その存在を思い出した王は、この離宮へ厄介払いとばかりに生まれたばかりの赤子を乳母付きで、王宮から追い払ったのだ。
離宮で暮らす生贄王女は、自分の身の上を何となく悟っていた。時々、訪ねてくる叔父が使用人達に「宰相さま」と、呼ばれていたのと、彼はいつも自分を前にすると膝を着いて「お変わりはないですか?」と、臣下の礼を取るからだ。
20歳になれば、ガーゴイルに身を捧げることになっている王女に、宰相はお金の無駄だと思うのに教育係を付け、礼儀作法や、知識などを詰め込ませた。教師たちから物覚えが良い、優秀だと報告を受けると我が事のように喜んでいた。
王女から見れば物好きである。どうせ死ぬ者にこのような知識をつけてどうしようと言うのか?
それでも血の繋がりがある家族と無縁の王女にとって、宰相の訪れは嬉しいものであり、彼が訪ねてくる日を心待ちにしていた。王女は赤子の頃から、ノースデン山の中にある離宮で、外部との接触を避けるように育てられていた。離宮には乳母の他に、老いた門番や、老いた料理人、仕える数名の侍女や、下女、下男がいたが皆、年寄りばかり。
乳母以外、使用人達は王女から一線を引いて接していた。その中で直接声をかけてくれて、自分を気にかけてくれる宰相のことを、いつしか王女は、実の父親のように慕っていた。自分が死んでも実の親や兄弟達は何も思わないに違いない。でも、宰相ならば自分が死んだ後も「アーシア」と、いう名の王女が生きていたことを、覚えていてくれるに違いない。それなら自分が今まで生きてきた証となるような気がしていた。
大人しくその生活を甘受し、生贄となる日まであと残り二年。離宮の近くにあるガーゴイルの森を散策していた時のこと。一人の男性に出会った。濃紺の髪に金色の瞳を持つ美丈夫だった。
今まで若いと言えば中年の宰相ぐらいで、他は年寄りしか見たことのない王女は圧倒される美形を前にして見惚れた。
〇いよいよ、陛下とアイオライト公爵の恋物語の始まりです。




