2話・シアと呼んで
「さあ、二人とも座って。お茶を入れるわ」
ノアールと二人で席に着くよう促されて、入れて頂いたお茶は格別な味だった。世界広しとはいえ、女王陛下に直接お茶を入れてもらった人って、何人くらいいるのだろう? と、現実逃避したくなった。
「サーラちゃんは、ノアールとどこで出会ったの?」
「ノアールとは、あ。いえ。ノアールさまとは……」
「まあ、ノアールと呼んでくれているの? いいわよ。ノアールで。普段のように話して」
陛下の問いに答えようとしたら、つい、普段のように彼のことを呼びそうになってしまった。陛下の手前、言い直そうとしたらそれを止められた。気のせいか陛下の頬が緩んでいる気がする。
「はい。あの、ノアールとは、ボーモン子爵家の結婚式の晩に出会いました」
「そうなの? この子は詳しく教えてくれなくて、アコダの姪と会った。その子も一緒に暮らすことになったとしか言わないし、二人の関係が気になっていたのよ」
「陛下。それについては……」
「カルロッタ、分かっているわ。昔から人の恋路を邪魔する者は、馬に蹴られてしまえって、いうものね。邪魔はしないわ。息子のお相手が気になるだけよ」
カルロッタと陛下に注目されて、ノアールは面白くない顔をしていた。実は私達がお互いの気持ちを通じ合わせた後、アコダに馬鹿正直に私と付き合うと告げたノアールは、アコダに殴られた。それにノアールが反撃したことで殴り合いまで発展したのだ。たまたまそこへ訪れたカルロッタの「馬鹿者!」の一喝で、二人は我に返ったものの、あのまま続いていたら……と、思うと怖い。
幸い、二人とも竜人と言う特異体質のせいなのか、殴られた顔は腫れることもなく、痣一つなかった。二人仲良くカルロッタから説教を食らい、その後は憑き物が落ちたようにケロリとしていた。
私には良く分からない原理だけど、体力馬鹿の竜人男性にはあるあるの話らしい。男同士、拳で語り合うとかなんとか? カルロッタは竜人族の男たちは脳筋ばかりだからとため息をついていた。
ノアールはこれについては、カルロッタに対し頭が上がらないようで、私の隣で黙々とお茶を飲み、菓子を摘まんでいた。
「でもね、息子の彼女を招いてお茶をするのがわたくしの夢だったの。こうしてサーラちゃんを招くことが出来て嬉しいわ」
陛下にはいつの間にか「サーラちゃん」呼びされていた。伯母のカルロッタも私をそう呼んでいるので、その影響かも知れない。初めて女王陛下にお会いした時、どことなく強引な印象を受けて、ノアールの母親と知っても、近寄りがたいイメージを勝手に抱いていた。でも、こうしてお誘いを受け話していると、市井のお母さんたちとそう変わらないような気がしてきた。
「わたしも陛下とこのようにお話出来て嬉しいです」
「あら。陛下だなんて見えない壁があるようで嫌だわ。わたくしのことはシアと呼んで」
「ではシアさまと」
陛下の言葉にさすが親子だと思う。ノアールも初めはさん付けして呼んでいた私に、見えない壁を感じて嫌だと言い、呼び捨てを強要してきた。ちらりと隣のノアールを伺うと目が合った。




