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1話・女王陛下とのお茶会

 陽光が差し込むテラス席。そこから望めるのは、幾何学模様に描かれた垣根と手入れの行き届いた花々が彩る庭園。中央には石像で出来た女神と、その足元で戯れているような天使達。素晴らしい景観を前に、私サーラはおもてなしを受けていた。


「今日はね、あなたが焼き菓子が好きと聞いたから、お菓子を用意させたのよ。遠慮なく召し上がれ」


「ありがとうございます」


 目の前のテーブルの上には、マドレーヌや、色鮮やかなマカロンに、カヌレなどが並ぶ。ティーポットを手に、陽光よりも優しく温かな眼差しを向けてくる女王陛下は、気さくなお人だった。直接、お茶まで入れて頂いて恐縮してしまった。


女王陛下についている護衛官はカルロッタのみで、この場にいるのは陛下と私とノアールだけ。今日は以前からお約束のあった(私としては流したつもりだった)陛下のお誘いで、ノアールと二人で王宮に来ていた。


初めはお断りしようと思っていた。庶民育ちの私には場違いだとしか思えなかったから。王宮に入れるのは警備上の問題から、王族に仕える貴族や、一部の特権階級者達だけと聞いている。それなのに何の間違いなのか、私宛に女王陛下から直接お誘いの封書が届いてしまった。ノアールに断ってもらおうとしたのに、なぜか逆に彼に「一度でいいから」と、説得される形で参加することになっていた。


それでもこの国の頂点に立つお方のお招きに応じる礼儀を知らないし、着ていく服がないと言えば、ノアールが「心配いらない。それは自分が用意する」と言い出し、当日には自分好みのレモン色のシンプルなドレスと、同色の靴、そしてアクセサリーが揃っていた。

顔は簡単に薄化粧して、髪の毛は家政婦のビルナが可愛く編み込んでくれた。その上から黄色いリボンが止めてある。耳には月華真珠のイヤリングと、首元には同じく月華真珠のチョーカー。


見覚えのある月華真珠に驚けば、彼がこれは私の流した涙だと言う。それを見て、浜辺で泣いた日のことを想い出した。あのことがきっかけで彼と知り合い、付き合うようになるだなんて。あの頃の私は想像すらしていなかった。


「よく似合っているよ。さあ、お手をどうぞ。私のお姫さま」


 ノアールに煽てられて迎えの馬車に乗り王宮に来たものの、門番からしてすれ違う方々、皆さま毅然としていらっしゃる。さすがは女王陛下の居城。隙のなさそうな人々に感心しつつ、ノアールのエスコートでテラス席にたどり着いた頃には、私のような者が足を踏み入れて良かったのかしら? と、思ったのだけど、そこで待っていた陛下を見て面食らった。


「いらっしゃい。サーラちゃん。ノアール」


女王陛下は質素な装いをしていた。てっきり豪奢な装いで出迎えるかと思ったのに全く違った。どこかの商家のお嬢さんのような感じで、長い髪をリボンで一つに束ねていた。まるで市井の者のように、息子の彼女を出迎える母親として陛下はそこにいた。



「驚いた? これが普段のわたくしの姿よ」


「母さんは、式典や公式の行事以外では手抜きをしている。着飾るのがあまり好きではなくてね」


「あら、行事と言ってもそんなに多くないし。普段から豪奢な衣装や、王冠被って生活していたら肩が凝っちゃうわ」



 唖然とした私の心を見て取ったのか、陛下はふふふと笑った。陛下は質素な生活を好まれるお方のようだ。その姿に好感が持てた。


「サーラちゃんも素敵な装いね。可愛いわ。良く似合っている」


「ありがとうございます。これはみんな……」


「ノアールが用意したのでしょう? センスがいいわね」



 両手を胸元で組む陛下は、市井の母親たちと同じような顔をして私を見ていた。ノアールから服やアクセサリーはプレゼントされたものだと言おうとしたら、全て陛下にはお見通しだったようだ。



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