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9話・ノアールさんは探偵?


 お屋敷の方もあんなことになり、当主であるボーモン子爵が行方不明で見通しが立たない。お屋敷で働いている時に貯金はしてきた。次の就職先を見つけるまでの間、貯金を切り崩していけば何とかなるだろうとは思ったが、ノアールからの提案は魅力的に感じられた。



「いいのですか? そうして頂けるとありがたいですけど……。わたしのようなものでいいのでしょうか?」



 ノアールはお貴族さまだ。私のような者に声をかけても得することはなさそうだ。彼は会ったばかりの私を気遣うくらい優しい人だから、祖母や父を亡くし、唯一の肉親である母親に疎まれ、恋人には裏切られ、頼みとなる仕事先まで失った。そんな私に同情したのかもしれない。



「もともと誰かを雇うつもりではいた。きみに会ってきみを知ったら、きみが最適な気がしてね。強要はしないよ。きみが嫌なようなら無理強いはしたくない」


「仕事の内容は?」


「そうだな、探偵業みたいなものだ。ここにも依頼を受けてやってきた」


「ノアールさんが探偵? お貴族さまが探偵をしているなんて……」



 意外な職種で驚いた。ノアールみたいな人ならば貿易会社の一つや、二つ持っていておかしくないように思えるのだけど。

私の反応が思わしくないように思えたのか、ノアールが聞いてきた。



「どうかな? 嫌なら断ってくれても構わない」


「いえ。嫌じゃないです。探偵の仕事なんてしたことがないので不安です」


「仕事は徐々に覚えて行けばいいから。初めのうちは指導者もつけるし、きみ一人で仕事はさせないよ。給与はひと月25ルゲンではどうかな?」


「25ルゲン?!」


「少ないかな? ではもっと出そう」



 25ルゲンももらえるとは思わなくて驚いた。私はお屋敷で、月15ルゲンで働いていた。他の使用人達はどうか分からない。使用人達から給与に対する不満は耳にしたことがないから、皆は自分よりも多く貰っていたのだとは思う。



「そんなに頂けるとは思わなくて驚きました」


「お屋敷の使用人ならば、初任給が大体そのようなものだと思っていたが……? あとは働きに応じて特別手当もつけるし、給与の昇給もある。どうかな?」



 恐らくノアールの住む屋敷での話だろう。彼のような優しい主人のもとで仕える使用人達が羨ましく思えた。仕事も初めての職種だけど、やりがいがありそうだ。私は彼の下で働きたいと思った。



「よろしくお願い致します。さっそく明日からでも構いません」


「そうかい? じゃあ、きみも色々あって疲れているだろうから今晩はゆっくり体を休めて、明日、日が暮れてから浜辺に来てくれ。そこで待っている」

 


 食い気味に言ったせいか、ノアールは驚いたようだったけど、すぐに採用が決まった。探偵業なんて初めてでどうしたらいいか分からないけど、ノアールについて行けば何も問題ないだろうと、この時の私は割と物事を楽観的に考えていた。なぜ、日暮れに呼び出されたか不審にも思わずに。


〇ノアールは探偵?

彼は何者? フィエロの素性にも詳しそうだけど?

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