10話・泣くことが初仕事?
そして翌日。約束の時間に浜辺に向かうと、ノアールと黒髪の旅装の中年男性が待っていた。ノアールさんだけかと思っていたので、彼が誰かを連れてくるとは思ってもみなかった。連れの男性が黒髪だったのもあり、一瞬、亡くなった父を思い出させた。初めて会ったような気がしない相手だ。この人は誰なのかと思っていると、ノアールが紹介してくれた。
「紹介するよ。彼はアコダ。私の用心棒兼、相棒でもある。彼女はサーラ。これから仕事の助手をしてもらう」
「アコダだ。よろしく」
「初めまして。サーラです」
ノアールからアコダと紹介された男性は、父のようにガタイが良かった。父よりもいくつか年上に見える男性は黒髪に黒目をしていて、目鼻立ちがはっきりしているせいか怖そうな顔に見えた。
──この人と一緒に仕事を?
紹介されたアコダを凝視していると、握手を求められていた。アコダは私を仕事仲間として認めてくれるらしい。大きな手を差し出されていたので、それに応えると屈託のない笑顔と共に、優しく握り返された。思ったよりも怖い人ではなさそうだ。
「サーラ。きみにしてもらいたいことがある。ここで泣いてほしい」
「ここで泣くのですか?」
「ああ。検証が必要だ」
「泣き真似ですか?」
「いいや。涙を流してもらう」
「……!?」
アコダに仕事仲間として受け入れてもらえたようで安堵していたら、その横からとんでもない指示をノアールが出してきた。いきなり泣いて欲しいと言われても……。思わずアコダをみれば苦笑が返ってくる。まさかノアールってとんでもない人だったりする? 就職先、間違えたかも? 内心不安が過る。
「焦ることはない。時間はたっぷりある」
仕事始めが泣くことってどういうこと? おかしくない? これって仕事の依頼と関係あるの? どう考えても関係なさそうな気がする。
「まあ、頑張ってくれ」
頑張ってと言われても、そう簡単に出来ることでもない。マリアナお嬢様なら都合が悪くなると泣いて誤魔化していたけど。私にはできない芸当だ。
「そんな、簡単に涙を流すなんてこと私には出来ません」
「これはきみにしか出来ないことだ。きみが出来なかったら意味がない」
ずいぶんとノアールは私を買ってくれているようだけど、涙は簡単に出るものじゃないよとぼやきたくなった。しばらくどうにか泣こうとしたけれど、全然涙が出る気配はない。目に力を入れようが、欠伸を出して涙を出そうとしたが無理だった。泣きたくもないのに泣くと言うことが、どんなに苦痛なことかこのことでよく分かった。浜辺に無言の時間だけが過ぎていく。すると、黙って様子を見ていたアコダが言った。
「舞台役者は、涙を流すシーンで悲しい出来事を頭に思い浮かべて泣くと聞いたことがある。それを試してみたらどうだ?」
アコダのアドバイスを聞き、参考までにフィエロに振られた日のこと、父やメーラさまのことを思い浮かべていくうちに、段々と悲しくなってきて涙がポロポロ出てきた。
──そうよ。これこれ。泣けた!
と、思いきや、傍でノアールが動きを見せた。私の前にしゃがみこんで何かを拾い上げた。驚きに涙が止まった。




