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40話・竜人は卵で産まれるの?


「竜人は卵で産まれるの?」


「いや、人間とそう変わりない。卵で産まれるのは特殊な事例らしくて……」


「坊ちゃんの場合は、母体を守ろうとしたのじゃろうて。父親は竜人でも相当力が強い。

力ある竜人の子は竜の幼体で生まれやすいが、そうなると母親を傷つけることになるから」



 私の質問に言いよどむノアールに代わり、ロージイが答えてくれた。そこへチムも加わる。



「坊ちゃんの幼体は可愛かったですよ。すぐに誰にでも懐いて。このノースデン山に住む者達は皆、坊ちゃんのことが大好きなのです」



 竜人の本体はアコダで体験済みだけど、幼体ってどんな姿をしているのかな? やはりあの竜体の子供版? みたいなもの? 



「ノアールさんの幼児期ってどんな姿だったのですか?」


「アコダの本性を幼くした形だ。大きさはロージイの乗っているハヤブサくらいだな」

 


 私の問いに答えたのは、青金さまだった。その隣には麗しき女王陛下がいる。



「あの頃は素直で良かった」


「そうそう。ノアールが可愛くて手元に置いて育てたかったのだけど、わたくしの側に置いて育てるには、周囲の理解を得られそうになかったから。泣く泣くこの人に預けたわ」


「それが寧ろ良かったのじゃ。卵から孵っても坊ちゃんは、すぐに人間の姿を取れなかっただろうしのう」


「そうですよ。ここで育った坊ちゃんは伸び伸び育って5歳になる頃には、自然と人の姿を取れるようになりましたが、王都のある王宮で暮らすのは窮屈だったかも知れませんもの」



 残念そうに言う陛下を慰めるように、ロージイやチムが言う。ノアールが王宮で暮らすことが出来なかった事情は、何となく察することが出来た。竜人と人間との間に生まれた彼を守るためだったのだ。陛下の立場を守る為でもあったのだろう。人間である陛下が卵を産んだと知れたら、忌避されるのは当然のこと。恐らく出産の折にはかん口令を敷いたに違いない。そう言えば──と、思う。陛下の在位って今年で何年目だったかと。



「それでも坊ちゃんが生まれたのが、陛下が戴冠される前のことで良かったですよね」


「わたくしとしては、ずっとここで暮らしていたかったわ」



 チムの言葉が引っ掛かる。陛下はここに三人でずっと暮らしていたかったと言っていた。それまで陛下はここで暮らしていた? 青金さまとノアールと三人で?


 このヴィジリタス国の今は平和だが、陛下が戴冠する前は確か、先代陛下が病で倒れ、その後を誰が継ぐかで揉めに揉め、後継者と目される者達が次々と病死や、毒殺、暗殺などで命を落としたと聞いている。


 王家の唯一の王女であった陛下だけが兄弟の中で生き残り、戴冠したのは24年前のこと。私が生まれる前の話だ。


 あとは確か、兄王子だか、弟王子の子供がいたはずだがいずれも幼くて後見人を必要とし、その母親の身分が低いとかで王位にはつけずに、王宮で王子王女として暮らしているとは聞いていた。

 

 王家の普段の生活については公開されていないこともあって、私達国民は陛下の兄弟や親戚さえ、あまりよく知らない。陛下の戴冠でさえ、後から公布されたようだし。そこまでに至る経緯を聞く機会もないし、関心も持っていなかった。雲の上のお人に早々会う機会だってない。自分とは無縁の人と思っていたのに……。人生何があるか分からない。



「わたくしが21歳で戴冠してから早いもので24年が過ぎたのね」


「ノアールは25歳になったか」



 陛下と公爵が感慨深いように言う。二人には私の知らない二人だけの過ごしてきた時間が蘇ってきているようだった。



「早く、あなたも身を固めなさい」


「放っておいてくれ」


「ウベルトもアドリーヌも婚約したのに……。歯がゆいわ」



 そう言いながら陛下は、私を見た。ウベルトやアドリーヌとは確か、王都でよく聞く名前だ。女王陛下の甥や姪で、王宮で暮らしている王女と王子さまだ。二人とも公式の行事で民衆の前に姿を見せることがあり、国民の人気は高かった。



「サーラ嬢もそう思うでしょう?」


「サーラは関係ないだろう?」



 母親に噛みつくように言うノアールを、公爵は楽しそうに見ていた。仲の良い家族の一面が知れた気がした。私も父や母が生きていたのなら、こうして他愛も無いことを口にして笑いあっていただろうか? ほんの少しだけそれが寂しく思われたが、いつの間にか側に来ていたカルロッテに肩を抱かれていた。



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