41話・私のことが怖いか?
「うちのサーラは、いくら相手がノアールさまでもそう簡単には渡しませんよ」
「そうそう。サーラが欲しかったら俺と勝負して勝ってからにしろ。ノアール」
「カルロッテさん。伯父さん」
アコダはカルロッテとは反対側に腰を下ろし、ノアールを威嚇する。私には両親は亡くなっていないけど、その代わり頼もしい伯父さん達がいる。それが泣きたくなるほど嬉しかった。
「あらあら。手ごわい強敵が現れたものね。ノアール」
「母さん」
「アコダに勝ったら、次は我だな」
「何でだよ。親父は関係ないだろう?」
ノアールが文句を言うと、ロージイが竜人の習性ですな。と、お──っ、ほっほっほ。と、特徴的な笑いをし、それにつられて皆が笑った。
翌日。陛下とアイオライト公爵は転移術で一足先に王宮に帰って行った。転移術は魔術を結構、使うものらしく、この国ではアイオライト公爵しか扱えないものらしい。私達は今までお世話になった領主館や、その用意をしてくれた相談役夫妻に礼を言って、地道に馬車で帰ってきた。アコダは不本意かと思ったら、妻のカルロッタと共にいる時間が長くなるとあって好評だったようだ。陛下たちの仲の良さには目も当てられなかったが、こちらは仲が良すぎて二人揃って御者台に行ってしまったので、車内ではノアールと二人きりになってしまった。
今までも何回かノアールと車内で二人きりになったことはある。だけど今日は二人きりでいるのがなぜか気まずいような気がしてきた。その気持ちは何だろう?と、思っていると、窓の外に目を向けていた彼がこちらを見た。彼は先ほどから何か考え事をしていたようだ。
「……私のことが怖いか?」
「どういう意味ですか?」
ふと問われて何のことだか意味が分からなかった。聞き返すと、彼はため息を漏らした。
「私は竜人と人間の間に生まれた者だ。気味が悪いだろう?」
「そんなことを言ったら、私は竜人と人魚の間に生まれた娘ですよ。ノアールさんは私のこと、気味が悪いと思いますか?」
「いや。全然思わない」
「私も同じですよ」
ノアールが考え事をしていたのは、私が自分の正体を知りどのような反応を示すか気になっていたようだ。彼は私がアコダの本体を見て驚いたのを知っているし、こわごわその背に乗ったのを覚えている。
「でも、幼児の頃は幼体だった。嫌だろう?」
「幼体って伯父さんの本体を幼くした感じなのですよね? 大きさもハヤブサくらいだって聞きましたし、可愛いと思いますけど?」
確かに伯父さんの本性を見て驚きはしたものの、それは大きに圧倒されたようなもので、中身が伯父さんだって分かっていたから嫌いではなかった。ただ、あの無茶ぶりな飛行にはついていけなかっただけだ。もしかして竜人の本体を私が怖がっていると誤解させてしまった? 私は竜人の本体を嫌っているわけではないことを伝えようとした。
「伯父さんの場合は、調子に乗って飛行したから、あの飛び方には慣れないというだけで、竜人の本性が嫌いとかはないですよ」
「そうか」
私の言葉に、ノアールは良かったと呟いた。心底、ほっとしたような様子だった。何となく分かるような気がする。私も自覚はないが、竜人と人魚の間に生まれた者だ。彼も人間と竜人の間に生まれたことで、そこに生じる人間との違いに悩んできたのかも知れなかった。私の場合は人間だと思ってずっと暮らしてきたのもあり、自覚もないからその事実を忘れがちだけど。
ノアールは私の雇用主だし、自分が人外の者の血を引いていると知り、私との間に変な距離が出来たら困ると思ったのだろう。その辺りは全然抵抗はない。自分の伯父であるアコダの影響も大きいと思うけど、すぐ側にいる竜人が人間社会に溶け込んでいるのもあって、当たり前のように受け止めている。
「それよりもノアールさんが陛下と青金さまの息子だってことに驚きましたよ。ノアールさんの立場は、アイオライト公爵の子息ということになるのですよね?」
「表向きはそうだ。母が戴冠しなければ、今もノースデン山で父や私と暮らしていたと思う」




