38話・ノアールのご両親は
「サーラに変なことを言うなよ」
「そんなに彼女のことが心配なら一緒に来たらどう? 彼女も王宮なんて場所に来たら委縮しちゃうかもしれないから。そうよ、あなたも一緒にいらっしゃい」
「分かったよ」
機会があればそのうちに……と、自分では話を濁したつもりだったが、陛下は乗り気の様で、ノアールにも参加を呼び掛けていた。ノアールはあっさり承諾? これって陛下のお招きに応じることになってしまったのでは? 何で?
「その時は、我も共に……」
「あら。あなたは駄目よ」
「なぜ?」
「サーラ嬢に目移りしたら困るもの」
「そんなことはない。おまえ一筋だ」
「はいはい」
アイオライト公爵も参加したいと言い出したが、そちらは軽くお断りされていた。それにしても陛下と公爵は随分、仲が良さそうに見える。会話だけ聞いていると、まるで恋人同士のような?
「いい年して、みっともない。少しは人目を気にしろよな」
ノアールの声に、陛下は後ろにいる気まずそうなアコダ達と目が合い、恥ずかしそうに俯いた。アイオライト公爵は逆に堂々としている。
「別に番との仲を、息子ごときにとやかく言われたくはないな」
「息子?」
いま、公爵の口からさりげなく、とんでもない事実が飛び出したような? ノアールを見れば苦笑が返ってくる。まさかとは思いながらも、ノアールが公爵や、陛下に遠慮ない物言いが出来るのはそう言う事?
──ノアールは、女王陛下とアイオライト公爵の息子?
緊張のあまり硬直していた体に、それ以上の負荷がかかったようで足元が揺らいだと思ったら、ノアールの驚く顔が目に入った。
「さ、サーラ?」
「サーラ嬢?」
「「サーラ!」」
今日は色々あったせいか、私の許容範囲を超えてしまったみたいだ。意識が遠のくような気がする。薄れゆく意識の中で、最後に目にしたのは皆の驚く顔と、こちらに向かって手を伸ばすノアールと、倒れこむ前に誰かに受け止めてもらえた様な感覚。それがノアールだと良いなと思いながら、私は意識を手放していた。
「おや。目が覚めましたかな?」
「ロージイさん? ここはロージイさんの家?」
「サーラ。気が付いたか?」
「ノアールさん」
目が覚めると、こちらを窺うロージイとノアールが側にいた。ノアールの手を借りて体を起こすと、天井と壁がオパールで出きている部屋にいた。見覚えのある部屋はロージイ宅のリビングのようだ。ふかふかの絨毯の上に置かれていた、床座椅子の上に寝かされていた。近くには絨毯の上に直接座るアコダ夫妻もいた。
「サーラちゃん。気が付いたのね? 良かった」
「突然、倒れるから心配したぞ」
「迷惑かけてごめんなさい」
「別に謝らなくてもいい」
アコダとカルロッタが心配していた。今まで気を失っていたようだ。自分は非力な方ではないと思っていたが、緊張状態が続く中で思いがけないことが続いたので、体よりも脳の方が一時休止状態に入ってしまったみたいだ。
皆に心配をかけて申し訳なく思っていると、リビングの奥から話し声が聞こえた。




