33話・リョクショウの告白
「わらわは竜胆が亡くなってから、体から出て来た魔石を飲み込んだことで、彼女の記憶を引き継ぎ、彼女が使っていた力も扱えるようになった」
「危惧していたことが起こっていたか」
リョクショウの言葉に、ノアールが呟く。その声を拾った私は聞き返した。
「ノアールさん。どういうこと?」
「竜胆は青金さまに作られた存在だ。彼女には青金さまの力を込めた魔石を与えていた。その魔石から力を得ていた竜胆は、色々と術を扱えるようになっていたのだろう。だから本来ならば、生命力が失われた時点で、ロージイが拾い上げて青金さまの元へ戻すことになっていた」
「だからなのね? 竜胆が亡くなって、後継者がリョクショウになったと聞いたロージイが、慌てて青金さまにどういうことなのか問い合わせようとしたのは?」
「ロージイもそんなことになっていたとは、知らなかったみたいだからな」
「でも、竜胆さんは作られた存在なのに亡くなるの?」
「元は竜胆の花だ。その本体が枯れるか、根腐れすれば生命力は無くなる」
私達が話し込んでいた間に、リョクショウは衝撃的なことを、ブルーノに告げていた。
「つまり、竜胆はあんたに魅了の力を使ったのよ」
「──!?」
その言葉に唖然とした。魅了をリョクショウだけではなく、竜胆も使っていた? ノアールは信じられない顔をする。私は竜胆に一度も会ったことはないけれど、ノアールやアコダ達の話から推測するに、その竜胆は皆に信頼されていたように思えた。
「竜胆はね、あんたの何に興味を惹かれたのか分からないけど、怪我をして倒れていたあんたを魅了して、ここまで連れてきた。そして死ぬまで側に居させた」
「嘘だろう? 僕が魅了されていた?」
今まで押し殺してきた感情をぶつけるように、リョクショウは言い放った。自分が長いこと魅了されていたと知ったブルーノは、顔面蒼白になっていた。
「本当に……?」
「信じたくないでしょうけど、本当よ。竜胆が死んで一度、あんたはパニックになった。多分、竜胆の魅了の力の効力が切れたのだと思う。そこへわらわが上書きで魅了したのよ」
「嘘だ」
「嘘じゃない。いい加減認めなよ。薄々感じていたんじゃないの? 竜胆とわらわが他の人間とは違うことに」
「何を言っているんだ? 竜胆はこの山の管理人として少し魔法が使えるだけで、人間とそう変わりなかった。きみだってそうだ。不思議な力が使えるだけで……」
ブルーノは真っ先に否定した。彼は竜胆や、リョクショウが人外だとは認めたくなかったのだろう。
「僕には記憶がない。記憶を取り戻した時に、自分達と暮らしたことを忘れるだろうと竜胆は言っていた。竜胆とはただの同居人でも、きみを含めて三人で家族のように思ってきたんだ。きみのことは娘のように思っている。そんな嘘はつかないでくれ」
「よく言うよね? 三人家族?」
リョクショウは、悪態をついた。ブルーノは彼女のそんな態度に信じられないような顔をしていた。今まで彼にとっては、多少我儘を言っても可愛い娘のような存在だったリョクショウが、このように直接、非難してくることはなかったのだろう。
「竜胆もあんたのどこか良かったのやら? あんたの為に竜胆は決まりを破って、結界に穴を開けたり、魅了したりしたんじゃない。そしてそれをわらわの母に目撃されて、脅される羽目になった。このことを青金さまに告げ口されたくなかったら、言うことを聞けってね」
馬鹿だよ。どいつもこいつも。と、リョクショウは呟いた。
「その頃、母さんはさ、懇ろな仲になった若い男がいて、その男がこの山の外の世界に行きたがっていたから、付いて行く気でいたらしくて、子供のわらわが邪魔だった。そこで竜胆に、青金さまに告げ口しないことを条件にわらわを押し付けた」
「それは違う。竜胆に聞いた話では、おまえの母は子沢山で育てきれないからおまえを預けたのだと……」
「それは竜胆が嘘を付いたのさ。竜胆はあんたに真相を知られたくなかった。あんたってお人よしだから、自分のせいで竜胆がこの山の決まりを二つも破ったと知ったなら、責任を取るなんて言い出しかねないから」
ノースデン山では、結界破りと魅了は禁忌だったようだ。そうだろう? と、リョクショウは、ブルーノを見た。彼は黙ってしまった。私はその話を聞いていて、胸が詰まるような気がした。実の母親が我が子を邪魔になったからと他人に押し付けるなんて。彼女が竜胆と暮らし始めた背景には、そんな事情があったとは思わなかった。




