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32話・あんただって竜胆に誑かされたのに


 リョクショウはノアールに疑われていると気が付いたようで、私を再び睨む。だから何も言っていないのに。なぜ、私のせいになるの?



「おまえは今、自ら暴露しただろう。『わらわの魅了にかからないなんて……、石工達も正気に戻ってしまったし、考えられるとしたら、おまえのあの変な声のせいに違いない』と」


「それは……、ああ。なんで上手くいかないの?」



 再び、リョクショウから嫌な匂いがした。何か腐ったようなものを、甘ったるい匂いで包み込んだような、私にとっては非常に気持ちの悪い匂いがした。



「残念だが、何度力を使おうとも無理だぞ。私には魅了は効かない。その力で誤魔化そうとしても無駄だ。私はおまえの言いなりにはならないからな」


「ああ。忌々しい。わらわの力が効かないとは」



 リョクショウは石工達を魅了していたらしい。あの腐ったような異様な匂いは、魅了の力を発した時に出る匂いだったようだ。彼女は魅了の力で、石工達を従わせていたようだ。



「リョクショウ。おまえには謹慎しているように忠告したはずだ。それなのに再び、男たちを利用して私達を襲わせる気でもいたか?」


「そうよ。ノアールさまを攫ってくるように言ったのよ。でも、この男どもが拒み始めて……、言うことを聞かなくなったのよ」



 ノアールにねめつけられて、リョクショウは観念したのか、魅了の力で石工に言うことを聞かせて、彼を攫う気だったと白状した。ノアールは呆れたようだった。



「何度も魅了の力を使っていたら、相手の脳も正常ではなくなる。でも、良かった。サーラが洗脳状態を早めに解いたおかげで、彼らの思考はまともに戻った」


「何が良いのよ。わらわの魅了が効かなくなった上に、住んでいた屋敷もボロボロにされて堪ったもんじゃないわ」



 ノアールが廃人になる前に、彼らを救うことが出来て良かったと言えば、リョクショウは本音を暴露した。ここまできて分かったことだが、彼女は身勝手なのだ。自分の思った通りに事が進まないと、泣いて駄々をこねる幼い神経の持ち主かと思っていたら、それは演技をしていたようにも思えてきた。



「あの女のせいでわらわの計画が台無しよ」


「リョクショウ!」



 リョクショウがそう吐き捨てると、ブルーノが近づいてきた。


「何よっ」


「おまえって子は……!」



 ブルーノは手を振り上げた。そしてリョクショウの頬を叩いた。彼女は唖然とした顔をしながら叩かれた頬を摩った。



「な、何するの? ブルーノ」


「何も思わないのか?」


「何を?」


「魅了なんて力を使って、人の心を操るなんて……。竜胆が知ったら嘆くぞ」



 彼女は一度、俯いてから笑い出した。



「あんたってば、竜胆、竜胆。煩いのよ。竜胆が亡くなってから、竜胆を見習えってそればかり」


「……!」


「あんただって、竜胆に誑かされた口じゃない」


「何だと?」


「あんた、考えたことなかったの? わらわがどうして魅了の力を使えるようになったのか、不審に思ったことある?」


「どういう意味だ?」



 リョクショウは、憐れむ目をブルーノに向けていた。


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